20.あとは一人で
リオントがペンダントの存在のみにこだわる竜だったら、ガロップ達に盗まれたものの中から見付けた時にさっさと持ち帰っていただろう。
いや、街へ入った時点で、リオントにはペンダントの位置がすぐにわかっただろうから、ラメルボに話を通さなくても魔法でさっさと取り戻せば済む。
リオントにはターミスを助ける義理も道理もないし、ルマーナが自分の恋人の思い出に執着して「他の人間はどうでもいい」と思うような竜だったら、大変なことになっていた。
「とにかく、そういうことだから、ペンダントは返してもらうぞ。いやだと言われても、持ち主はこちらだから文句を受け付ける気はないがな」
「本当にお前が竜だ、という証拠は何かあるのか。話をでっち上げるくらい、少し頭が回る奴ならいくらでもできるぞ」
「竜の姿に戻ってもいいけど、そうしたって幻影だーとか何とか言って、信じないんじゃないのか?」
「幻影ではないと俺が納得できれば、信じてやる」
負けたくせに、どうしていつまでも上から目線な物言いなのだろう。
「お前に信じてもらわなくても、俺は全然気にしないけど」
リオントの性格ならそうだろうな、と横で聞いていたシェフレラは思う。クロスカスが何をどう考えようが、リオントにすれば痛くもかゆくもない。
リオントがクロスカスに何か感情を抱くとすれば「おふくろの大切な物を盗みやがって」という怒りくらいだろう。
「本当は、お前も最初からそのペンダントを狙っていたんじゃないのか」
クロスカスは、まだペンダントをあきらめていないらしい。
自分がペンダントから感じた気配を、強い魔力だとまだ信じているのか。それとも、信じたいのか。
何にしろ、しつこいにも程がある。
「もうやめたら? 彼が竜でも人間でも、あんたはリオントに負けたんじゃない。そんなぼろぼろの姿になってるのに、まだ何かするつもり?」
クロスカスのあきらめの悪さにいい加減あきれて、シェフレラはため息をつく。
「やかましいっ。小娘は黙っていろ」
この男に小娘と言われたのは、これで何度目だろう。
確かにクロスカスから見れば「小娘」と呼ばれる年齢ではあるが、なぜこうも偉そうに言われなければならないのか。
これまでのこともあり、シェフレラはがまんできなくなってきた。
「偉そうに言わないでよっ。一発で負けたくせに!」
「!」
自分が一番と勘違いしているこういう輩は、プライドを粉々にしてやるのが一番堪える。
そう睨んだシェフレラは「一発」の部分を強調して怒鳴った。
案の定、今までならすぐに言い返していたクロスカスが詰まる。
「わかってる? リオントは、あんたに攻撃すらしてないのよ。防御しただけ。それなのに、自分は負けたんだってこと、いい加減に自覚してよね。仮にペンダントがリオントのものでなくても、あんたのものでもないってことはさっき認めてたでしょ。だったら、返せなんて言うのは筋違いよ。それと、なかったことみたいにしてるけど、あんたは魔法でターミスを殺そうとした。あたしも一緒にね。殺人未遂の現行犯として役所に突き出すから、覚悟しなさいっ」
「……たかが、ぺーぺーの魔法使いが」
悔し紛れにつぶやくクロスカス。シェフレラは傷の部分を殴ってやろうか、と本気で思った。
「その隣に、ぺーぺーじゃない奴がいるってことを忘れるなよ」
リオントに冷たい視線を向けられ、まだ何か言いたそうにしていたクロスカスだが、あきらめたように首を垂れた。
☆☆☆
シェフレラ達は一旦、ガルビートの村へ戻った。
と言っても、歩いてではなく、リオントの力で一気に村の前まで移動したのだ。ターミスはもちろん、シェフレラもその力に唖然となる。
こんな移動ができる魔法使いなんて、聞いたことがない。しかも、自分だけではなく、大人の男性一人を含めた三人も一緒にだ。
これには、クロスカスも黙るしかなかった。彼にも、こんな術を行えるだけの力はないのだろう。
