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エウリカ首都・ガルナ4

黒い靄となった騎士は後方でその形を元に戻し、こちらを見る。


「――復活がなされてはいないとはいえ、この私を倒せるほどの物とは」


そう感嘆したように言ったかと思うと、笑い始める。

狂ったのだろうかと剣を構えた瞬間にピタリと笑いが止まり、そのまま黒い靄は消えて行った。

あたり一帯を見回すが、黒い騎士はまさしく霧のように消えてしまった。

そのあとに再度、金属音のする足音が耳へと届き、シオンは二人を抱えて走る。

そして、ランバルのいた地下室へと到着する。


「――うぉっなんだなんだ!?」


ランバルは驚き、シオンと抱えられた二人を視線に写し、シオンへと視線を再度移す。


「……ガールズハント?」


「違う……襲われていた、さっきいってたやつの情報を持っていると思う」


「思うって……まぁいいや、大丈夫かアンタら」


「あ、はい……」


「だ、大丈夫よ」


口ではそう言うが、顔は真っ青だ。

水でも飲ませて落ち着かせるべきかとシオンはランバルへと水の場所を問いかける。


「水、どこにあるんだ?」


「ん、あぁ奥に行けばあるから、俺がとってくるからシオンは見ていてくれ」


「えっシオン……?」


「……すまない、俺はアルアではなくシオンだ、おそらく襲われたのはペルア村の問題に関することを知ってしまったからだろうと思われる」


「……つ、つまりあれね、面倒事に巻き込まれた形なのね……いや、イラつくけど、はぁ……」


「おそらく、ファンテッドが怪しい」


「ファンテッドだぁ!?」


いつのまにか水を持ってきたランバルが激昂しながら水を二人に手渡す。


「知っているのか?」


「知っているもなにもねぇぜ!レティシアが……レティシアが……!」


レティシアが何かされたのだろうか、――ゲス野郎なのか。


「イケメンすぎって手紙に書いてきやがった!」


よし、こいつは無視しよう、こいつに重要性のある情報を期待したのが馬鹿だったとシオンはため息をついた。

しかし、この二人が危険な目にあうであろうことはシオン自身の所為だということは理解していた。

明日あたりに知らぬ罪を着せられて指名手配にでもされたら人生が危うい気がする。


「……ランバル」


「ファンテッドの顎をぶち抜き、頬骨を砕き、……おう、なんだ?」


「潜入する……か?」


そう問いかけるとニヤリとランバルは笑みを返す。

悠長なことをいってはいられなくなったのだ、ゆっくりと情報を集めていられる時間は二人を犠牲にすれば手に入るが、できることならそうはしたくない。

ランバルは奥に引っ込むと、すぐに数枚の紙を机の上に広げる。

それは城の見取り図だった。


「ここから侵入する」


城の堀の下にある用水路と思われる場所を指す。


「突撃する」


そのまままっすぐと指を進ませる。


「侵入成功、牢屋に到着するぜ!」


なんだろう、ちゃんと下調べをしてあるというのにこの頭の悪い会話は。


「いくぜ!隠れながらファンテッドのほう、もしくは玉座に突撃!ドカーンバキーン勝利!」


恐ろしく不安なんだが。


「レティシアが抱き着いてくる、俺は『お前が無事でよかったぜ!』とお姫様だっこで帰宅して、次の日は『お楽しみでしたね』と言われる!そしてリゴーンリゴーン教会から純白の衣装をまとったレ――」


もうどうでもいいやとさらに脳内物語を続けるランバルへと耳を傾けることを止めて、シオンは立ち上がる、とりあえず潜入できる経路は知った。


「……待っててくれ、二人が日の光の下に出れるようにしてくるから」


二人の方をみて笑顔でそうシオンは言った。

有言実行を心に決めて、彼は外へと歩く。


「さて」


歩き続けると、ランバルが走って追いかけてくる。

妄想は終わったのだろうかと思いながら、兵士たちの行き交う堀付近を家の影から見渡す。

堀は巡回される程度だ、これなら問題はないだろうとシオンは兵の去った堀を見る。水が張り巡らされている。


「俺、カナヅチなんだ」


「……」


ランバルが真顔でそういってくる、この時ばかりは、貴族として教育を受け、どんな理不尽な戦場でも冷静であったシオンでさえも殴りたいと思った。

ロープを使って、堀の壁に引っかかりそうな場所を見つけてひっかけ、下に降りる。

ランバルは力を抜いてあおむけになり、シオンはそれを引っ張って用水路へと到達する。

少々に臭うが、そのまま歩き続けて牢屋内部へと到着する。

そこにいたのは眼が虚ろな牢人たち。

奥を見ると、牢屋が続いており、その先に強固そうな扉があった。

――用水路から侵入されることも想定済みか。

ランバルをみる、


「想定外だった……!」


うん、もうあれだ、期待しない。

誰か入ってくることを期待しつつ、周りを散策するべきだな、と思っていると、扉から金属音が響き、重い音を立てて扉が開いていった。

金属音は鍵の音か、なんにせよいいタイミングだ。

現れたのは顔立ちの整った豪かな装備をした男。


「ファンテッド!何故、何故!」


あいつがファンテッドか。

奥の牢屋から声が聞こえる。

ファンテッドはその端整な顔立ちを歪めてガンガンと牢屋を蹴りつける。


「ヒャハハハ!何を呻いてんだよゴミクズが!てめぇの娘を奴隷として売り飛ばしてやってもいいんだぜぇ?いやいやぁ美しいからなぁ十分楽しませてもらってからのほうがいいかな?」


小さな悲鳴が聞こえる、視線を移したから、その娘とやらに視線を移したか。

なんにせよ、話を聞いてやる道理はない、話からしてイラだちがこみあげてくる、強く剣を握りシオンは立ち上がる。

近づくと気配でわかったのか、ファンテッドはこちらへと振り向き、剣を構える。


「ハッ勇者気取りか――我が剣の前にひれふベフォッ!?」


刃のない方で首筋に一閃。

顔面から吹き飛び、後転しながら最後に壁にぶつかり、ファンテッドは倒れ伏した。

横を向くと豪華な身なりの……夫婦と娘、だろうか。


「お、お主は」


「名乗るほどのものではない」


保守的に行こう、現状こっちが正義かなんてわかってはいない。

牢屋の人に声をかける。

ペルア村の村人が何人か出てきた。

本当に犯罪をやっていないであろう人物を選び、解放する。

ファンテッドを簀巻きにして、ランバルに渡しておく。


「情報を引き出せるだけよろしく」


「おうよ」


ランバルは簀巻きになったファンテッドの縄にさらに紐をつけてひっぱる。

地面を引きずられるファンテッド、どこまでイケメンに恨みがあるのか、イケメンに親でも殺されたのか。

できることなら王様のほうにも話を聞くとか、証拠品を探すべきだろう。


「ま、まってくれ」


「……はい?」


声を駆けられて振り向くと、声の主はさきほどの豪華な身なりの男。


「お主はこれから何をするのだ……この先にいるのは」


「……真実を暴きに」


話している暇がないので端的に説明し、歩き出す。

向かう先は王の間だ。

ランバルの出した見取り図に道のりが書かれていた、向かう道を急ぐのだが――兵士が一人もいない。

違和感を覚える、しかしそのまま歩き続けると、王の間の扉へと何事もなく到達する。

扉を開ける、中をみると。


「やはり来たか……剣士、貴様の名を言え」


ギザギザのなんかよくわからない生き物がいた。

シオンはいい加減思考回路がショートしそうだった。

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