2話 これが竜?
ぼんやりと意識が戻ってくる。
あれ、まだ死んでなかったのか?
たしか……エアコンの風に吹かれて……急に激しい痛みに襲われて、倒れ込んで血を垂れ流していたはず…。
なんて思い出しながら、意識が完全に戻る。
(••••••。)
意識が戻った。
ということは、まだ死んでいないんだろう。
なら、ひとまず、落ち着こう。
「ふぅー。はぁー。ふぅー。はぁー。」
っておいおい。
深呼吸は吸う方も大事だろ。
なんで吐いてばっかなんだ。
突然の異常事態の連続に焦っていたのか、俺は深呼吸の仕方すら忘れていた。
「すぅー。はぁー。すぅー。はぁー。」
ようやく、本来の落ち着きを取り戻す。
よし。で、…。
あの痛みの後、一体どうなったんだ?
自力で救急車を呼べたのか…。
いや、それは考えにくい。
指一本すら動かせなかったあの激痛に悶える状態で助けを呼ぶのは不可能だろう。
それで気を失ったのは間違いないけど、今じゃすっかり痛みは消えている。
うん。さっぱり分からない。
こういう時こそ、周りの状況を把握するのが先決だろう。
まずは動くよりも、情報を集めるのが先だ。
周囲を見渡そうとして、目を開けると上下左右後ろ。地面から天井、後方に至るまでの景色が俺の視界へと飛び込んできた。
まるで景色に迫られているような感覚。経験したことない視界の状態に気持ち悪くなり、
「オエェェェェ、、、。」
ただいま、映像が乱れております。
少々、お待ちください。
うん。吐いた。
というか、汚い。最悪だ。
こんな狭い空間で吐いてしまうなんて。
とりあえずここから出たい。
ぼんやりした明るさが空間を照らすドームのような部屋。
俺の部屋じゃないことは確かだった。
(••••••。)
少しの沈黙の後に、違和感に気づく。
いやいや、え?やばくね?
冷静ぶってるけど、だいぶやばくね?
だって自分の部屋じゃないとこに閉じ込められてるってことでしょ?
ここが病院だと言われても信じないよ?
これって拉致だよね?監禁だよね?
すでに慣れた視界で再び周囲を探る。
だが、出口はどこにも見当たらない。
参ったな、どうやって抜け出そう……。
ーーーピシッ!
そう考えていると、天井にヒビが入る。
なんてタイミングの良い!
ーーーピシピシピシッ、パカンッ!
ヒビの入った天井は勢いよく割れ始め、そのまま真っ二つになった。
差し込んだ光に眩しさを感じるも、そんな事は今は気にしていられない。
逃走。
俺の頭の中は、この二文字に支配された。
とりあえず逃げよう、と。
急いでそこから這い出て走り出す。
が、少し走ったところで、また違和感に襲われる。
地を這うような景色に、思わず走るのをやめる。
•••うん。よく考えても考えなくても。こんな低姿勢で人間は走れない。それはほぼ間違いない。
俺は恐る恐る、自分の身体に視線を送った。
手足が地面へと接地、胴体は地面と平行になっている。
四足歩行。それは紛れもない事実だった。
「ギューーーー!!!」
そんな謎の叫び声がこだました。
あれから、現実を受け入れたり受け入れなかったり。
鬱蒼とした緑の中で、かくかくしかじかやってたら、色々分かった。
まぁ、とりあえずこれを見てほしい。
ステータス
名前 : 黒崎慎吾
種族 : 小型劣竜•下位種
称号 : 『竜の末裔』
ユニークスキル : 『生存本能』
竜種固有能力 : 『竜言』『逆鱗』『竜の息吹』
パッシブスキル : なし
アクティブスキル : なし
これを見る限り、どうやら俺は”竜”のようだった。
みんなにも想像しほしい竜の姿を。
空を穿つ二本の角、あらゆるものを噛み砕き切り裂く牙や爪、どんな攻撃も通さない強靭な鱗、身体を支える大きな骨格、空をかける偉大な翼。
そう。そんなモノは何一つないんだよ!!
どう見たって蜥蜴だろこれ!
ト•カ•ゲ!トカゲー!
どこに竜の要素があんるんだよー!
そりゃ小型劣竜•下位種だから小さくて弱いのは仕方ないよ。
ってアホかー!小型で劣ってるのに、さらに下位種ってやりすぎだろー!
でもさ、でもさ。ねぇ~。
「竜の末裔」なんでしょ。
俺が最後の竜ってことでしょ!?
こんなんじゃ竜族絶滅だよ!!
見てほしいこの軟弱な身体を。
角の名残の二つのコブ、小さな爪と牙、柔らかい鱗、弱々しい骨格、胴体にへばりついた翼のような物体。
こんなの詐欺だろーが!
ってのは、かくかくしかじかの部分でもうやった。
だからまぁ、なっちゃったものは仕方ないよ。
曲がりなりにも”竜”だし。
下位種があれば上位種もあるだろう。
小型で劣ってるなら、中型だったり大型だったり、優れた種だってあるはず。
成長したらそれなりに竜っぽくなれるでしょ。
いつかは空も飛べちゃったりして。
あはは。いつかね。
決して自分に言い聞かせてるわけではないよ?(棒読み)
それでも希望はあった。
ユニークスキルの『生存本能』。
というか、あれにはもう助けられた。自暴自棄になって森の中を駆け回っていたら、鳥と魚を合体させたような怪物に遭遇しそうなところをスキルのおかげで回避できた。
そうでなきゃ、たぶん死んでる。
本能がそう叫んでた。目が合ったら死ぬって。
他にも竜種固有能力ってのがあるが、『竜の息吹』しか使えなかった。
『竜言』も『逆鱗』も使おうとしてみたけど使い方が分からない。
竜の言葉なんか知らないし、そもそも話そうとしても『ギュー』とか『ギャー』しか声は出ない。
鱗にしても、現状、俺の体に鱗と呼べる鱗は存在しない。一応探してはみたけど、逆だった鱗もなかった。
まぁ、『竜の息吹』も使えたと言っても、マッチより強い火みたいな光線のようなもの?が口から出ただけだった。漫画のような威力はない。
使えないよりはマシだけどね。
これが竜?
そう思ったのは決して俺だけではないだろう。




