*二
受け取った伝票を隠すように握り、その男性は事務所のパソコンに向かっていた。
礼御にきつくあたり、姫菜が毛嫌いするあの男性スタッフ――今後物語に関係しないので名をあげたりはしない――である。
伝票にはバーコードが描きこまれている。それをリーダーで読み込むと、その伝票を発行したときに使用した会員証の情報を見ることができるのである。
たとえばお金を払わずに逃げた客などがいた場合、これがとても役に立つ。伝票さえ残っていれば、その利用客の情報を知り、警察に渡すこともできるためだ。
そうは言っても、この方法は特定の人間にしか教えられていないものであり、礼御と姫菜は存在は知るものの技術としては知らないのである。
その男性スタッフはひっそりとバーコードを読み取った。
まさか、とは思うものの、もしかしたら自分のミスで高校生を入店させたかもしれない。そんな懸念があったためだ。
ピッ、と端的な電子音が鳴り、利用客の情報がパソコンの画面に表示される。
名前、生年月日、住所、電話番号はもちろん、入店時間や入店手続きを誰がしたかまで記録として残っているのだ。
と、男性スタッフはドキリと一瞬身体を硬直させた。
入店手続きをしたのは、自分であった。
「……やばいな」
そう小さく呟き、しかし次には解せない情報が目に入った。
名前:山田 小太郎
性別:女
生年月日:1968 / 3 / 22
など。
「なんだこりゃ」
見れば見るほど、会員情報がめちゃくちゃだった。
名前からして性別がおかしい。住所もこの店がある場所からずいぶん離れていて、それだけならまだしもどうやら住所と郵便番号が一致していないようにも思う。電話番号もヘンテコで、0120から始まっていた。
加えて、この情報と実際にこの会員証を利用している人物の情報とがまったく一致しないことにも気がついた。
「あいつは高校生って言っていたが……」
どう考えても高校生と間違える年齢ではない。
男性スタッフはじっと画面を見て、考え込んだ。
会員証の情報をパソコンに打ち込む際に、誤って打ち込んだんだろうか。
いや、それにしてはミスが多すぎる。性別を間違えるだけなら単なるミスかもしれないが、さすがにこの電話番号はないだろう。
そして彼は思った。不審な人物の入店手続きをした身として、どうにも腑に落ちないことがある。
そういえば姫菜ちゃんは一人カラオケだどうだと言っていたか。……だけど、50近いオッサン(?)が一人で来たか? ……いいや。来ていなかったぞ。
姫菜と礼御が疑問視した存在が、ますます怪しくなったのは事実であった。
「……別にいいや。俺のときに問題が起きなくてよかった」
小馬鹿にした笑に乗せて、その男性スタッフは伝票を丸めてゴミ箱に投げ込むのだった。