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助けた女性は・・・

「あっ、あなたは誰ですか!? 私は一体どうなって……」


 目覚めた女性が俺に警戒心を向けてくる。そりゃまぁ、そうだろうよ、と。気絶する前はどうだったのか知らないが、目覚めてみれば薄暗いテントの中、見知らぬ男と二人っきり。


 俺が彼女でも当然警戒するし、もしかしたら襲い掛かるかもしれない。


 ああ、そういえば、この女性に隷属魔法をかけるのを忘れていた。「さっきまで気絶していたいたいけな女性を奴隷にするつもりか? 血も涙もないのか?」とか言われそうだが、全く構わない。

 

 この世界じゃ、隙を見せれば死につながるからな。いくら慎重に非情に行動してもし足りない。今この瞬間、この女性が仮に魔術師だったとして、そのまま攻撃魔法を使われたら死ぬのは俺かもしれないんだ。

 

 というわけで、女性の問いに答えることよりまずは隷属魔法だ。

 

「私の質問に答えなさいよ!」

「隷属魔法 発動」

「えっ?」

 

 くくく、随分と素っ頓狂な声を上げるじゃないか。


 さて、ここまでしてようやく俺は女性をまじまじと見た。歳は10代後半くらいか? 茶色い髪に黒い眼。なかなか可愛い。

 

 髪の色はともかくグリードの黒い目と同じということは、やはりグリードと同じ民族なのか? と思ってしまう。

 

 そして、どうやら俺がかけた隷属魔法に気づいたようだ。この魔法は主人に対して敵意を向ける、または攻撃する、それ以外にも欺くような対応をすると、その程度に応じて奴隷の体に痛みが生じる。

 

「身の危険を感じたのでお前に対して隷属魔法をかけさせてもらった。お前は既に俺の奴隷だ。」

 

「ほっ、本当に?? ねぇ、見ず知らずの女の子をいきなり奴隷にするなんて外道もいいところよ。早くこの魔法を解除して!」

 

「おいおい……こっちは見ての通り非力な青年だぞ? お前に襲い掛かられてはひとたまりもないわ。それにだ、命の恩人にさっきから随分と失礼じゃないか?」

 

「ア……」

 

 ようやく、気絶する前のことを思い出したようだ。口が止まり、次第に顔色が悪くなり、ガタガタと震えだす。

 

「わっ、私は…… 私はぁぁぁ…… うぐっ、えっぐ、ふぐぅぅぅぅ」

 

 ついにはその場にへたりこんで泣き始めてしまった。無理もない。俺もあんな状態の女性を目の当たりにしたのは初めてだ。この女生とは知らない関係だが、だとしてもゴブリン達に怒りがわく。

 

「そのゴブリン達は皆殺しにした。だからもう安心して寝ていいぞ。」

 

 だが、返ってきた答えは予想していたものとは全く違ったものだった。

 

「殺して……」

 

「は?」

 

「殺してよっ! 殺しなさいよ! いいえ、殺してくださいっ!」

 

「……」

 

「大勢のゴブリン達に嬲られ、凌辱されたわ。もう私は生きていけない…… それに…… わかるでしょ? きっとこのお腹の中にはあいつらのッ!」

 

 ボロボロと女性の目から涙がこぼれる。

 

 男の俺には想像もつかない辛い辛い思いをしたのだろう。さらに、俺には彼女の体の傷は癒せても、恐らくお腹の中のものまではどうしようもない。

 

 まさに、身も心もボロボロの状態の彼女にかける言葉を俺は持ち合わせなかった。

 

 とはいえ、死なれてもらっては困るのもまた事実。この地の情報を俺は全く知らない。彼女がいるということはこの周辺に集落の一つや二つはきっとあるに違いない。せめてそこまでの情報を彼女から得て、集落にたどり着かなければ、こんな殺伐とした生活をいつまで続けなければならないのかと途方に暮れてしまう。

 

 だが、今の彼女に「集落まで案内しろ」なんて言っても無理だろう。それに、万が一ゴブリンの子供なんて身ごもろうものならそれこそどんな言葉を使っても彼女は死を選ぶと思われる。

 

 隷属魔法で自殺を禁止することもできなくはないが、それはいくら俺でも非情すぎるだろう。

 

「おい、失礼極まるだろうが、月のものは次はいつごろだ?」

 

「うっぐ、ひっく、なによいきなり、うっぐ」

 

「お前が身ごもっているかどうかは、その月のものが来るかどうかで判断できるだろうが。その時、もしそうだったなら、俺が楽に殺してやる。約束しよう。」

 

「えっぐ、えっぐ、ほんとぅ?」

 

 懇願するように俺を見つめてくる女性に対し、俺はゆっくりと頷く。

 

「約束する。」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」

  

 俺の胸に飛びつき、盛大に泣く女性を受け止める。その夜は彼女を慰めるのに手いっぱいでろくに寝ることはできなかった。

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