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玉藻前の尾探し譚 ~老桜を眺む~  作者: 歌多琴
2 季節外れの満開
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 ちょっとした和やかさも取り払われ、話は礼御が魔術師としていかに杜撰かということについて戻ろうとしていた。

 戻ろうとしていたのだが、どうにもその話は長く、また厳しくなりそうだったので、礼御はあの手この手で逃げることにしたのである。

 もちろんその内容が自分に必要であることを理解していた礼御である。


 しかし、日を改めたいというのが本音であった。購入した品々をそろそろ家で待つモノ達に届けなければならないという思いと、何より桜の魔術についてあれこれしたせいで疲れたということも大きい。

 今日この時点で話しておかなければならないとする水保であったが、礼御の身体的な疲労を感じ取ったのだろう。


 水保はあえて言わなかったが、一般のモノか、それとも異形のモノかを見分けることは大変難しいことなのだ。それを今まで出来なかった礼御が、今日、水保の簡易的な指導だけでできるようになったことは、素直に驚くべきことである。

 けれど何の代償もなく出来るようになったかというとそうではなく、礼御の身体に負担がかかるのは仕方がない。水保はそう考えた上で、礼御が断るならそれが良いと判断したのである。


 礼御が本日購入した品の入ったビニール袋を手に握るのを見つつ、水保は「そうだった」と言って礼御にとある訂正を言い始めた。


「礼御さん。数点、話を聞いてもらっていいですか?」

「え? なんです?」


 どうしてこんなに買ってしまったのだろうとビニール袋の重さに落ち込んでいた礼御は、それとなく返事をして水保の方を向く。そこには普段通りの雰囲気をまとった彼女の姿があった。


「あの桜について、あまり深入りしない方がいいですよ」


 それはまるで、礼御が「あの桜」に近づくことを前提とした言い方であった。


「近づきませんって、言ったじゃないですか」


 さて、どうしてまたこんな言い方をするのだと疑問に思った礼御は正直にそう答えた。


「いえいえ。礼御さんがそう思っていることは理解していますし、その言葉を嘘だと捉えているわけでもありません」

「……? はぁ」

「ですけどね、礼御さん。近づかないことが解決策にならない場合も多々ありますから。特に、今回のような場合はね。そして礼御さん、あなたのような人の場合はね」

「……なんだか、どうせ関わってしまう。そう言われている気分です」


 水保は小さく苦笑し、これに答える。


「あくまで可能性の話です。……玉藻前は、今使いものにならないのでしょう? だとしたら、関わってしまった後、どうやって自分の身を守ればよいのか、考えておかなければいけないでしょ」


 使いものにならない。その言い方にすこしばかりの嫌味を感じた礼御だった。


「……確かにそうですね」

「えぇ、そうでしょ?」

「なら……もしも僕がピンチになったら、水保さんが助けてくださいよ」


 と、礼御が冗談まじりに言うと、どうだろう。水保は一瞬目を大きくし、そしてさっと顔を礼御から背けるのだった。


「……あれ? ……水保さん?」

「……私は人を助けたりしませんよ。そういう期待はするだけ無駄ですね」

「あ、そうなんですか。あぁいや、そうですよね、普通」


 なんだろう、と礼御は違和感を覚える。水保の今の心境が分からない。彼女は喜んでいるのだろうか、それとも怒っているのだろうか。もしくは照れているのか、迷惑に思っているのか。そのどれでも有り得たし、そのどれもが間違っているような、そんな感覚に陥る礼御だった。


「礼御さんが私の目の前で死にかけていたとしても、私は見捨てるでしょう。助ける理由がないかぎりね。それが私の立場ですもの」


 すぅと視線を戻した水保はとても残念そうであった。

 あぁ、やはり困らせてしまったことに違いないのだろう。そう感じた礼御は謝罪の念を込めて言う。


「いえいえ、冗談ですよ。いやぁ、誰も彼も、僕を助けてくれますからね」


 異形のモノ。異能を使うモノ。この短い期間に出会ったそのモノ達。礼御が困っているとき、助けてくれた存在は少なくないのだ。


「でもだからって、誰だって自分を助けてくれるなんて、そんなずうずうしいこと思っていませんよ。水保さんとは知り合いになりましたけど、知りあい=自分を助けてくれる存在、なんて思うのはどう考えても馬鹿げてます」

「……そう思ってくれていると、助かりますよ」


 水保は再び残念そうな表情となり、そして笑った。


「でも――」

「はい?」

「でも、ですよ。もしも水保さんが困ってたら、僕は水保さんを助けますから。お礼が欲しいとか、そういう見返りを求めた下心なんて抱かず、僕は助けますからね」

「そんな言い方、中々ずるいですね。助けてくれるのは、まあ感謝しますけど、だからって私もあなたを助ける、なんて話にはなりませんもの」


 そんな水保の言い分を可笑しく思う礼御である。


「えぇ、それでいいですよ。自分を助けてくれるモノしか助けちゃいけない、そんな決まりはないでしょ」

「えぇ、まぁ」


 そして小さく溜息をついた水保であった。望んだ話の展開ではなかった。そんな意味が込められているように礼御は感じた。


「でも礼御さん。私レベルの存在が困っている事象を、礼御さん程度の人が解決できるなんて、たぶんないですからね」


 それは突き放す言い方ではなく、ただ単に事実を確認した言い方であった。


 それはそうだろう、と礼御は思う。水保は玉藻と同等、もしくはそれ以上の存在。玉藻は神に近い存在なのだと言う。もっとわかりやすく言えば、神様見習いといったところだろう。そんな玉藻は牛歩のごとく神様に向かっている違いない。

 そして水保である。この辺りの水域の主。そういう説明を以前受けた礼御である。つまりはこの辺りの水域の神であるとも言っても良いのだろうか。玉藻の歩みとは別にきちんと進んできたであろう水保という異形のモノ。

 そう考えると、礼御は一体どういう存在と仲良くなったのだろうか。


「こんな話がしたかったのではないんでした」


 と水保が言う。そういえば「数点話したいことがある」と彼女は言ったのだった。


「ちゃんと改めて、話を聞きにきてくださいね」


 それは魔術師の在り方云々の話である。


「もしくは別のモノから、きちんと指導を受けてくださいね」

「えぇ、了解です」


 水保さんの他に教えてくれる人はいなそうだ。そんなことを思いながら、礼御は微笑んで答え、そして水保に別れの言葉を告げるのであった。

 そうして礼御にとって何の価値もない荷物を持って店の外へ出た礼御は、そこで再会してしまうのである。


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