二人のさぬき恋物語
サエの提案で、高松にある栗林公園の夜桜を見に行くことになった二人。
ちゃんとした花見もあまりしたことのない凰太だったが、どんな夜桜デートになるのかな?
◯登場人物
凰太
39歳
ゲーマー。兵庫県神戸市に住む。
沙絵、さーちゃん
42歳
香川県に住む。元は神戸市に住んでいたらしい。
バツイチで、中三の娘がひとりいる。
三月にはチサちゃんも中学を卒業し、四月からは前にも話していた、推薦で入学する私立高校に通うことになる。中学の時は、家の近くから送迎バスが出ていて、学校までの行き帰りを送ってくれていたのだが、高校は列車で通学をする。
ちなみにJR四国の高徳線という、徳島から高松までを繋ぐ路線は電車ではなくディーゼル車(汽車)である。なぜ気づいたかと言うと、線路沿いを走る国道を車で移動していて線路を見ると……電線がなかったのだ。
「え、これって何の動力で走ってるん?」
と、さーちゃんに聞くと
「え、電気じゃないん?」
まぁ気にもならないよな。俺は鉄道とか乗り物が割と好きな方だから気になっただけで、普通に乗ってる人はそんなこと気にしないはず。
話が脱線したが、栗林公園への花見は、まだ春休みの最中だったので、チサちゃんは休みだったが、友達と中学卒業祝いのご飯を食べに行くらしく、二人きりでのデートになった。
栗林公園は高松市の都市部のちょうど西あたりにある、かなり大きな公園だ。栗林公園のある、ちょうど道路向かいに駐車場があるので、そこに車を停めて公園内に入る。
この日は夜桜を見に行くぞ、と気合いも入っていたので、自宅で先にお昼寝を挟んだ上で、ライトアップのあるちょうど18時前くらいに着くように計算して移動した。
公園の外からは中の様子は全然見えなくて、チケットを購入し中に入っていくと、入り口に小さな土産物屋さんがあった。
そして、奥の方にほんのり照らされている桜が見えてくる。
「わっ、めちゃくちゃ綺麗〜!!」
花見自体ろくにしたことない俺なので、もちろん夜桜なんてもっと初めてである。
たまに道端に咲いている桜とか、町中で見かける程度だ。花とか自然とかは好きだけども、人が多いところも苦手なこともあって、わざわざ人の多いところに行くことはしなかった。
今回はさーちゃんが行きたいというのでもちろん特別だ。
でも、栗林公園は凄く広いのと、平日なのと、あと前に行った「まんのう公園」の時と一緒で、暗がりの中だと、人が多少いてもあまり気にならない。それはいいのかなと感じた。
「俺、前も言ったかもやけど。さーちゃんと一緒にいるおかげで、はじめてのことがたくさん増えた気がするわ」
「え、初めてのことがたくさん、ってなーに?」
「んー、俺だけやったら絶対行かないとこに行ったり、食べ物を食べたり、あとは……すごく幸せやな」
さーちゃんが握った手に力を込めた。
「おーくん、私もだよ。私は今まで色々ダメな生き方もしてきたし、それやからってわけじゃないかもやけど、辛い経験とか、痛い思いもたくさんしてきた。でも、おーくんと出会えて……今、すごく幸せだよ」
素直にそう言ってくれるさーちゃんがとても愛しい。俺がこれだけ色んなことをできるようになったのは、こんなにアクティブに動けるようになったのは、さーちゃんのおかげに違いない。
「ありがとうな、さーちゃん」
「すきっ!!」
「いてっ!! ちょっと今回は早くない?」
何が早いかと言うとさーちゃんアタックである。さーちゃんは感極まると、頭とか体とか全身でぶつかってくるのだ。本人はじゃれていると言っている。
「え、早いって何よ。わっ、わっ! おーくん見てみて! 光ってる桜が、池に映って凄い!!」
さーちゃんの指差す方を見て、俺は息をのんだ。
池の水面に向かって、斜めに手を差し伸べるかのような桜の木の枝が光に照らされていて。
たぶんちょうど風もなく、水面も揺れにくい時だったから余計によかったのかもだが、池が鏡のように桜の姿を、そして周りの地上を映しだしていて、ライトアップした桜を更に引き立てていた。
「ちょっと、思ってた以上に綺麗やわ、これは……去年のクリスマスのイルミネーションも綺麗やったけど、夜桜のライトアップも凄いな〜!」
「ほんまやんね! 私、チサがいたこともあるけど、香川に住んでてもあまり観光スポットとか、有名なところとこもそんなには行ってなかったから、私こそおーくんのおかげで、綺麗なところをたくさん知れたよ」
ホントに謙虚だよな。こんな時でも、人によったら自分の手柄だと自賛する人が多いのに、こうやって俺のおかげと言ってくれる。
