《ROUND2−3》立ち食いそばと信念と食の拘り
―――玲王・舞・龍青の三人で結成されたゲーミングチーム《ビースト・ハーツ・ファイターズ》。
新たな必殺技システム『EXコマンド』習得の為、初心者の玲王に拳華成闘の基礎を教えるという師範の課題に向き合う龍青と舞、だったが……?
「全く……訳が分からん。あんな野生児に何を教えてやると言うんだ。やってられん!」
苛立つ反動で、サンドバッグを脚で蹴り出す龍青。
玲王は舞のスパーリングにも退屈し、龍青が取り出した棒に興味を持って逃げ出す始末。どう足掻いてもお手上げな状態で……
「何が、“やってられん”のや?」
「豪樹先輩……」
龍青に声を掛ける龍青達の先輩、高橋豪樹。彼も拳華成闘で腕を慣らしたゲーム拳士の一人だが、今は『ヘラクレス』の中間管理職を任せられている。故に、龍青達の今起きている苦悩も見て見ぬふりは出来ない。そこで彼は提案した。
「身体は鍛えてても、慣れない頭使ってたら腹減ってなぁ。昼食、付き合うてくれっか? ワイの奢りや」
〚SETTING...〛
――豪樹に連れてかれた龍青が向かったのは、東京は銀座。
この大都会の街並みの片隅に暖簾を出して、外から鰹出汁の匂いを醸し出してお客を誘う立ち食いの蕎麦屋がありました。
今や駅のホーム等で、時間に追われたサラリーマン達が腹を満たしに来る立ち食いそば。
豪樹達が向かった蕎麦屋は立ち食い型ではあるものの、固定型の丸椅子が用意されていた。二人は丸椅子のあるカウンターに座り、前金制で二人前の蕎麦を注文する。
「奢りの割には値段が安い気がしますが? 一人前で600円とは」
「アホ、安さと旨さは比例も反比例もあれへん。それに、立ち食い蕎麦は調理も早いしな。ほら……」
等と豪樹が説く間に、既にカウンターには二人分の蕎麦が並んでいた。生麺にお湯を潜らせて、トッピングの具材を乗せるだけの僅か2分半。
これが仕事に追われる方々には有難い仕様。美味い・速い・安いの三拍子で豪樹にとっては行きつけの店であった。
麺を伸ばす前に、早速蕎麦を啜る二人。丁寧に口を運ぶ龍青と、豪快に麺を吸い尽くす豪樹。食のタイプが異なる二人の蕎麦にもう一つ異なるものが。
「先輩……蕎麦にコロッケを入れるんですか?」
豪樹の蕎麦の器に、大判のように大きいコロッケが一つ乗っている。これには麺通の龍青もイロモノを見るような目で引いていた。
「なんや、コロッケ蕎麦を知らんとはまだまだやな。龍青こそ、トッピング無しの麺だけで満たされるんか?」
「蕎麦は汁と麺を楽しむものでしょう? トッピングで彩りとか味変しても、わたしにとっては女の化粧を濃くするような気がするんです」
あくまでも蕎麦は麺が主役であり、具材は要らないと主張する龍青。
「……ま、ワイも前までは龍青と同じ意見やった。関西生まれからすりゃ、蕎麦にコロッケ入れる奴の気がしれんと思ってたわ。おっちゃん、玉子追加や」
豪樹は龍青の意見に同調しつつ、追加注文した生玉子を渋顔の店長が器に落とす。それを掻き回して、更に蕎麦を頬張った。
「そーいや。EXコマンドを習得する為に、玲王に拳華成闘を教えるって課題はどうなったんや?」
豪樹はある程度麺を食べ終えた所で、話題を変えて話す。
「あんな身体が頑丈なだけが取り柄の奴に、何を教えたって無駄ですよ。わたしの美学に反します」
「ふーん。じゃあお前は、玲王に負けたって事になる訳や。降参宣言か?」
「!?」
意地悪にも、負けず嫌いな龍青の性格を逆撫でるように豪樹は煽り、それに反応する龍青。でも彼は言い返せなかった。豪樹の言い分は間違っていないと分かっていたから。
「……あのさ、拳華成闘に挑む上で……いや、ゲーム拳士にとって、一番大事なことってのは何なんや?」
