第5話:上下関係
それから1年後、父母が行方不明になった。作戦は無事成功した。私の専属の使用人、私より3歳年下の女の子、その華奢で小柄な体に私は勢いよく抱き着いた。
「ありがとう!本当に、ありがとう!」
「お、恐れ多いでございます!!」
使用人、いや、使用人ちゃんは、抱き返してくれなかった。けれども、嫌そうでも無く、聖女に対する反抗・不敬であると思ったからか、突っぱねることもしなかった。赤面の童女はワナワナという震えの効果音を発しているかのようであった。私はグリグリと顔をうずめた。弾力のある感触が、私の頭皮や頬の表皮に伝って、使用人ちゃんの肌が跳ねて波打ち、その柔肌が元に戻る時のもっちりとした反発まで、そうした幼気な素肌の感覚さえ、彼女の服の上からでも伝わった。使用人ちゃんの胸板に当たってしまうことがあり、彼女は「ひゃっ」と可愛げな声を上げ、しかし使用人としての立場からか、何事も無かったかのように、愛くるしい声の度に、「んんっ」と咳き込んで、あくまで使用人という立場を振る舞っていた。新しい小さな味方が、教会内にできていた。
その後、私は勇者様から、勇者様の部屋に伺うよう呼び出しのご命令を頂いた。勇者様は、少しお怒りになっていた。足を小刻みにお動かしになられていて、金色の絨毯の下の石床まで靴がコツコツと当たり、その音を何度もお鳴りになっていた。腕を組まれ、あからさまな不機嫌を体現していた。
勇者様のお部屋はただ広いばかりでなく、勇者様のご趣向を凝らされたものになっていて、金製の剣や魔物の剥製、武道大会のメダルの数々が黄色い壁を装飾していた。
3つの光がこの部屋を照らしていた。大きめの窓から差される日の光、シャンデリアから照らされる優しめの橙色の光、そして太陽魔法によって設置された高熱の小型太陽の光。私は、その小型太陽の直下、黄色に鋭照された床の上で、背筋を斜め前に伸ばし、首を少し前のめりに、わざと首筋を歪曲させ項を見せるようにし、頭全体を少し垂れ下げ、顔面は床と平行で、後頭部は天井と平行で、膝同士は密着して綺麗に閉じ、太ももとふくらはぎは間隙なく折り畳まれて、踵から足首の曲線にかけてはまだ変色していない尻とそれからその上の体重をのせて、目線は直下の灰色の床に……今、勇者様は何も仰らないけれど、勇者様のお言葉をいつでも拝聴できるような様式の姿勢で、勇者様の方をきちんと向いて、正面から見れば些細なご命令・ご指示も承る、主人への極限的な尊崇と館の規律への遵守とを美徳とするような、昼に働く使用人というよりは夜に膝つく下っ端な下女の、下命頂く直前の、そんな正座をしていた。灰色の床というのは、座布団やクッションが置かれているというわけではなく、絨毯や何らかの布地が敷かれているというわけでもない。金色の絨毯を敷く前の剥き出しの石の床、いや、硬くて平坦な石のみの無骨な地面を、この絢爛な王宮の床の1つとみなすべきなのかどうか、人が座すのに不適な場所で、膝上丈の白スカート、何も覆われていない私の脛を、床上にそのまま置いて、何の緩衝材も挟まないで、厳格な形式での正座だ。この人工太陽の下とベッドの横、ドア前の床だけが不自然に絨毯が削られており、石の床が剥き出しで、私の定位置になっていた。
勇者様は私に、確かめるようにお尋ねになった。
「君の両親が行方不明になったそうだな。君が、やったな?」
心の中で乾いた笑いが出た。可笑しくて、前に倒れてしまいそうだった。私こそ勇者様に、確かめるようにお伺いしたい。私の幼馴染を殺害し、剰え私の両親をも殺害しようとした犯人は、あなた様でしょう、と。




