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魔法使いとペンダント ~それは一体誰のもの?~  作者: 碧衣 奈美


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19.思い出の品

 こんな目に遭って、どうしてクロスカスはあそこまではっきり否定できるのだろう。

 信じられない、というのはわからないでもないが、あれだけ圧倒的な力の差を見せられれば納得できそうなものだ。

 ……単に負けたのが悔しくて、納得したくないだけ、か。

「お前から竜の気配など、全くしないぞ」

 言われてみれば、そうだ。

 シェフレラは竜の気配なんてものは知らないが、リオントからそれっぽい気配を感じられない。仲間の男性魔法使いと変わらない……ような気がする。

「当たり前だろ。竜の気配を出しながら歩いていたら、お前みたいに面倒な奴が何かと口実をつけて近付いて来る。興味だけならいいけど、意味もなく攻撃されたら、俺だって気分が悪い」

 今までそんなことがあったのだろうか。本当にいたとしたら、とんでもない命知らずだ。

 無茶と言うよりは、単なる大バカ者である。たぶん、力試しでもしたかったのだろう。

「お前、さっき自分でも言ってたぞ。魔力の高い奴は、人間から隠れられるって」

「う……」

 リオントが今隠しているのは、姿ではなくその高い魔力、という訳だ。

「じゃあ、おれ……竜の持ち物、売っちまったの……?」

 ターミスが青ざめて、シェフレラの袖を掴んだ。

 気配うんぬんなど、一般人の彼にわかるはずもない。目の前で強さを見せ付けた魔法使いの言葉を、田舎の少年は素直に信じている。

 シェフレラは、ターミスが竜についての知識をどれくらい持っているのか知らない。だが、もし「喰われる」などと思っているとすれば、せっかくクロスカスから逃げられたのに今度こそ終わりだ、なんて考えていたりするのだろうか。

「ん? ああ、そうなるけど、元々はこいつが盗み出したせいで目に触れた訳だから、気にするな。拾ったものを売っただけだ」

 ちゃんと戻って来たから、特にお咎めなし、という訳だ。

 それを聞いてターミスは、そしてシェフレラもほっとする。

「だが、これからは妙なものを拾っても、安易に売るのはやめておけ。お前の事情も、わからなくはないけどな。何かいわく付きのものだったら、呪われたりすることもあるぞ」

 その言葉に、ターミスはまた青ざめながらうなずいた。

 リオントは脅している訳ではなく、これは警告だ。本当にそういうことが起こりうるから。

「リオントが竜なら、お母さんも当然竜よね。竜がそういうペンダントをするものなの? それ、人間用……よね?」

 人間の姿なら身に着けることはできるが、そもそも竜がこういった人間の作る装飾品に興味を示すものなのだろうか。

「竜の性格にもよるだろうな。ただ、これは単なる装飾品じゃなく、おふくろの思い出の品だから」

「その言葉は、今まで何度か聞いたわね。竜の寿命は人間より長いって聞くし、思い入れが強いものがあっても当然だわ」

「まぁ、そうなんだけど。俺の親父は竜にしては早死にした方で、おふくろがかなり落ち込んだんだ。で、叔母が気晴らしに人間の街へ連れ出した」

 いわゆる、傷心旅行だ。

 妹ロリアーナに連れて行かれた先の街で、リオントの母ルマーナはレムディという人間の青年と出会った。特に何が目立つでもない、どこにでもいそうなごく普通の青年だ。

 そのレムディはルマーナに一目惚れし、果敢にアタックしてきたという。

 もちろん、竜のルマーナが人間の気持ちに応えることはない。ただ、どんな種族であれ、真っ直ぐに感情をぶつけられて悪い気はしなかった。

 しかし、ロリアーナに促されたこともあり、ルマーナはその街を後にする。

 ルマーナの後を追ったが森の中で見失ったレムディは、ルマーナの名を呼び続けた。

 森の奥で休んでいたルマーナだったが、自分の名が呼ばれ続けるのをスルーしきれない。人間なら聞こえない声も、多少の距離では竜の彼女に聞こえてしまうのだ。

 あきらめそうにないのでルマーナが姿を現し、自分は人間ではない、と伝えたのだが、それでもレムディはあきらめない。人間ではないことなどどうでもいい、ときっぱり言い放った。

