振り返るな、否(いな)か?
皆さん、ここまでシリーズを楽しんでくれていますか ? これからさらに色々なことが明かされますので、ぜひこの先の展開も楽しみにしていてくださいね!!
夢独居 - 第二章
(場面:仁古が白川郷に到着してから一日が経った。彼は今、馬の猿のいる厩舎にいる。)
仁古: ふぅ〜……。なあ猿、この辺り、ほとんど昔のまんまじゃのう。……けど、こんな雪深かったかの?
(少し沈黙。息を白く吐きながら、ぼんやりと思い返す。)
仁古: ……あいつらを、探しに行くべきか……どうか……。
(少し首を振る。)
仁古: いや、やめとこう。……また、誰かに害が及んだら困るけぇのう。
(視線を落とし、猿のたてがみを撫でながら)
仁古: ……けど、ずっと……考えとったんじゃ。あいつらのことを。……やっぱ挨拶くらい——
???: 「あの〜、あんた……ジンちゃんじゃない?」
(しばしの沈黙。互いに顔を見つめ合う。思い出を探すように。)
仁古: ……あ、ああ。斎藤仁古、じゃ。
天道: やっぱり! その波打つ長い髪、どこにいてもすぐ分かるんだから。ほんっと、目立つよね。
(仁古、眉をひそめる。少し息を整えてから)
仁古: ……お主……**天道**か?
天道: ビンゴ、聖歌隊ボーイ。
仁古: ははっ、久しぶりじゃのう、相方。
天道: 相方? あたし女の子なんだけど。言葉は正しく使いなさい。
仁古: 「相方」っちゅうのは性別関係なく言うんじゃ。
天道: それが言いたいんじゃなくて——もう! 怒らせようとしたのに、なんで逆にやり返すの!?
仁古: え、怒っとるんか? ……いや、怒っとったんか?
天道: ……もう、からかってるでしょ。
仁古: さあのう、どうじゃろ。
天道: もういい。あんたが来るって聞いて、挨拶しに来ただけ。……けど、思ったより……暗い顔してんじゃん。
仁古: ほぉ、ワシが醜うなったっちゅうんか。お主こそどうした、えらい自信じゃのう。
天道: 失礼ね。あたしなら、男のひとりやふたりひざまずかせるくらい朝飯前だよ?
仁古: ワシは男にひざまずかれる趣味はないけぇ、遠慮しとくわ。
(場面転換。二人は村の小道を並んで歩いている。)
天道: で、どうなの? 元気だった? 今まで何してたの? それに、なんでまた白川郷に?
仁古: 質問が多いのう……。答えは、元気。……何もしとらん。……で、まぁ——
(少し間を置く)
仁古: ……探しとるんじゃ。
天道: 何を?
(仁古、少しだけ彼女の顔を見る。けれど目に映るのは何か遠いもの。)
仁古: ……理屈、じゃ。天道。……理屈を、な。
天道: 理屈? 何の?
仁古: わからん。……ただ、逃げることも、戦も、反乱も……もう、うんざりなんじゃ。
ワシは、生きる理由を……見つけたい。
ただ、それだけなんじゃ。
……生きとる意味を、自分で確かめたい。
……誰かに、使い捨てられるような命じゃないって……証明したいんじゃ。
そのためには、今までのワシを捨てて、新しいワシにならんといけん。
天道: ……ふふっ。重たいねぇ。……これ、練習した? 一人でぶつぶつ言ってたでしょ。
仁古: ははっ、猿が全部聞いとるわ。
(ふたり、笑う。けどすぐに静寂が戻る。)
天道: ……きっと見つかるよ。
仁古: ん?
天道: 理屈。……きっと、見つかると思う。
家族を守ることかもしれないし、……美人にご馳走してもらうことかもね。
仁古: はは、そうじゃのう……家族を守ることが、そう思っとった時期もある。
……けど今は、ワシがいない方が……あいつらのためになる気がしてのう。
天道: なんで?
仁古: ……ワシは……失敗作じゃけぇな。
天道: ……はぁ? バカ言うな。
(仁古、ちょっと驚くが笑ってごまかす。)
仁古: ははっ……けどな、チョコ菓子作ってくれる美人がいたら、それも悪くないのう。
天道: はいはい。どうせあんたら男って、美人しか見ないでしょ。
仁古: そんなことあるかい。女は顔より心じゃ。
天道: 口ではそう言うけど、結局一番ケツでかい女に目行くんでしょ。
仁古: ほんなら、ワシがそんなんしとったら、首でも落としてくれ。
天道: 言ったね? その言葉、忘れないよ。
仁古: ふん、覚えとけ。お主、首狙う暇なく一生見張っとることになるぞ。
(再び、沈黙。雪を踏む音だけが響く。)
仁古: ……のう、天道。……あとの二人は、どうしとるんじゃ?
天道は、仁古の重く古風な方言とは対照的な、現代的でテンポの速い標準語を話します。この言語的なコントラストは、テーマ上の重要な道具です。彼女は、仁古が逃れようとしてきた明瞭さ、スピード、そして現実を表しています。彼女が彼の陰鬱さを許さず、**「バカ言うな」**と切り捨てる態度は、彼自身の「失敗作」という内面的な物語に対する絶え間ない挑戦です。彼女の直接的な存在こそが、仁古が探し求めている「理由」を見つけるために必要な、痛みを伴うほどの推進力になるでしょう。




