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玉藻前の尾探し譚 ~老桜を眺む~  作者: 歌多琴
2 季節外れの満開
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33/41

*四

 まったく徳間 礼御という人間の男は何を考えているのかわからない。

 水保は一人となったコスプレルームでそう思うのであった。


 人と異形のモノは相容れない、なんてことはないのだ。礼御に限らず、私に限らず、人と仲の良い異形はいるし、異形と仲の良い人間もいる。

 けれどどうにも違う。礼御という男は少々逸脱しているように思えてならない。

 どこかどう逸脱しているのか、それはわからない。答えられない。しかしそう思うのだ。

 もしかすると、こういうところが、彼の言う彼の家系が作り上げてきた魔術の効果なのだろうか。


 なんてことを考えていた水保の視線に、再びあのピンク色が入ってきた。


「……さて、いい加減この桜はうっとうしいですね」


 桜の花びらをつまみ、水保はそれが入ってきた窓へと向かうと、古びた金属の留め金を外し、窓を開けた。

 そこからはわずかに見える小山があった。ここからではその桜色は臨めない。しかし感じるモノが少しばかりあるのだ。

 そこがこの桜を散らす源。魔術の根源。異常の発生原。

 そしてまたヒラヒラと空を舞う桜色が水保の目に入る。


 風はそれほど吹いていない。ほぼ無風をいっても良いだろう。それなのに遠く離れた小山からここまで舞うこの桜の花びら。人の居る場所に紛れ込むように、滑り込むように入りこむ桜の花びら。


 やはりこれは危険だ。これ以上、害が蔓延するようなら、放っていくわけにはいかない。

 水保はそう思った。

 私はこの辺りの水域を守る存在だ。だけど、だからといって水域以外の場所が異常に見舞われても無関係、なんてことは思わない。この辺りを守るモノの一人として、何か対策を打たなくては。


 そう思ったそのときである。


 ふと眼下に先ほどまで話していた男が現れた。徳間 礼御である。

 俯瞰から眺めても目立つくらい、両手に荷物を抱えている。

 まったく、お人好しなのか、なんなのか。


 なんてことを水保が思っているとどうだ。彼の様子がおかしいことに気が付いた。

 最初は単に道を歩いていただけだった。が、一度身体を硬直させたかと思うと、さっと身体を隠すように物陰に入ったのである。


 何をしているのかしら。

 水保は半ば笑いながら、しかし半分は真面目に彼の様子を見守った。

 どうやら彼は、何かの跡を追っているようだ。そう気が付いてしまうと、では何を追っているのか見てみたくなるものだろう。


「……マズイ」


 彼の視線の先には何人かの人が歩いているのだが、その一人、とある少年に注意を向けた水保である。

 恐らく彼の跡を追っているのだろう。水保は高い確信を持ってそう推測した。

 なぜその少年なのか。理由は簡単である。

 その少年もまた、何者かを追っているようだ。上から見ていると、その少年と礼御の行動はどうにも似通っていて面白い。いや、面白がっている場合ではないだろう。

 その少年は何を追っているのか。

 それはすぐにわかった。

 一人の男性である。ある一部分を除けば、どこにでもいる中年男性だろう。が、その一部分が異様過ぎる。

 頭の上が満開なのだ。

 頭の上から枝が伸び、その枝は桜の花を満開に咲かせている。そして男性が歩くたび、ちらちらと地面にピンク色がおちているように見える。

 間違いなく件の桜だ。人を対象とした、とある魔術より出でた桜。

 それを追う少年。その少年を追う礼御。


 礼御はついさっき言わなかったか。自ら関わったりはしない、と。

 そう水保は呆れるものの、それでも彼を頭ごなしに否定はできない。

 すでに少年の姿は建物に隠れて見ええなくなった。それを追う礼御も、じきに水保の視界から消えるだろう。


 水保はここで大声を出し、礼御を止めることだってできた。が、それはしなかった。関わるべきでないと礼御自身思っていてもなお、それでも彼は関わろうとするのである。

 止めるのは野暮だろうし、止める義務も義理もないのだ。


 水保はそう思い、手にした桜の花びらを千切って投げ捨てると、そっと窓を閉めた。


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