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玉藻前の尾探し譚 ~老桜を眺む~  作者: 歌多琴
2 季節外れの満開
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「礼御、お願いがあるんだ」


 魔術師、雨無 葵が渡した図書の数々を礼御がパラパラとめくっていた頃である。大分体調を戻した玉藻が、突然礼御にそう言った。


 いつになく謙虚な言い方――体調が万全でないことも影響しているのだろう――なので、礼御は次のように返してしまったのだ。「どうした、玉藻? なんでも言ってくれよ。最大限努力するぞ」


 まさかあんなお願いをされるとも思わないだろう。


「……どうしてこうなった」


 礼御は異世界の入口に立ち、嘆くように呟いた。結果、礼御はアニメグッズ専門店へと向かうはめになったのである。手には書き殴られた一枚のメモ。いわゆる買い物リストだ。新刊の漫画。本日発売予定である恋愛ゲームのソフト。よくわからないアニメタイトルの主題歌が入ったCDなど。これを一度に買うとどれだけお金が飛ぶことだろうか。


 このリストを握らされたとき、礼御は「さすがに全部は……」と漏らしたのだが、玉藻は「最大限努力しても無理?」なんて涙目で言ってきたのだ。


 普段通りのテンションならどうとでも言い逃れられるのだが、この日は無駄に殊勝であったため断るに断れなかった礼御である。


 ちなみに玉藻は「だいたい二万円もかからないからぁ。……お願い」なんて言っていた。あざといを通り越して汚い。

 礼御はそう思ったものの、相手は自分の命の恩人。そいつが欲しいというものくらい、そしてそれは二万円程度の物だというのなら、それは買うべきだろう。と、どうにか納得できる理由をこじつけた礼御である。


 それにもう一つだけ愚痴のようなものを付け加える機会をもらえるのなら、もう一つ。

 そのメモをしぶしぶ受け取った礼御であるが、次の瞬間もう一人の妖怪がその紙を奪ったのである。そしてペンを握り、その紙の空いたスペースに何かを書き足したのだ。

 礼御が「……紅子。なんでお前まで欲しい物を書きこんでんだよ」と睨むと、彼女は「わしも主様の不在中、この部屋を必死に守ってたのに?」とこれまた涙目で訴えてきたのである。その表情と事実の押しつけにより、これまた断れない礼御であった。


 そしていざ、礼御は異世界とも思える店内に足を踏み入れた。

 何やら無駄に可愛い声の女性が歌った曲が流れており、詰め込むように漫画や小説、CDや映像ディスク、そしてこんなものにまでアニメか何かのキャラをプリントしなくてもいいだろうと思える品々が並んでいる。極めつけは、ただでさえ雑多な店内であるのに、その来店者数のおかげでなおのこと溢れかえるような空間になっていた。


「一般人の来るところじゃねえな」


 ぼそりと礼御は呟き、メモを眺めながら店内を回り始める。


 それから数十分後のことだ。


「……宝探しでもしてる気分だ」


 そこまでで集まったのはメモのおよそ半分まで。残るは大半が書籍であった。

 意外にもアニメグッズというのは目に留まりやすく、しかも作品ごとに分けられていることもあって、すんなりと見つけることができたのである。次に円盤系の商品であるが、メモにあったものはすべて新作ということで、素人目でも一発で場所が分かるようになっていた。


 そこまでは良かったのだ。しかし最も探しやすいと思っていた書籍関係。これは中々に発見が難しい。

 新刊ならばまだ良い。しかし書籍関係の新刊コーナーというのは移り変わりが激しいようで、しかも少し人気から外れた作品だと新刊にあるのは一瞬なのだろう。どこにあるのかわからない。


 書籍は基本的に出版社でまとめられているのだが、ではメモに並んだ書籍の出版がどこなのかといえば、当然礼御は知らないし、当然彼女らがそこまで気を利かしてもいなかった。


 そうしてあっちへ行き、こっちへ戻りを繰り返した挙句、結局のところ店員に集めてもらった礼御であるが、その後次のように誓うのだった。


「……二度と、二度と買い物は頼まれない」


 理由は二つだった。そもそも商品を見つけられない。無駄に時間がかかって仕方ないのだ。そしてもう一つは――。


「……なにが二万円だよ。三万円近くかかってんじゃねえか」


 どんどん商品がレジを通っていく中で、じわじわと礼御の背筋は寒くなっていった。跳ね上がっていく合計金額。さすがに止まってくれ。と礼御が心で祈るも、カゴには商品が残っているのだ。


 このようにして随分幅のある『だいたい二万円』を支払い――どうにかお金は足りたのだった――、礼御は心に誓ったのである。


「しかもなんだよ、この量」


 礼御の両手にはビニール袋が握られており、その中には買った商品が入っている。荷物運びがひどく難儀しそうだ。確かに買ったのは三万円に近い商品だが、それでもこの体積はおかしい。


 それもそのはず。次から次へと購入特典だとかが付いて来たのである。

 礼御は、正直特典など邪魔になるだけだと思い断りたかったのだが、果たしてあの妖怪達が特典という存在を知らないだろうか。そう考えると、知らないはずはないだろう。最終的に特典がないぞと喚かれそうだったので、礼御はしぶしぶ特典を受け取ったのである。


「……あぁ。もう絶対に買い物は引き受けねえぞ」


 理由も二つから三つに増えたところで、礼御は再度誓いを呟いた。


「とりあえず休憩だな」


 と、ここで、この店があるフロアには休憩できるスペースがあることを思い出した礼御である。


「…………」


 思い出したものの、揚々とそこへ向かうのは躊躇ってしまう礼御だった。


 大荷物を抱え、防犯ゲートを出ると、正面にエレベーター、左手に階段がある。この店はビルの一フロアに入っているのだ。

 右手には短い通路があり、その通路にはガチャガチャが壁を覆う勢いで並んでいる。そこを抜けると、椅子や机が置いてあり、小休憩ができるスペースがあるのだ。

 しかし、実はそのスペース、一枚の仕切りで二つに分けられており、隣はコスプレスペースとなっているのだ。


 とりあえず、と思い休憩スペースまで来た礼御はじっとその仕切りの向こう側を眺めた。


 嫌な思い出である。


 元来コスプレなどに興味のなかった礼御なのだが、ふとした出来心でそのスペースを除いてしまったことがあるのだ。


 そしてそこで出会ってしまった異形のモノ。

 そのモノに、半ば強引にコスプレさせられた思い出――というには最近の出来事すぎるのだが――が蘇る。


「どうしようか」


 ひとまず椅子に腰かけた礼御は悩んだ。嫌な思い出を一人で作りあげてくれた彼女であるが、それでも知り合いになったことに違いはない。しかも以前の別れで「また会えるか?」的なことを言ってしまったと礼御は記憶している。


 もしも今日、またこの仕切りの向こうにいるとしたら……。


「それで、ここまで来て、挨拶もなしに帰るっていうのもなぁ」


 知り合ってしまったからには仕様がない。異形のモノと仲良くなってしまうのは、徳間 礼御という人間、しいては徳間家の血筋の性である。それがどんな変態的思考の持ち主であったとしても、知り合になってしまったのだからどうしようもないだろう。


 一種の覚悟を決めて、礼御は立ち上がった。


 一枚の仕切り。その一部分だけは仕切りでなく、黒いカーテンとなっており、礼御はそれを分け入るようにコスプレスペースへと入って行った。


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