07-想定外の再会
人生の目標。
あまりにも壮大な字面だが、考えてみればどうということはない。
「今日こそはお前から三本取ってみせるぞ、ダリル!」
「なんだよ、いつもより気合入ってるじゃねえか! おもしれえ!」
生きているいま。刹那の時間。その時々、様々な物が自分にぶつかって来る。障害、戦友、選択。どう選ぶか、それが目標だ。障害を乗り越えるためにやるべきこと、それを考えることが、生きていくということなのだろう。
もっとも気合を入れたからと言って、勝てるようにはならないわけで。
「二本目は危なかったな、ダリル。機動性の差に助けられたな」
「違いますゥー、実力ですゥー。おんなじ機体でやっても負けませんー」
三本先取はまだ遠いようだ。ダリルはバウルよりも天生体としての自分を使いこなしている。一日の長があるということであり、そして天生体の特性は直感的な操作を可能とするマルテの性質によく合致している。まるで、天生体が出て来ることを予め予見していたかのような作りになっているのだ。
(さて、どう動けば勝てるのか。直線的な攻撃では対応出来ない……寄られたら完璧に負けるだろうし。うーん、これは宿題だな。考えどころだ、バウル)
そして、目標を越えるために試行錯誤を続ける過程は、楽しい。久方ぶりに感じる生の充足感。いま、バウルは生きるのが楽しくて仕方ない。
(たった一つの目標だけに絞ることはない。言われた通りだな、イリーナ。目標があって、そのために生きるっていうのは、楽しいもんだ)
シミュレーター訓練を終え、昼食へ。
心地よい疲労感とともに休息へ――
そんな風に思っていると、警報が鳴り響いた。
だが、いつものものとは違う。
『南西5Km先から救難信号を受信しました。民間の物資輸送船、盗賊たちに追われているようです。機動兵器パイロットはハンガーへ、第二種戦闘配備で待機』
オペレーターのフォルカが滑らかな口調で言う。ミーアの件で頭を悩ませていたようだが、取り敢えず働けるくらいには回復したようだった。
「救難信号、受けるんですか? 俺たちは天使を倒すために……」
「自衛と、船乗りを守るために戦うのは例外的に許可されているからな。それに、目的地はこの先だ。どうあったってかち合うことになるだろうからな」
そういうものか、と思いバウルは納得した。バルカーの整備は完了しており、しかも第一回の出撃を経て得られたデータから調整が成されていた。
「少しずつ、キミ好みの機体が出来上がっていくと思うよ」
「それは楽しみだ。ここで死ななければ、もっといい機体が出来るのか」
ニッ、とバウルは頬を歪ませる。整備員のシズルは驚いた。
「キミからそんな発言があるとはね。任せておいてくれよ。バウルくん」
コンディション、オールグリーン。発進。今回はミーアが謹慎中のため、ダリルとラウ、それからバウルの三人で出撃することになる。敵機が輸送船にまとわりついているため、艦砲による援護は不能。機動兵器戦がカギになる。
『ガトリングで敵を散らし、そこをお前たちが食い破る。つまり……』
「いつも通りということですね、隊長。突っ込むタイミングは任せるぞ」
『合点承知! タイミング間違えて、俺ごと撃ったりするんじゃねえぞ!』
敵ごと撃ってもお前なら避けるだろう、と言いかけたがやめた。
(それにしても、船を襲撃か。この短時間に、よくもまあ何度も遭うものだ)
つまりは、それだけ世界が混乱しているのだろう。奪うよりも買うのが簡単ならば、誰も盗賊になど身を落としはしない。どうあっても富を得ることが出来ない人間が一定数おり、この悲劇的な連鎖が止まらないのだろう。
(もっとも、俺は撃って止めることしか出来んがな……!)
ラウのゼブルスが重い駆動音を響かせながら砂漠を走る。重力制御によって生み出された滑らかな機動性、機械ではなく人が走っているかのようだ。砂丘の手前に差し掛かろうかというところで、跳躍。高高度でラウはガトリングガンを展開した。毎分六百発にも及ぶ圧倒的な鉄量が砂漠に突き刺さり、土柱を上げた。
『データリンク、完了。地形データ、及び機体データを送ります』
機体のモニターに戦場地図が表示される。敵と味方に色分けされ、リアルタイムの動きさえも克明に表示される。輸送船側も頑張ってはいるが、数の差が大きい。バトルウェアとAA二機では倍以上の数で取り付いて来る敵機に対応出来ないだろう。バウルはミサイルの照準をセット、展開せぬままに発射した。
肩部ミサイルポッドから白い尾を引いてミサイルが発射される。直角に放たれたミサイルは空中で軌道を九十度以上変え、敵機に飛来する。殿としてついていた数機がそれに反応、アサルトライフルでミサイルを迎撃する。
『オラオラオラオラオラァーッ!』
ダリルの猿叫がスピーカー越しに響き、うるさい。高速度で強襲を仕掛け、ダリルは瞬く間に敵のAAを切り裂く。いくつもの火柱が戦場に立った。
『こちらアルタイル社、貴殿らを援護する』
『助かります。こちらでは手が足りなかったので』
船の防衛隊長とラウが言葉を交わす。
思わず、バウルはハッとなった。
「この、声は……まさか、どうして、こいつがこんなところに……!」
聞こえて来たのは、ムスタファ・クガニエルの声に相違なかった。




