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店から出た礼御は重い荷物を抱え、気だるい足取りで帰路につこうとしていた。
が、そんな中、ふと視線の先に見覚えのある姿を捉えてしまった。
「……まじかよ」
魔術師と名乗った少年、亜草根 世葉である。
どうやら彼は何かもっと前方のモノに目を尖らせているようだ。一体なんだ。そう思った礼御が、その先を見てみると――。
「……おいおい。まじかよ」
一瞬彼は躊躇った。見て見ぬふりをしていまおう。そう思ったのだ。
当然だろう。
自分は魔術師ではない、まがいモノ。そして自分を守ってくる存在も今はない。加えて玉藻は亜草根 世葉について魔術師の中でも異常だと評価を下したのだ。さらには、水保もまた関わるのはやめておけと忠告したではないか。
そう。ここは見て見ぬふりをするのが正しいのだ。
礼御はそのように判断した。判断したのだが、それに従うことができなかった。
自身の目の間に現れた異常な魔術師。
季節外れの桜を咲かせた魔術。
礼御の中にある大きな二つのわだかまり。その両方が一度に目の前に現れてしまった。
魔術師、亜草根 世葉と桜の魔術。もしかすると関係があるのでは?
そう思ってしまうと、礼御はこのまま家に帰ることができなかった。
魔術師の跡を追う。もしも手に負えない自体だというのなら、そのときこそ逃げればいい。
そんなことを思いながら、礼御はストーキングを始めた。
人を追跡することなんて初めてだった礼御である。早々に気づかれてしまうのでは、と懸念していたのだが、どうやらその心配は必要なさそうだ。
目の前の少年もまた、桜を頭から生やす男性の追跡に集中しているようだ。
いくら魔術師を名乗ったからといって、そう名乗ったモノすべてが完璧を装うモノではないのだろう。亜草根 世葉は少年である。魔術師としては優秀なのかもしれないが、追跡は玄人とは言えないのだろう。年相応に、どこか抜けている。
礼御には彼がそう見えた。
礼御自身は気がついていないが、それもまた彼が見て見ぬふりができない理由の一つになったことは事実である。
「どうする……かなぁ」
礼御はそう呟くものの、立ち止まることはなく彼らを追った。
辺りには人が多い。これは追跡には都合が良かったのだが、どうにもそれだけを見て良かったとは言えない。
目を凝らし、礼御は魔術師が追う男を見る。
桃色の花を咲かせた枝が頭から伸びている。ふらつき、それでも歩く彼。たびたび頭がぐらりと揺れると、桜の花びら数枚が名残惜しそうに散った。かと思うと、それらは急激に何かに吸い寄せられる。いや、語弊はあるが桜の花びらが襲いかかるといった方がむしろ適当かもしれない。
その先には辺りを歩く一般人。桃色の花びらがその者達に入っていったのだ。
礼御に悪寒が走る。蛟の水保は「触るな」と言った。それに触ってしまった、障られてしまった人達。
瞬間には何も変化はないようで、それでもじっと見てみると人の頭部には相応しくない緑の葉が芽吹くのだ。
これはいけない。
礼御は改めてそう思った。
それだけでも無視できないとさえ思う彼は、加えて自分を一度襲った魔術師、亜草根 世葉の存在により、すでに引き返せないところまで来ていたのだった。
わきまえている。自覚している。それらを理解してもいる。
それでも目の前で魔術に囚われた一般人を放っておくことは難しい。一度誰かに相談することが正しいのだろうが、それでもなお今の先を追ってしまう。
と、そのときである。状況が移った。
魔術師が突如歩速を上げ、桜の枝を生やした男性に近寄った。
「!」
何をしようとしているのか、もしくは何をしたのか。それを確認するため礼御も出来る限り自然に足を早め彼らに近寄ったのだ。
遠目でよくわからない。よくわからないが、あの魔術師が何をするかなんて予想できなくもないだろう。
桜を生やした男性は、もとより気の抜けた歩調であったのだが、このときより一層おかしくなった。わずかであるが、ぐにゃりと身体が曲がる。それを支えるように、魔術師は男の半肩を担いだ。
傍から見ると、少年が男性を介抱しているようにも見えなくもない。
「……魔術を使ったな」
そのくらいは礼御でも察しがついた。
亜草根 世葉。長寿たる玉藻が認める、数奇な魔術を使う少年。
彼は一体何モノか。
あの桜の魔術とどういった関係があるのか。
確かめなければならない。
それはどちらとも関わりをもってしまった礼御の意地とも呼べる決意なのだろう。いや、もしくは自分より年下の魔術師に身動きすら取れなかったあの一件より産まれた、自尊心の叫びかもしれない。
そして彼らは人ごみを外れ、閑散とした川原に向かう。