だから、そんなさーちゃんだからこそ俺は、もっと色々してあげたいと思うんだ。
初めの頃に、知り合ったばかりの頃に、さーちゃんが恋愛に後ろ向きだったのは、今までの経験があるから仕方なかったんだろう。男性のことをそこまで信用できなかったんだろう。
「これからも、一緒に色んな楽しいことしよう。色んな美味しいもの食べよう。一人よりも二人のほうがきっともっと楽しめる。あ、チサちゃんも入れたら三人やな」
「うんっ、チサが高校を卒業するまではなかなか私も自由効かなくて……いつも来てもらってばかりでごめんね。でも、神戸には引っ越しはするつもりやから」
それも、あまり強制はしないでおこう。いつ何が起こるか、チサちゃんの意向もわからないからだ。就職して一人で暮らすのか、進学するのか、それもこれからだ。
「うんうん、三年後に絶対引っ越し、ってあまり気にしすぎんようにな。俺は香川に来ることは負担と思ってないし、むしろそのために頑張れてるから。毎日来れないのはあるけど、それやからこそ楽しみに出来てるのもあるし」
「ありがとう、おーくん。少し寒くなってきたね……」
四月と言っても、まだまだ朝晩はひんやりする。そろそろ公園を出るかな。
「そろそろ公園出ようと思うけど、俺からさーちゃんに、ささやかなんやけどもプレゼントがあるねん」
俺は恒例の、巧妙に隠していた……といっても今回はとても小さな包みだったのでそんなに隠すのは難しくなかったんだが、小さな紙袋をさーちゃんに渡す。
「えっ! どうしたんこれ?」
「一応やけど、俺とさーちゃんが出会ってから、一周年がもう少しやろ? で、ちょうどその頃は仕事の都合でこっち来れなさそうやから、前倒しになっちゃうけど、先に渡しとこうと思って。よかったら見てみて」
さーちゃんは紙袋に入っているものをゆっくり取り出す。
「あっ! ……写真?? すごーい!」
アクリルのスタンドの中に今までさーちゃんと訪れた観光スポットや、食べ物の写真を合成してプリントして作ったものをネットで注文していたのだ。
「アクセサリーとか、食べ物とかも迷ったんやけど、一周年ていうのもあって、俺からのメッセージも込めて、と思って」
アクリルの中に入った写真の空白部分にはメッセージも入れることが出来た。俺は迷わずこの言葉を選んだ。
——ずっと一緒にいような——
そして、下部分の余白には、俺とさーちゃんの名前を入れてもらった。
「ありがとう……おーくん、ありがとう。大好き」
「うん、俺も大好きやで。ずっと一緒やで」
俺は、さーちゃんを抱き締め。そして、おでこにそっとキスをした。さーちゃんのいい匂いがした。
俺は、今までの人生を決して、ぞんざいに生きてきたつもりもなく、それなりに楽しんだりはしてきたと思っていた。
自分の中で思うのは、数年後の未来や、将来のことを考えるあまり、今の自分を殺してしまうことはしたくないと思っていた。
ただ逆に。今さえ良ければいいと、未来のことはわからないから今やりたいことを好き放題して、その時はその時だと。そういう考えも好きではなかった。
さーちゃんと出会えたことで俺は、今までは朧げに考えていただけだったことを、より明確に、より現実に考えることができるようになった気がする。
今のこの瞬間も。そして、これからやって来る未来も。それは傲慢と言われてしまうかもしれないが、両方を俺は求めたい。
キッカケは、たまたまその時にやっていたオンラインゲームの中での、更に偶然の出会い。
でも、そこで出会った人が、生涯を共にする人になることも、もしかしたらあるかもしれない。
ただそれは、可能性を言っているだけで、もちろんこれからどうなるかは誰にもわからない。
だって、俺とさーちゃんの恋物語は、
まだまだ始まったばかりだからだ。
完
じゆうに文庫小説大賞に参加させていただきました、今作はこれで完結となります。
瀬戸内エリアについてのお話ということで、僕自身が兵庫県在住であり、香川県や他の場所にもある程度行ったことがあることもあり、その経験と知識を活かして書いたお話でした。
オンラインゲームで知り合った相手と、恋人になるという、シチュエーションはありきたりかもしれませんが、もしかしたらこういうこともあるのかな? とわくわくしながら、楽しみながら、時には悲しみながら、そして主に香川県がメインの舞台となりましたが、地域の良さを感じとりながら読んでいただけたらいいなと思い書いてみました。
最後まで書き切ることができたのは、共に執筆活動をしている仲間達。そして読んでくださり、リアクションや評価や、感想をくださる読者様のおかげです。ありがとうございました。




