第4話:クインフォード家の実力と誤解
「では――はじめ!」
その声と同時に、
―悪しきものに火の粛清を(fire purge)―
炎が一直線に迫る。
「っ!」
地面を蹴る。
紙一重で躱す。
(速い……!)
詠唱と同時に発動してる。
周囲がどよめく。
「さすがクインフォード家……!」
「完成度が違う……!」
俺は刀を抜き、構えた。
「刀、ね。珍しいわね」
アリスが笑う。
「でも――これならどう?」
―私は火の精霊に愛されている(ラバーズイフリート)―
次の瞬間、彼女の全身が炎に包まれた。
熱が一気に跳ね上がる
「……精霊融合!?」
観衆がざわつく。
(マジかよ……)
ただの炎じゃない。
近づけば焼ける。
「降参しなさい」
アリスが余裕の笑みを浮かべる。
「でなければ――燃え尽きるわよ!」
アリスが地面を蹴る
「……悪いな」
俺は息を吐いた。
「今回は逃げられないんだ」
足に力を込める。
(どうする……)
正面突破は論外。
なら――
―大和流 春の型 春一番―
斬撃を飛ばす。
直後、
炎と衝突し、相殺された。
「遠距離もできるのね」
アリスが目を細める。
「なら、遠慮はいらないわね」
目を閉じる。
(詠唱……!)
チャンスだ。
踏み込む――
その瞬間。
炎が“上から”降ってきた。
「甘いわね」
アリスが目を開く。
「唱えてないと思った?」
舌打ち。
完全に読まれている。
「これで終わりよ」
―地獄の業火を召し上がれ《インフェルノ・ボンアパタイト》―
地面が一瞬で赤く染まる。
溶ける。
足場が崩れる。
さらに――
無数の炎弾が降り注いだ。
「っ、なんだよこれ……!」
全力で走る。
回避。
回避。
回避。
だが、避けるだけで精一杯。
「まだ降参しないの?」
アリスが笑う。
完全に余裕だ。
(このままじゃ削り負ける……)
――なら。
(利用する)
俺は走りながら斬撃を放つ。
―春一番―
―春一番―
炎弾とぶつかり、消える。
「無駄よ」
アリスが言う。
「当たってないもの」
(……それでいい)
走る。
斬る。
刻む。
地面を。
(あと少し……)
「残り30秒!」
試験官の声。
観衆のざわめき。
「よく粘るな……」
「俺なら降参してる」
(だろうな)
だが――
(ここからだ)
―大和流 夏の型 五月雨―
連続斬撃。
さらに地面を削る。
「意味ないって言ってるでしょ!」
アリスが苛立つ。
「当たらないのよ!」
「……まだ早いな」
俺は笑った。
一気に距離を詰める。
「っ!?」
アリスの目が見開かれる。
炎の中へ――突っ込む。
「正気!?」
(正気じゃ勝てないだろ)
そして――
―大和流 夏の型 大波浪―
下から、斬り上げる。
だが、狙いは――
「外した?」
その瞬間。
地面が“崩れた”。
「――え?」
溶けた地面が一気に流れる。
支えを失う。
アリスの体勢が崩れる。
「な……っ!」
(勝ちだ)
「遅い」
詠唱に入る前に、
―春一番―
炎の鎧を吹き飛ばす。
そして――
―夏の型 兜割―
振り下ろす。
「そこまで!」
試験官の声が響いた。
「勝者――春風未来!」
静寂。
そして――
どよめき。
「……何が起きた?」
「地面……操作した?」
「いや、魔術じゃない……」
俺は息を吐いた。
(勝った……)
その瞬間――
ドンッ
背中に衝撃。
「……未来」
ティナだった。
「お疲れ様」
ぎゅっと抱きついてくる。
「死ぬかと思った」
「いや死なないって」
「そういう問題じゃない」
少しむくれる。
「……でも」
顔を寄せる。
「やっぱり、あなたは特別」
(……なんだそれ)
違和感が残る。
だが――
今はいい。
「格好良かった」
「運命の人」
(それまだ言うのかよ)
苦笑する。
その時。
「ああ……」
後ろから声。
振り返ると――
アリスがその場に座り込んでいた。
顔を赤くしている。
「……来ないで、変態」
(まだ言うか)
「いや何もしないって」
「嘘よ!」
立ち上がる。
「私はこれから……あんなことやこんなことを……!」
「しねえって!」
話が通じない。
「……本当に?」
ぴたりと止まる。
「ああ」
「誤解なんだ」
真っ直ぐ言う。
アリスは少しだけ黙り――
「……じゃあ説明しなさい」
手を差し出した。
(やっとか……)
その手を取った瞬間――
ハラッ
布が裂けた。
「……」
「……」
「――やっぱり変態じゃない!!」
「違うって!!」
叫びが響く。
「覚えてなさい!」
アリスは顔を真っ赤にして走り去った。
静寂。
「……はぁ」
ため息が漏れる。
その横で――
「……面白い」
ティナが小さく呟いた。
(ん?)
「やっぱり……壊れない」
その目は――
少しだけ、楽しそうだった。




