最後の人
初めての通話で舞い上がってしまう凰太。
ゲームの中でだけでなく、メールや電話でも、さーちゃんとやり取りをするようになった。
凰太の恋は…始まったのか??
◯登場人物
凰太
39歳
ゲーマー。兵庫県神戸市に住む。
さーちゃん、サエ
?歳
香川県に住む。元は神戸市に住んでいたらしい。
さーちゃんとの通話はあっという間に時間が過ぎていった。楽しい時間って、なんでこんなに早いんだろう。
「あ、おーくん。もう3時やよ、明日も仕事あるけん、そろそろ寝よ?」
「あっ、ほんとや。ごめんこんな遅くなって…話してたらつい楽しくて」
「うん、うん。私も楽しかったよ。またゲームの中でもよろしくね。おやすみ」
「あっ、うん。またね、おやすみ」
次の日も仕事だったが、恥ずかしい話、興奮してなかなか寝れなかった。
◇ ◇ ◇
俺は、それからゲーム内と、メールとの両方でさーちゃんとやり取りをするようになった。
ちなみに、彼女のチームにずっと居座っていたが、いったん戻って、お互いのチーム同士も交流するようになった。
「リーダー、もうあんまりフラフラしてたら、みんなやめちゃうよ〜!?」
俺のチームのメンバーに言われてしまう。あ、一応なんだけど、このゲームでは俺は複数アカウントを持っていたので、彼女のチームにもいながら、自分のチームにもサブアカウントを置き、一応運営はちゃんとはしていたのだ。そのあたりは抜かりない。
「あぁ、ごめんごめん。フラフラっていうか、あれだよ、交流だよ」
まぁ、テキトーな言い訳だけど。というか、正直このゲーム自体も長年やっていて、中だるみにはなっていた。初めの頃は自分のチームを設立したり、仲間を募ってチームを強くしていったり、そのうち強豪チームとの交流もしたり、イベントを企画したりと、色々やったんだが、まぁ結局のところ、色々やりすぎると疲れる。
で、疲れるのはいいとして、たくさんの人と関わるわけだから、色々揉め事もある。
「誰々と誰々、デキてるらしいよ」
そんなんどうでもいいだろ。
「昨日インしてなかったの、実は会ってたらしいよ」
見てたのかって。
俺はそもそも、現実世界でも人と関わることは苦手だから、せめてゲームの世界だけでも、もめることなく平和に過ごしていたかった。
いたかったんだけど…
「おーくん、今日の対戦もカッコよかったよ」
俺はニヤニヤしながら、さーちゃんからのメールを見る。結局、ゲームしたり、たまに電話したり、まぁほとんどゲームの内容だったりするから、ゲームのチャットの代わりに電話で言ってるだけなんだけど。
「私、面白い人好きだな〜」
さーちゃんは、たまに無茶ぶりをする。あとでわかったことだが、ホントに思ったことがすぐ口に出てしまうタイプらしい。まぁこれが後々に良くないことになるわけだが。
この時は、とにかく俺はさーちゃんのことばかり考えていた。
ゲームも別にいつやめてもよかったんだけど、さーちゃんがしてるから、俺もしているという感じだった。
「さーちゃんは、このゲーム好きなん?」
「うん、好き。だって面白いやん」
「そっか…」
たまにフェイントを挟んでみる。
「俺のことは好き?」
「んー、微妙」
「おいっ!」
そういうところは、いつも上手くはぐらかされていた。まぁそういう俺も、あまりそういうことを口に出して言うのは得意ではなかったので、たまにフザケたような感じで言うことしかできなかった。
ゲームの中だったり、メールや電話をしたりしていく中で、俺がはじめに、さーちゃんの声を聞くことで芽生えてきた恋心は、どんどん強くなっていくのを感じた。
そんなある日のやり取りの中、俺はさーちゃんからまぁまぁショックなことを告げられる。
「私、このゲーム内で、付き合ってた人がいたんよ」
「え?それってネット上だけでなく、リアルでってこと?」
「うん、そう。今はもう付き合ってないけど、結構長いこと付き合ってたんちゃうかな」
「そうなんやね…その人のことって、まだ好きやったりするん?」
「んー、どうやろ。もしかしたらそうかも知れない。そうでもないかもしれない」
俺は凄く嫌だった。もちろん、俺はただの友達だ。さーちゃんに何もいう権利はないが。ただそういう話を聞くのが嫌だった。
「その人、東京に住んでて。子供が小さい時やけど、連れて東京まで遊びに行ったこともあったな」
そんな話、聞きたくない。
「そう…なんやね」
「手作りでケーキ作って持っていって。あ、バレンタインの時やったかな」
なんて残酷なんだろう。俺はそんなことを聞きたくて電話してるわけじゃないのに。
でも、ここで俺が怒っても、きっとなんで怒られないとダメなの、ってなるよな。
「今でも、そういう誰かと、付き合ったりしたいと思うことはあるん?」
「わたし、もう恋人なんていらんねん。付き合って…はじめは楽しかったり、色々あっても、結局嫌なことがあったり、別れることになるんやもん。そういうのしんどいやん?」
俺のことは、どう思ってるんだろう?
