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第12話:欠けた魔力と、爆裂の孤独

ある日の午後、ギルドの裏庭。 西日に照らされたその場所で、リリィは一人、使い込まれた古びた杖を抱えるようにして切り株に座っていた。 遠くの空を見つめる彼女の瞳には、いつもなら「お肉、お肉!」とはしゃいでいるはずの無邪気さはなく、驚くほど静かに、そして少しだけ寂しげな横顔を見せている。


俺は、ギルドの解体現場から譲り受けた重さ200キロはある特注の石材を、ダンベル代わりに軽々とカールしながら、彼女の隣にどっかと腰を下ろした。


「リリィ。今日は火加減の練習をしないのか。筋肉も魔力も、一日休めばそれだけ鈍るぞ」 「……おじさん。ねえ、私の魔法、やっぱり変かな?」


リリィは視線を空に向けたまま、消え入りそうな声でポツリと漏らした。 「私ね、小さい頃から『ビッグバン』しか使えなかったの。魔法学校の先生には『魔力回路の欠陥品』って言われたし、村の人たちからは『歩く災厄』って怖がられたよ」


彼女の手が、杖の柄を白くなるほど強く握りしめる。 「お湯を沸かす魔法も、明かりを灯す魔法も、全部『爆発』になっちゃう。……本当は優しくしたいのに、私が何かをしようとすると、全部壊しちゃうんだ。だから、ずっと一人で旅してた。誰かを傷つけて嫌われる前に、逃げなきゃいけないから」


リリィの言葉には、その小さな肩には重すぎる孤独の重圧が詰まっていた。 彼女が初めて出会った時、俺の後ろを迷わずついてきた理由。それは、自分の「破壊」をただの「火加減ミス」と笑い飛ばし、至近距離で爆風を浴びてもなお、ビクともせずに立っていた男に、初めて「壊れない安らぎ」を見出したからだろう。


実は、俺は出会った最初の夜から、彼女が抱えるその怯えに気づいてはいた。


「欠陥品、か。どこの世界でもよくある話だ」 俺は石材を地面に置き、土を払って彼女を正面から見た。


「例えば、人付き合いが異常に強く、誰からも好かれる男がいるとする。だが、そいつは事務仕事の能力が皆無で、簡単な書類一つ作ることすらできない。……他人から見れば『書類を作れない不器用な欠陥品』かもしれないが、それは一つの能力に、己の人生すべてを全振り(フルコミット)した結果だ。お前もそれと同じだ」


「……ぜんふり?」 「そうだ。お前は器用な『便利さ』をすべて捨てて、『究極の一撃』を手に入れた。それは欠陥などではなく、一極集中型の特化スペシャライズだ。不器用なのは、お前が誰よりも真っ直ぐに、その力と向き合ってきた証拠だ」


俺は大きな手を、彼女の煤けた帽子の色が変わるほど優しく――いや、ミスター的には「200キロを扱う力」を極限までセーブした加減で、その頭に置いた。


「お前が壊してしまうものは、俺が全部受け止めてやる。俺の肉体は、お前の爆発ごときで壊れるほど安っぽく鍛えていない」


――俺は知っている。元の世界で、積み上げた信頼が簡単に裏切られる瞬間を。 婚約破棄という形で一方的に愛を断たれ、両親を失い、血の繋がった親戚からも「厄介者」として孤立したあの日の寒さを。形ある心や関係は、魔法よりも脆く、あっけなく爆発して霧散する。


だからこそ、リリィの「全部壊してしまう」という恐怖が、痛いほど理解できた。 この子にだけは、あの時の俺と同じ絶望を味わせたくない。そんな保護欲にも似た、熱い感情がいつしか俺の胸の内に芽生えていた。


リリィが、大きく目を見開く。 「……おじさんの体、本当に壊れない? 私が本気で、どっかーん!ってしても、おじさんはおじさんのまま?」


「ああ。むしろ、お前の爆発を至近距離で耐えることは、俺にとって最高の耐衝撃トレーニングだ。お前の破壊は、俺を強くする糧になる。だから、もう一人で怖がって逃げる必要はない。俺の隣が、お前の定位置だ」


リリィの瞳に、溜まっていた涙がじわりと滲み、頬を伝う。 「……おじさん、やっぱり変だよ。筋肉のことばっかり。……でも、おじさんの手は、世界で一番あったかいね」


彼女は、俺の太い前腕にしがみつくように顔を埋め、小さく、しかし確かな幸せを噛みしめるように笑った。 「私、おじさんのために、もっと美味しいお肉焼けるようになるね。……あと、いつかおじさんをびっくりさせるくらいの、もっとおっきなビッグバンも見せてあげる!」


「……それは、勘弁してほしいがな。ギルドへの弁償で、俺の鶏肉代が消えてしまう」


夕闇が裏庭を包み込む中、リリィの小さな笑い声と、俺が再び石材を上げる規則的な呼気音が響き続けた。彼女の持つ「災厄」という名の孤独は、このパーティにおいて、誰にも壊せない「希望」へと、その形を変えようとしていた。


ふと、俺の脳裏に一つの疑問が浮かんだ。 これほどまでに達観し、かつ重い過去を背負って旅をしてきたのだ。この幼い外見に反して、意外と年齢はいっているのかもしれない。


「……ところで、リリィ。お前は何歳なんだ?」


俺の問いに、リリィは腕の中から顔を上げ、屈託のない笑顔で答えた。


「私?? 16歳だよ!!」


「!!!????」


俺の腕の中で、200キロの石材が音を立てて転がった。 じゅうろくさい。……16歳だと? 俺は絶句した。この、俺の肘くらいまでしか身長がない、どう見ても小学生並みに小柄な少女が、あと数年もすれば立派な成人(この世界の基準で)だというのか。


(おじさん……俺は、16歳の少女に『おじさん』と呼ばれていたのか……!?)


俺は現在25歳だ。 9歳差。世間一般で見れば、兄と妹、あるいはせいぜい従兄妹くらいの年齢差ではないか。 これまで「幼い子供を守る父親」のような、あるいは「迷える子羊を導く賢者」のような気分で説法を垂れていた自分が、急激に恥ずかしくなってきた。


「ど、どうしたのおじさん? お口、あんぐり開いてるよ?」 「……いや、なんでもない。ただ、少しだけ……プロテインの配合を見直す必要があると思っただけだ」


俺は震える手で石材を拾い上げた。 彼女を守るという決意に嘘はない。だが、リリィが16歳という事実は、俺の「おじさん」というメンタル・ブロックに深刻なダメージを与えた。


「おじさん、お顔赤いよ? お熱? 魔法で冷やしてあげようか? ひんやりした冬の夜明け……」 「やめろ! それは絶対爆発するやつだろ!!」


夕闇の中、俺たちの騒がしい声が響く。 リリィの孤独は癒えたかもしれないが、俺の「年齢に関する自意識」には、新たな、そして巨大な負荷ストレスが加わったのだった。

イリス…その、お前の年齢って…


ミスター?それ以上言葉を発すると、後悔するわよ


3人「「「・・・・」」」

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