あとがきと、これから。(+裏話)
約2年ほどかかってしまいましたが、『蒼頡の言霊』というひとつの作品を、第8障まで無事に書き終えることができました。ここまで読んでくださった皆様、本当に本当にありがとうございます。
第8障の最後で次の新たな展開への布石をきちんと打つことができましたので、勝手ではございますが、無印タイトルである『蒼頡の言霊』はこれを第一部という形で、一旦この章をもちまして完結とさせていただきたいと思います。
不定期更新かつテンポの悪い更新速度で、読者の皆様は大変読みづらかったことと思い、申し訳なく思っております。何より自分自身がとっても歯痒く感じており、しかし焦る気持ちとは裏腹に現状はのろのろと亀のような更新を続けておりました。もっと早く書きたい気持ちと、集中できない、書けないジレンマの間で葛藤する日々を送っておりました。遅筆で大変申し訳ありませんでした。
『蒼頡の言霊』という作品は、私が生まれて初めて書いた長編小説になります。
ここから先はあとがきということで、物語の主人公である蒼頡についての裏話と、同じくもう一人の主人公、与次郎についての裏話、そしてこれからの『蒼頡の言霊』について、以下に少し記述していきたいと思います。ここから先は小説の内容のネタバレを含みます。興味があるという方のみ、良かったら続きをご覧いただければと思います。
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【蒼頡について】
蒼頡とは、約4000年前に漢字を発明したとされている、中国の伝説上の人物の名前です。
『蒼頡の言霊』では、主人公の蒼頡はその伝説の人物の生まれ変わりという設定で、江戸時代初期に活躍する優れた陰陽師として、伝説上の彼のイメージを崩さないよう、名前とキャラクター性をそのまま維持した形で物語上に引用いたしました。
伝説上の蒼頡は、中国を統治した五帝の最初の帝であるとされる「黄帝」に仕える史官であり、人並み外れた鋭い観察眼を持っておりました。この世の事象や物事のより深い部分を読み取ることができた聡明な人物とされ、そのあまりの眼識の鋭さから、彼の人物画は目が倍の四つで描かれていることが多く、優れた賢者だったと伝えられています。
紀元前の中国の思想書『淮南子』には、『蒼頡が文字を発明した時、天は粟を降らせ、鬼は夜に声を上げて哭いた』と記されています。
この文の解釈は、いくつかあるようです。穀物である粟は文明と豊かさの象徴なのですが、文字によって一部の人々が耕作を棄ててしまったため、それによって人々の食糧が不足することを天が心配し、人民のために粟を降らせたとする説が伝えられています。あるいは、文字を知ったことで人間は打算的になり、私利私欲にまみれるようになり、それを憐れに思って天が粟を降らせ、人々に恵みをもたらしたという説もあります。鬼に関しては、漢字が発明されたことによって文書の読み書きが発達し、賢人たちが鬼を追いやる術を互いに共有できるようになったことから、人々の知恵によって外界に追いやられ居場所の無くなった鬼たちが、夜中に嘆き悲しんだという説が伝えられています。
他にも様々な説があるようですが、私の個人的な意見としましては、天が粟を降らせたのは、蒼頡が文字を発明したことにより、人類がこの先、文字によって凄まじい発展を遂げていくであろうことを喜び称える、天からの予祝(前祝)だったのではないかな、と感じました。そして鬼が哭いたというのは、文字が発明される以前の人々の知識では到底理解ができなかった、人間に次々と襲いかかってくる病気や天災などの恐ろしい出来事が、文字によって人と人とのコミュニケーションが活発化し、人類が知恵をつけたことによって徐々にその謎が解明されていき、人々が鬼と位置付けていた怪異のことを、必要以上に恐れなくなったことへのメタファーでは無いかなと考えました。
とにかく、蒼頡という人物は漢字を発明した伝説上の人物なのですが、私は蒼頡を主人公にした物語を、実はずっと以前から書きたいなと思っておりました。
