14. エピローグ
R. E. B. ベジョ著、「Z世代の革命と24人の首相」、XYZ Press、サクラメント、20XX。
エピローグ、またはあとがきに代えて
これは全て本当のことだ、なんて書き出しはノンフィクションの常套句だ。
それを書いておけば、ありとあらゆる支離滅裂な奇譚でも許される、ノンフィクション・ライターを誘惑してやまない、魔法の書き出しだ。
今回、ウェブ媒体を含めたいくつかの媒体に発表済みの文章を膨らませて本にまとめるにあたり、この書き出しを使いたくなっては思いとどまるということを繰り返した。
それはひとえに、一定量のボリュームに達したこの原稿が、全くもって脈絡のないものにとどまらざるを得なかったからだ。
一冊の本としての統一感のなさについて悩んでいることを、この本を書くにあたっての最大の功労者である午後の最後の首相に吐露したところ、彼はやんわりと口元だけで微笑んだ。
「それは君が、より扇情的な文章をでっちあげればそれでいいと思うような、二流のジャーナリストじゃないってことの証明じゃないか。
事実とインタビューに誠実に向き合い、一つ一つ事実を重ねた結果、ハリウッドの映画みたいに綺麗な結末にならなかったからって落ち込むことはない。」
映画化の権利について、既にいくつかのスタジオから問い合わせが来ていることを私が伝えると、おぼろげだった微笑みが、はっきりとした笑みになる。
「そういうことなら、君のその様子は私にとっては朗報だな。
綺麗な結末で終わらせられないから悩んでいるってことなんだから。
いい原作の本は大抵映像化されたものよりも面白いものだしね。」
そんな具合に、私にプレッシャーをかけるのを楽しむ午後の最後の首相だが、記事や本を書くためのインタビューを重ねていた時の彼の様子はこんな和やかなものではなかった。
初めてインタビューをしたいと申し入れた時の彼は、まだ革命騒ぎのショックが抜けきっていなかったのか、捨てられた野良猫のような目つきをしていた。
独立広場での空の上に打ち上げられた後、ピンボールの玉のように吊り上げられたり、引っ張られたり、思い切りはたかれたりして辿り着いたのは、行くことを希望してもいなかった某国の米軍基地だった。
そこで長く非人道的な事情聴取が行われている最中のリクエストだったので、ショックが抜けきっていなかったのも無理はない。
それからフロリダへ移送され、証人保護プログラムの適応を拒否し、亡命政権の樹立を宣言するようになるまでの間に、何度となく彼の元に通って、インタビューの依頼を繰り返した。
彼が午後の最後の首相になったあの日何が起きたのかに始まり、彼の目から見た革命の背景、彼と革命軍首領との関係性など、インタビューを繰り返すたびに事実が少しずつ明らかになっていった。
それは、時に彼にとって思い出すのも辛いものであり、しつこいインタビュアーの質問にうんざりすることも一度や二度ではなかったはずだ。
この場を借りて、私からの最大限の感謝と尊敬を示したい。
これまで見てきたように、革命の背景には極めて曖昧なところが多く、断言できることが少ない。
午後の最後の首相以外の23人の首相全員が故人となっていることもあり、信頼に足る証言が得られないのも、当時の状況がはっきりしない一因に含まれる。
当時の新聞記事や地方議会の記録などを参考にできるかぎり全体像を把握しようと努めたが限界があり、結局はその多くを午後の最後の首相の元私設秘書官の書いた日記に依ることになった。
その日記の内容については本編でかなり詳しく引用したので、ここで改めて触れることはしないが、まるで自分一人で長年一つの国を動かしてきたかのような自負と、それを裏付けるような権力の強さをそこかしこにうかがわせる記述の詳細さについては、私自身、未だに上手く整理がついていない。
19世紀の王党派と共和派の争いが20世紀のイデオロギー対立にとって代わっていく中で、立場の弱い愛人の息子であるという出自から一族を政治的にも経済的にも掌握するに至った私設秘書官。
その彼が自分の仕える世襲政治家を傀儡にして、流血を辞さずに国の未来を作り上げようとする様は、はっきり言って何かの悪い冗談にしか思えなかった。
政治的主張の対立に端を発する50年続いた内戦の収拾。
熱帯雨林の中の水源を確保するべく国際会議での個人的な中傷を口実に宣戦布告もそこそこに攻め込んできた隣国との停戦交渉。
先進国の資源メジャーが掘り当てた原油と鉱物資源についての利益配分。
それらの一つひとつに世襲政治家が噛んでいて、その世襲政治家の陰にはいつも老私設秘書官がいたことになる。
思想の左右の別を問わずに恩赦を与え、武器を回収し、選挙を実施する。
