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私たちの、フェアリーテイル  作者: ゼットン
一章 毒リンゴの呪いから目覚めて
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1-3 あんな奴と結ばれるなんて、絶対に認めないんだから!

 三学期初日の日程は始業式のみである。


 そのため、体育館に集まる全校生徒たちが早く切り上げるように壇上の校長先生に念を送っているなか、私の意識は現実にはなかった。


 もちろん、校長の話が長くてつまらないこともある。しかし、今日に至っては校長先生のギャグがプロの漫才師みたいに冴え渡っていたとしても、私は呆けていただろう。


 三角座りする足に隠れて、隣の男子の列を盗み見る。


 幸い、あいうえお順に並んでいることもあって、目的の人物は近くにいた。気付かれないように細心の注意を払いながら、私はターゲットである上時雨始を観察する。


 漂う雰囲気と見た目から連想されるイメージ通り、上時雨くんは真面目なのだろう。ほとんどの生徒が校長の話を聞き流してなかでも、しっかりと顔を上げて壇上を見詰めている。


 思えば、上時雨くんが居眠りとかをしている場面に遭遇したことはない。どんなに退屈な授業でも真摯に板書していた……ような気がする。


「……うーん」


 高校で同じクラスになって一年近くになってもろくに会話したことないので、上時雨くんについての情報が少ない。ここは一つ、他のクラスメイトに助力願おう。


「ねね、加賀美。ちょっといい?」


「おん? どしたー、お姫」


 教師にバレないように前に座るクラスメイトの背中をつつく。


 すると、茶髪をまとめたお団子頭がトレードマークである加賀美妙かがみたえが応じる。華のJKブランドを失墜させる大きな欠伸をこぼし、寝ぼけ眼を擦る加賀美に苦笑しながら、聞き込みを開始する。


「上時雨くんと喋ったことってある?」


「上時雨? あー、委員会が一緒なんよね。美化委員。そのときの活動で少しだけあったと思うよ多分」


「そっか。ちなみに、どんなこと話したか覚えてる?」


「んー、事務的なことばっかかなぁ。上時雨って基本無口だし」


「だよねぇ」


 分かってはいたが、落胆してしまう。


 男子陸上のエースを飾るお兄ちゃんの評判を落とさないためにも、私は上手に立ち回っているはずだ。一生の親友レベルこそいないが、ほとんどのクラスメイトとは楽しくコミュニケーションを取れる程度には親しくしている。


 そんな私が一度も口を利いたことがないのだから、加賀美が喋ったことがなくても不思議じゃない。


「え、なになに。どして、そこまでガッカリしてるのさ。もしかして、お姫は上時雨みたいなのがタイプ的な? もうすぐバレンタインだしねー」


「ち、違うって。たまたま目に入ったから興味本位っていうか……始業式ヒマだし」


「ふーん。ま、確かに始業式はヒマだわなぁ」


 俗っぽい話題が好きな加賀美は妙な邪推をしているのだろうか。にやにやとした笑みを浮かべて、「そーいえば」と手を打つ。


「美化委員の仕事も退屈すぎて、上時雨に聞いたことあるんだった。どんな女子が好きなのかって」


「加賀美ってすぐに人のタイプとか訊くよね……」


「いいじゃん。結局、こういう話が一番おもろいしさ。でも、上時雨の答えは期待外れだったんよ。〝僕、そういうの興味ないんで〟って。ありゃ相当なムッツリか……もしかしたら、 男が好きなのかも」


「……男が、好き」


 脳裏をよぎるのは、上時雨くんがお兄ちゃんとキスをしているシーンだ。


 朝食のときに探りを入れた際には、お兄ちゃんからはその気があるようには感じられなかった。となれば、上時雨くんの方こそ男性に恋愛感情を抱く人である可能性はある。


「……よし、やるか」


 なにはともあれ、本人と直接的なコンタクトを図らなければ進展はしない。さっそく行動に移そうと息巻いていると、簡素な拍手が巻き起こった。


 永遠にも等しい長話がようやく終わったようだ。、校長が壇上から降りていいき、無事に始業式が閉幕する。


 いまの内に仕掛けてみよっかな。


 乾いた唇にリップを塗って、スカートの丈を短くする。リボンを緩め、ワイシャツのボタンを外して胸元のガードを甘くする。自慢じゃないが、私の胸はそこそこ大きい。仮に上時雨くんがただのムッツリなら、簡単に釣れてくれるはずだ。


「ねぇねぇ、上時雨くん」


「は、はい……えっと……」


「甘露寺。甘露寺姫子だよっ。ぜんぜん話たことないから、無理もないよね。甘露寺って言いにくいから、姫子って呼んでくれてもいいよ」


「はぁ……」


「でさ、上時雨くん。ずっと話したこともなかったし、君に興味あったんだよね私。もう学期末だけど、仲良くしない? 良かったら、今週末にでも遊びに行こうよ」


 不自然ではないくらいのスキンシップを交え、ばっちりとウインクをかます。


 決まった。これで落ちない男はいない。これまでも、別に計算をしていないのに勘違いをしてきた男子だって山ほどいたのだ。私がハニートラップなんかした日には、どんな鉄面皮も鼻の下を伸ばすに違いない。さいあく、鼻血を噴き出して卒倒しちゃうんじゃ――


「すみません。週末は大切な用事があるので」


 たった、それだけだった。鼻血を噴き出すどころか、眉一つ動かすこともない。冷淡なまでにすっぱりと一蹴して、上時雨くんは去っていく。


 ぽつねんと取り残された私としては、茫然自失するしかない。「どんまい、お姫」とやかましいこの上ない慰めを寄越す加賀美にも置いていかれるなかで、確信する。


 間違いなく、上時雨くんは男の人が好きなんだ。そうでもなきゃ、この私があんな地味男に相手にされない理由にならないもん!


〝やっぱり、上時雨くんは男が好きみたいです〟


 スマホを手にして、素早く天空橋にメッセージを送る。すると、すぐに既読マークがつき、返信が表示される。


〝こっちも順調よ。タイムスリップする前と同じように、放課後に駆とお昼ご飯食べることになった〟


 普段なら、お兄ちゃんとの放課後デートを予告するメッセージを目にすれば拒絶反応のあまりに蕁麻疹を発症してしまうほどのストレスに襲われるはずだが、今回ばかりは例外だ。思わずガッツポーズをして、体育館から走り出す。


 認めない。お兄ちゃんがあんな奴と結ばれる未来なんて、絶対に――認めないんだから!

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