「俺って、さーちゃんにとってどういう存在…なんかな?」
「うん、好きだよ。人として、っていうか。でも、男の人としてとか、恋人として好きとは違う。前も言ったやん、面白い人好きって」
なんだよそれは。
「じゃあこうしたらいいんちゃうん?これから別れなかったらいいんやろ?さーちゃんにとって、最後の恋人になればいいって、そういうことなんやろ?」
「うん」
「じゃあ…俺がさーちゃんの最後の人になるわ。それでいいやろ」
「メールの画面みて」
さーちゃんに言われて、俺はさーちゃんとのメールの画面を見る。すると「うるうる」というセリフ入りのウサギのスタンプが貼られていた。
「今、こんな気持ち」
どういうことだ。
「すごく嬉しいよ。嬉しいんやけど…私、たぶんすごく臆病になってる」
「臆病?」
「うん。気楽にゲームしたり、何も考えずに喋ったり、楽しく笑ったり。そういうことしてたら、辛いこと考えなくていいやん。でも、誰かを好きになってしまったら、きっと辛い時もあるやん。私が好きになっても、相手が好きじゃなかったら、辛いやん」
まぁ、その通りだ。というか、それって今の俺の状態じゃないか。でも、俺は諦めなかった。
「もし、少しでもさーちゃんが、俺のことを気になってくれてるんやったら。ちょっとずつでもいいから。いきなり好きにならなくてもいいから。俺にチャンスをほしいんやけど」
「チャンス?」
俺にだって、きっと可能性はある。
「だって、好きになれる可能性もあるやんか。もしやけど、俺がさーちゃんの最後の人になれるとしたら、きっと楽しくできると思う。今よりもっと笑えるようになれると思う」
「おーくん。それはきっと、新鮮だから気になるんだよ」
新鮮ってなんだよ。
「新鮮って…なんか刺し身みたいやな」
「もぉ〜!茶化さないで」
「いや、茶化すつもりはないねん。というか新鮮やから好きになるとか、そういうのじゃないで。いきなりどん!ていうデッカイ愛情じゃなくても。少しずつ少しずつ積み重ねていって、最後に死ぬ時にマックスの愛情くらいでもいいんじゃないん?」
「死ぬ時の話とか、しないでほしいんやけど〜」
「ごめん、それは例えばのやつな。でも、はじめからいきなり全力で、少しずつ冷めてくるより、そういうほうが良くないん?」
俺は、自分でも何を言ってるかわかってなかったが、でも、思いつく言葉をさーちゃんにぶつけた。
「うん。ちょっと考えとくね」
せっかく仲良くなった感じでも、
結局いつもはぐらかされたりしてしまう。
そして、ゲーム内に元カレがいたことが発覚し
凰太はショックを隠せない…
凰太は果たして、さーちゃんの最後の人になることができるのか?