元々漢字が好きで、特定の漢字の成り立ちをたまに調べたりして、「この漢字にはこういう意味があったのか」と思うことが昔からよくありました。漢字一文字の中に、意外と深い物語がいくつも隠れているぞと、常々感じておりました。物語の途中で与次郎の名前について蒼頡が説明しているシーンがありますが、与次郎だけでなく、普段何気なく使っている漢字一文字一文字の中に、何らかの物語や深い意味が実は隠されているのです。漢字って掘り下げていくと本当に面白いなと、実はずっと前から思っていたのです。
しかし、では蒼頡という人物と「漢字」というキーワードを使ってどうやって物語を作り上げていこうか、色々と悩みました。
漢字を操る、という単純な発想しかできずに悶々としていたところ、ある時、与次郎伝説の存在を知ったのです。
【与次郎について】
どんな物語を書こうか漠然と考えていたある時、ふと、飛脚が主人公の話を書いてみたいなと思ったことがありました。
このご時世となって、気軽に外出することが難しくなってしまいましたが、それでも配達員さんのお陰で商品や郵便物が無事に届けられていることって、改めてありがたいことだよなあと何気なく思ったのがきっかけでした。
全国のあちこちへ荷物を運び「ありがとうございました」と笑顔を向けてくれる配達員さんたちの健気な姿にある時胸を打たれて、「配達といえば飛脚だな」という安直な発想から、飛脚が活躍する話を書いてみたいなと思ったわけです。しかしただの飛脚では物語として面白みにかけますので、例えば重要な任務を請け負った常人と違う優れた飛脚なら、スピード感もあり道中ではらはらどきどきの展開を繰り広げられ、書いていて自分自身も楽しいのではないかと考えました。それで、飛脚について調べましたところ、伝説の飛脚・妖狐与次郎伝説の物語を、ネットの情報で知ったのです。
最初、蒼頡と与次郎は全く別の物と考えており、それぞれの物語の主人公として別々で活躍させるつもりでした。が、しかし与次郎伝説を色々と読み解いていくうちに、ある時、与次郎を蒼頡の式神にして、バディで組ませようと思い立ちました。そこから与次郎伝説に蒼頡を寄せて、あれよあれよといった感じで、ひとつの物語をあっという間に書き上げることができたのです。点と点が線で繋がるってこういうことか、と身をもって実感することができた、初めての作品となりました。
【作品のこれからについて】
これからについてですが、『蒼頡の言霊・第二部』を、現在執筆しているところでございます。はい。実はこの物語、まだまだ続きます!笑
だいぶ長くなることは覚悟の上で、続きの方をまたしっかりと書いていきたいと思っております。
第8障の最後の方で、西王母が蒼頡に課した三つの条件が出てきましたが、この三つの条件、当然ではございますが、蒼頡は全て解決いたします。そして、囚われた静の腹の中の和子についても、フラグの方、しっかりと回収させていただきます。(歴史好きの方はもう、この赤子が誰であるかは、おわかりですね)
第二部についてですが、ある程度仕上がるまで時間をいただこうと思っております。定期更新ができるよう、書き溜めます。早くて8月の盆休みぐらいまでには書き上げるつもりでおりますが、あくまで予定ですので実際の投稿時期はもう少し先になるかもしれません。なるべく早く更新できるよう、今まで以上に気合を入れて、作品を無事に書き上げようと思っております。
ということで、以上が作品の裏話的なお話と、これからの投稿についてのお話でございました。
正直、まさか自分がここまで小説を書くことになろうとは数年前までは思ってもいなかったので、とりあえず第一部完結という形でひとつの作品の区切りを迎えられることができただけでも、自分的には本当に、大大大満足な結果でございます。物語はまだまだ全然終わっていないのですが、とりあえず一旦区切りをつけることができたことで、今は少し、ほっとしております。
しかし、この作品は第二部からがいよいよ本番となっております。おそらく第一部以上に苦しんで書くことになると思いますが、頑張って、楽しんで書きたいと思います。
以上になります。ここまで読んでいただき、本当に有難うございました。
よろしければ、2023年8月更新予定、『蒼頡の言霊・第二部 ~華胥之国編~』も、どうぞ、よろしくお願いいたします。
それでは、また。ありがとうございました。
逸見マオ