ターミスを連れて行く時に村人の前から消えて見せたが、あれは人の目をごまかしているだけで、実際はそう遠くへ飛べるような魔法ではないらしい。
実は村の外へ出ただけだった、と後でターミスから聞いた。
盗賊を追う時やクロスカスの所へ行く時にこの力を使わなかったのは、気配を探りながらの移動だったからだ。
今は目的地がはっきりしているので、一瞬の移動である。
村の外にクロスカスを拘束しておき、シェフレラ達は急いでターミスの母フィーエのいる家へ向かう。
息子の姿を見たフィーエは、そのままショック死するんじゃないかと思う程驚いていたが、親子二人で泣きながら再会を喜んだ。
ターミスの家を出ると、シェフレラは村人達に囲まれる。よくターミスを取り返した、とみなが口々にほめ、シェフレラの両親も「お前は自慢の娘だ」と抱き締めた。
「あたしじゃないの。リオントが」
ほとんど、リオントがしてくれたこと。
そう言おうとするのだが、村人達は興奮してシェフレラの言葉など聞いちゃいない。
「あのっ、まだ仕事が残ってるから、もう行くね」
これでは、話などしていられない。シェフレラは両親の抱擁から抜け出し、リオントを連れて、逃げるように村を出た。
「ごめんね。後でちゃんとリオントがしてくれたことだって、みんなに説明するわ」
「いいさ、シェフレラががんばった結果だから。俺は俺で、身内の捜し物をしたついで、みたいなものだし」
リオントは、竜のことや竜のしたことを宣伝するつもりはない。自分達が退治するべき対象にされなければ、人間がどう考えようと構わないのだ。
「さて、あとはディーシャの街へ行けばいいだけだな」
再びリオントの力で、ディーシャの街まで戻る。手も足も出ない、とわかったクロスカスはおとなしいものだ。
二度も長距離を一瞬で移動させられ、リオントが竜であろうとなかろうと叶わない、ということを完全に悟ったらしい。
「俺はここまで。あとはシェフレラに任せるから」
「え、任せるって……」
いきなり放り出されたような気分になる。
「この男がシェフレラやターミスを傷付けようとしたことは、人間が決めたルールに則って裁かれる。俺はそこに入るつもりはないから。名前を出すのは構わないが、事後処理という奴はシェフレラ達の方でやってくれ。俺もそろそろ、このペンダントを持って帰りたいんだ」
ルマーナは、ペンダントが見付かったことをまだ知らない。これ以上落ち込んだままでいさせたら、ルマーナより妹のロリアーナに叱られる。
「そっか。色々助けてくれて、本当にありがとう。リオントはネアトーンの谷にいるって、話してたわよね。それってここから……」
「南。国を二つ隔てた所だ」
馬で走り続けても、二日以上はかかる。
「どこから来たのって聞いた時に、南って話してたけど……そんな遠い所からここまで? あ、リオントならすぐよね」
魔法の移動距離に制限があるのか知らないが、それでも大した時間はかからないだろう。
「ねぇ、また会える?」
「さぁ、どうだろうな」
軽く手を振り、リオントは姿を消した。あっさりしたものだ。彼はじめじめしたことが苦手なのだろう。
あたし、そうそう会えることのない竜に向かって、もしかして大胆なこと言っちゃった? まぁ、いる場所はわかったんだから、いざとなれば会いに行くことだってできるわよね。人間を拒絶してるって訳でもなさそうだし。
人間には過酷な環境だ、という言葉がクロスカスから出ていた。でも、住む訳ではない。訪れるだけなら、シェフレラにだって何とかなるかも知れない。
レムディのように何度もリオントの名を呼んでいれば、会ってくれるだろうか。
そのためにもその地のことを学び、もう少し、いや、もっともっと腕を磨かなければ。
「その前に……うわぁ、大変そう」
クロスカスのことに、ターミスやペンダントの話。忘れかけていたが、ガロップ達のこともある。
リオント抜きでこれらの話をするのは、精神的な重労働だ。
でも、貴重な経験。
「よしっ」
気合いを入れ、シェフレラは力を込めて一歩を踏み出した。





