家・振り返り
時間は飛んで、僕は無事帰路につき、自分の家の前に立っていた。
雅狐の名前変更が終わった後、火ノ川さんはこれからやることがあると言って、連絡先を交換した後に颯爽と姿を消した。それはもう颯爽と、車と遜色のない速度で走り去ったのだ。……専門家の人たちは皆あのスピードを出せるのだろうか?
「ここが旦那様の根城か。結構広いの〜」
雅狐が家を眺めながら楽しそうに言う。火ノ川さんからのお達しで、出来るだけ近くにいろと言われたので、これからは寝食を共にすることになったのだ。
「妾の住処は専門家どもに壊されてしまったからな。旦那様と契約しなければ家無し狐になるところじゃった」
「同情するなら結婚してくれってか」
それに、雅狐は一度専門家に追われた身である。次またいつ襲われるか分からないので、お互いに助けられる距離にいた方が良い。僕が近くにいたところで助けになるとも思えないけど……。
家の鍵を開けて、雅狐を家に迎え入れる。
「おや? 家の中に誰もおらんのか?」
「両親は仕事。妹たちは二人揃って友達のところにお泊まりだったかな」
「旦那様には妹がおるのか」
「双子でな。びっくりするぞ〜、全く同じ顔してるからな」
家を紹介して回りながら、僕は気になったことを雅狐に尋ねた。
「そういや怪異って、食事とか排泄とかどうなってるんだ?」
「そうじゃな。旦那様は怪異が排泄をしているところを想像したことがあるか?」
「……ないな」
「それが答えじゃ。怪異はイメージの世界の存在じゃからな。大抵は食事もしないし排泄もしない。吸血鬼のように血を吸って食事をする怪異もおるし、別に人間のものが食べられないわけではないがな」
「なるほどな〜っと、ここが僕の部屋だ」
自分の部屋の前で足を止めて扉を開ける。
「おぉ〜何と言うか、殺風景な部屋じゃの〜」
「部屋のインテリアってのは引き算なんだよ」
雅狐がベッドに飛び込んだので、仕方なく机用の椅子に腰を下ろす。疲れが溜まっていたのか、体が鉛のように感じられた。
それにしても今日は色んなことがあった。天気雨なのに信じられないぐらい強い雨に、どこを探しても見つからない人、雅狐との出会いに火ノ川さんとのあれこれと……いや本当に色んなことがあり過ぎじゃないか? 過労死するレベルである。
しかし、その代わりに沢山の経験があったし意味があった。僕のベッドで気持ち良さそうに寝転がっている雅狐を見る。彼女を助ける選択が正しかったのか、未だにその答えは自分の中では出ていない。だけど、彼女を助けなければそう悩むことすら出来なかったのだ。無事に生きているんだから、後は正しかったと証明するだけだ。
「雅狐」
名前を呼ぶと、彼女は寝転がったまま重たそうな瞼を開けた。
「なんじゃ?」
「雅狐のことがもっと知りたい。好きな食べ物とか、趣味とか」
雅狐の瞳を見つめたまま言葉を続ける。正直小っ恥ずかしいし言いたくないけれど、これが僕なりの覚悟の決め方だ。息を吸い込み、言葉を吐く。
「だって、僕は君の旦那様だろ?」
顔が赤くなったのが自分でも分かったが、目を見開いて驚いた雅狐の顔が見られたので、儲けものだったということにしよう。