選挙結果に高まった民衆の不安を逸らすために大した軍備もない隣国を挑発して攻め込ませ、十分に訓練した兵力を用いて迎撃し、短期決戦、早期講和に持ち込む。
先進国の資源メジャーに利益を全て吸い上げられないようにするために、世界中の産油国との連帯を模索しつつ、別の資源メジャーを引き込んで市場の独占を阻止しようする。
どれ一つとってみても、1人の人間が一生かけてできるかどうかという仕事だが、それを全てやってのけたというのがそもそも信じられないことだ。
目立った失敗らしい失敗は、ようやく終わった内戦を二度と起こさないために軍部との協力を模索する中で、不用意に権限を持たせた青年将校がクーデターを起こしたことくらいのもので、結局それも自身が画策した今回の革命騒ぎで、死後まで待たなければならなかったにしても、無事事態を収拾している。
日記の記述から、内戦で発生した難民に対して心を痛めていることが推察されるが、匿名を条件にインタビューに応じてくれた関係者によれば、実際には難民たちを雇用し、自分の手駒として使っていたらしい。
自分の国が直面するおかしな状況に、普通の人びとの運命が翻弄されないようにすべくあらゆる手段を尽くした老私設秘書官だったが、その結果、辛い状況にある人びとに負担を強いることになったのは皮肉なものである。
老私設秘書官の一粒種、午後の最後の首相の秘書官でもあった対米対策特別補佐官にインタビューした際、その辺りの印象について聞いてみたのだが、彼女からは何の返事も得られなかった。
自身の雇い主がヘリで吊り上げられて海の向こうの米軍基地へ拉致されていく間に革命軍に拘束された彼女が、2カ月ほどの取り調べを経て、旧・革命軍、現・革命政府の広報部と外交部の部員に任命されたのは本書で書いた通りである。
その後、対米対策特別補佐官として革命政府の高官となった彼女が渡米してくるタイミングでインタビューを実施したのだが、過去の彼女がいかに考えが足りなかったかという反省と、革命の素晴らしさに関する美辞麗句しか聞き取ることができなかった。
彼女の訪米と同時に革命政府による外国資本出資規制が緩和されたので、その狙いや背景についても聞いたのだか、どんな質問もはぐらかされるばかりで、全くもって実のないインタビューに終わってしまった。
このあたりは筆者である私の実力不足ということになるのかもしれない。
今のところ、私は、彼女の父親についての調査を継続するつもりであるため、彼女とはまた別のところでインタビューをする機会もあるだろう。
その時には、少しでも真実を明らかにできることを願っている。
革命政府は今のところ、そこそこ上手く国を運営していると言っていいだろう。
西側と中国の関心を天秤にかけ、両陣営から莫大な支援を引き出した革命政府はインフラ整備に邁進している。
野心的な農産物収穫量倍増計画と、国際的に求められる気候変動対策を実施するプレッシャーとの間で揺れ動きながら、どうすればより大きな投資を引き付けられるかを国際政治の舞台上で腐心する革命政府首領の姿は、今やすっかりニュースでおなじみの光景になった。
その弟は旧・革命軍の広報担当官だったが、いつの間にか国を代表するタレントのような位置づけになり、最近では鍛え抜かれた上半身をアピールしながら、国産のラムやビールを消費する様子をSNSで発信している。
有名なレゲトンDJのプロデュースでミュージシャンとしてデビューするのもそろそろではないかともっぱらの噂だ。
最後に、本書のカバー写真も含め、多くの貴重な写真を提供してくれたM氏に大きな感謝を。
革命が起こる前から現地に住み込んで、長年にわたり写真を撮影した彼のおかげで、少なくともこれまで出版された関連書籍のどれよりも豊富に視覚情報を盛り込むことができた。
かつて彼に言われた言葉で、本書の原稿を書いていた間、私がよく思い出していた言葉がある。
「綺麗事は口に出すと、途端に綺麗じゃなくなる。」
私の文章が綺麗じゃなくなった、かつての綺麗事に読めてしまうのかどうか、是非彼の感想を聞いてみたいところである。
M氏には、匿名を条件にインタビューにも応じると言ってもらっていたのだが、出版が決定して程なくして連絡が取れなくなってしまった。
まだきちんとお礼もできていないので、この本を見たら是非連絡してほしい。
出版社宛てでも、エージェント宛てでも構わない。
もちろん私に直接でもいい。
電話番号は変わっていないから。
老私設秘書官一代記とか書いたら面白いのかもしれませんね。
あらすじの通り、数話で完結したかったのに、思いがけず14回も書き連ねることになりました。
ブックマークや評価ポイントまでいただき、嬉しかったです。
不定期更新で、スカッとする内容の話でないのにも関わらず、長々とお付き合いいただきありがとうございました。