 ちゅうちょなく言い切れるのは、若さゆえか。

 とにかく街へ帰れと言われて一旦は帰ったレムディだが、毎日のように森へ来てはルマーナの名を呼んだ。

 無視すればいいのに、ルマーナも彼の前に現れ、姿を見せればレムディに口説かれる。ロリアーナがそろそろ谷へ帰ろうと言ったが、いきなり消えるのもちょっと……などと言って、ためらった。

 レムディの気持ちは本当に真っ直ぐで、結局ルマーナも彼に惹かれつつあったのだ。

 ある日、レムディはルマーナに赤い石のペンダントを渡した。

「あなたの瞳と同じような青の石がいいかとも思ったけど、その瞳以上に美しいものを見付けられなくて。この赤を見た時、俺の心の炎のように感じたんだ。あなたに持っていてほしい」

 レムディは街で購入した紅玉のペンダントを、ルマーナに渡した。

 美しいが、何の変哲もない紅玉。しかし、そこには確かにレムディの想いが込められている。

 そして、彼はこうも続けた。

「あなたと俺とでは、確かに命の長さは違う。それでも、俺は命ある限り、あなたと一緒にいたい」

 握られた手を、ふりほどくことは簡単。だが、ルマーナはそうできない。同時に、そのまま受け入れることもためらった。

 竜にとって人間の命など、ほんのわずかな時間。

 それでも、この人間と一緒にいたい気持ちは、とうに芽生えていた。

 しかし、すぐに応えることに二の足を踏み、ルマーナは返事を保留にする。

 それ以降、レムディは現れなくなった。

 保留にしたことで怒ったのだろうか、とも思ったが、帰る時に笑顔を向けてくれていた。あの様子なら、いつものように来るだろうに。

 十日経って、ようやくルマーナは「何かおかしい」と思い、街へ向かった。

 そして、知らされる。

 一緒にいたいと思った人間は、あの日帰ってから事故に遭ったのだ、と。

 十日も経っているので、すでに葬儀は終わり、彼の身体は土の下で静かに眠っていて……。

「何もなかったそうだけど、端から見れば恋人と言ってもいい関係だったらしい。でも、その日に返事をしなかったことを悔やんで、おふくろはすっかり引きこもってしまった。竜がずっと抱え込んでいれば、単なるペンダントにだってその気配が染み付く」

 そんな竜の気配を、クロスカスは魔力のように感じ取ってしまったのだ。

「人間にもらったもの……だと」

「ああ。五十年、引きこもってた。竜にとっての五十年なんてそう長いものでもないが、それでも引きこもる時間としてはちょっと長いな」

 見かねたロリアーナが、またルマーナを連れ出した。今度は、人間のいない自然環境の中へ。

 持っていたらレムディを思い出すから、ペンダントは置いて行け、と説得して。

 だが、妹の言葉に素直に従って外へ向かい、少し元気になって戻って来たら、ペンダントが消えていた。……そして、また落ち込む。悪循環だ。

 頭を抱えたロリアーナは、リオントにペンダントを捜して来るように言った。

 このままだとお前の母親は涙の海でおぼれるから、とリオントの返事も聞かずに追い出すようにして。

「幸い、おふくろの気配がしっかり染み付いていたから、どうにか後を追えた。見付かったと思ったら、何だか面倒なことになってたけど」

 ペンダントを置いてあった場所に魔物の気配が残っていたので、物珍しさから盗んだのだろう、と思った。

 だが、追って行くと、どうも人間が絡んでいそうだと気付く。

 どういった過程で人間が手に入れたかまではわからないので、とりあえず状況を把握しようと、ペンダントがあるはずの街へ向かったのだが……。

「何かややこしいことになってるって言ってたけど、人間の事情なんて知ったことか、とはならないのね」

 なっていたら、シェフレラ達はここに立っていない。

「ああ。これがないと、ぼうずが助けられないだろ。このペンダントが原因で誰かの命が失われたと知れば、全然関係がなくてもおふくろがまた落ち込みかねない。私がいつまでもぐずぐずしているからこんなことになった、とか何とか言って」

「竜にも、そういう落ち込みやすい性格があるのね……。だけど、リオントもお母さんも優しい竜で、あたし達は助けられたわ」

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