豪樹の問いには、龍青は直ぐに返した。
「舞は、【心】ことだって言ってました」
「ほんじゃ、龍青は?」
「わたしは、【技】です」
「えぇやん。龍青らしゅうて、芯が通っとる」
“技”こそ、自分の矜持であり誇り。そこは譲れず、自信有り気に応える龍青。
「でも、他にもあるんとちゃうか? プライドとか拘りとか難しいこと抜きに、根本的に、めちゃくちゃ簡単なものや」
これに関しては、龍青は答えに困った。彼の代わりに豪樹がその答えを出す。
「それはな―――“楽しむこと”や。
拳華成闘だけやない、飯を食うことにおいても楽しむ。そいつは何物にも勝る強さの要なんやで」
「…………」
拳士の強さの先に“努力”があるのなら、その“努力”の要になるのが“楽しむ”ということ。豪樹はそうマスター・金剛に教えられていました。
偏見や拘りに縛られず、己の思うがままに突き進む。
努力によって絞られる“苦労”や“忍耐”すらも、楽しみに変えられたら……自分自身をもっと変えられるのかも知れない。
「さっきのやり取り聞いてたで。玲王が棒の技をやりたい言うたんやろ? だったら、そっから教えるのもアリなんちゃうかな。とにかく今は拳華成闘を……いや、格闘ゲームを好きになって貰わな」
「好きになる、事からか……」
自分の美学に拘り、偏見に縛られていた龍青の心に揺らぎが見えた。
想い更ける彼の蕎麦の器に、いつのまにか一枚のコロッケが乗っていた。
「……何ですか、これは」
「何って、コロッケ蕎麦のコロッケやがな。麺が無くても蕎麦の汁をそいつに染み込ませると美味いでぇ! 騙された思うて食うてみぃ」
それに対して断ろうと思った龍青。しかし食の流儀として、先輩から奢られ、食べ物をお裾分けされた際には断れない主義である。
渋々とコロッケを蕎麦の甘辛い醤油つゆに浸し、衣が崩れない程度で引き出して一口食べてみると……
「―――美味い……!!」
コロッケは揚げたて。まだ衣がサクサクの状態で蕎麦のつゆを浸した事で、衣の中のジャガイモの甘さと甘辛いつゆとで絶妙にマッチしていく!
残り少ない蕎麦の麺も後から啜る事で、余韻を余すことなく愉しんでいった龍青。
「コロッケにはラードで揚げてると思っていたが、そうではない。植物油だ。その油と蕎麦の汁が調和して麺と具の味を邪魔せずに、むしろ高め合っているのか! これは興味深いぞ!」
(始まった。料理人気質の独り言。味のうるさい龍青の興味をコロッケ蕎麦で惹いてやったで!)
豪樹の目論見は見事に当たり、顔で笑いながらも心では握り拳でガッツポーズだ。
「こんな食べ方、わたしの故郷ではあり得なかった……! 面白い……!!」
「どうや? 工夫一つで、飯もこんなに楽しめるやろ? 拳華成闘もそない変わらんで。お前なら、玲王を楽しませられる!」
「先輩……!」
「そうとくりゃ、善は急げや。早う玲王の所へ行ってやんな!」
先輩に諭された龍青は、一目散に彼等の所へと突っ走っていく。
「……さて、蕎麦もワイの仕事も締めやな。美味かったで、おっちゃん!」
そして豪樹も、トレーナーの上着を肩に掛けて、休憩後のサラリーマンのように背中で語り、店を出ようと―――
「お客さん。さっきの追加コロッケ二枚と、生玉子の代金まだ払ってないんだけど」
「………………すんません」
〚Coming Soon…〛
――TIPS――
【食材・料理リスト】
No.002『コロッケ蕎麦』
・明治創業の東京・銀座「そば所 よし田」が発祥。
当時は鶏ひき肉と山芋の「鶏しんじょ」という和風の練り物を乗せていた。
つゆに浸ったコロッケの衣の食感と、ジャガイモの甘みが出汁に溶け込む味わいが特徴。主に東京や関東地方の駅そばなどで大人気!




