31話
カーテンの隙間から差し込んだ朝日で目を覚ます。
「朝か…」
ベッドから体を起こし、隣を見るとフェリはまだ寝ていた。
──起こすにはまだ早いか。
私はフェリを起こさないように静かにベッドから下り、洗面所へ行き顔を洗う。その後は特にやる事もない。
時間が来るまで本を読むことにする。
朝の静かな部屋にページをめくる音が心地いい。
キリのいいところまで読み、ふと時計を見るとフェリを起こすのに丁度いい時間だ。
「フェリ~、そろそろ時間だよ」
「……………………もう、そんな時間?」
まだ自分で身支度を整えることに慣れていない彼女を手伝う。
食堂へ行き朝食を食べ、寮を出た所でメルお兄様と一緒になる。
「おはようティア、フェリ」
「「おはようございます」」
他愛ない話をしながら三人で教室に向かう。
◇◇◇
「おはよう。イシュメル、ティア嬢、フェリーチェ嬢」
「おはようございます。エミリアン殿下、カーティス様」
教室に入り席に着くと、先に来ていたエミリアン殿下とカーティス様が声を掛けてくれる。
「ティア嬢は剣術取ってるんだっけ?」
「ええ。私たちの中だと、フェリだけ取ってないんじゃない?」
「ええ。お父様に剣術は取るなと言われてしまい……」
「相変わらず過保護ね。学園在学中くらい、いいと思うけどね」
「フェリは魔法だけで十分だと言われてしまったわ。剣術もやってみたかったのだけれど」
フェリは不満気にそう言った。
──身を守る手段はいくらあってもいいと思うけど、ホントに過保護。フェリもフェリだと思うけど……。
「席に着け~。出席取るぞ~」
先生がやって来てこの話は自然に終わった。
◇◇◇
午前の授業は問題なく終わり。午後の授業も残すは剣術のみとなる。
更衣室で着替えを終え、訓練場へ向かう。
──今日は初めての剣術授業だから、素振りくらいしかしないかな。まあ、一年だと基礎くらいしか習わないだろうな。
訓練場に着くとすでに人が集まっていた。
「ティア」
声を掛けられ振り返ると、メルお兄様とエミリアン殿下、カーティス様が居た。
「女子生徒はやっぱり少ないな」
「そうですね。私を含め三人ですね」
カーティス様が辺りを見渡しながら呟いた言葉に、同じ様に周囲を見渡し答える。
やはり、女子生徒は目立つようだ。
そこへ、剣術の担当教官が現れる。
「全員揃っているな」
低く通る声に、その場の空気が引き締まる。
「今日が初回だ。まずは基礎の確認から始める」
教官の指示に従い、それぞれ木剣を手に取る。
──随分と軽い。これじゃあ、逆に感覚が狂いそう。
そう思った瞬間、無意識に握りを調整していた。それを自覚した途端、小さく笑みがこぼれる。
「それじゃあ、周りと十分間隔を取れ。構えからやるぞ」
教官の声に意識を戻し、言われた通りに周囲と間隔を取り足を開く。
──ああ。この感じ。懐かしいな。
構えを取ると、身体が自然と安定するのがわかる。重心の位置、腕の角度。何も考えなくても定まる。
「次、素振り。各自、十回」
周囲で木剣を振る音が一斉に響き始めた。
それに合わせて私も剣を振り上げる。
ヒュン──。
空気を切る音が、思った以上に鋭く響く。
──あ。
ほんの僅か。本当にその程度、力を抜いたつもりだった。しかし、身体は癖のまま動いてしまっていたらしい。
数人の視線がこちらに向く気配を感じる。
──目立っ……た?
周囲を見渡すと教官と目が合った。確実に認識されてしまった。
教官は口角をわずかに上げた。
「ほう。今の動き、素人の動きじゃないな。誰に習った?」
「…………」
独学。自己流。言い訳はいくらでもある。けれど、師匠から教わったことを、そんな表現で言い表すのは嫌だった。
何も言わない私を数秒見つめ、それから教官は木剣を軽く振った。
「そうか、言いたくないか。……面白い。なら、前に出ろ」
ざわり、と周囲が揺れる。
──え、模擬戦?
予想外の展開に一瞬固まるが、拒否する理由はない。小さく息を吐き、前に出る。
相手に指名されたのは、同年代の中でも体格のいい少年だった。実力もそれなりにあるらしく、周囲から小さな期待の声が上がっている。
──……加減しないと。
目立たない、という当初の目標は諦め、せめて、やりすぎない範囲で収めるしかない。
「始め!」
合図と同時に、相手が踏み込んでくる。
速い。けれど──
──見え過ぎる。
身体が自然に動く。
木剣をわずかにずらし、手首の角度を調整する。打ち合うというより、流す感覚。相手の軌道を逸らしながら、そのまま半歩踏み込む。
トン。
気づいた時には、こちらの木剣が相手の喉元で止まっていた。
静寂。
「……え?」
相手の口から間の抜けた声が漏れる。
周囲も、同じ反応で、何が起きたのか理解できていない。
「……そこまで!」
それから、遅れてざわめきが広がった。
「今の……」「え、何した?」「速……」
驚きの声がほとんどで、敵意はない。ただ純粋な感嘆と、少しの戸惑い。
「すげえ……」
ぽつりと、誰かが呟いた。
──……やっぱり、目立っちゃうよね。
けれど嫌な感じはしなかった。




