6. 初めての舞踏会で絶望したお姫様
※初めての大人の舞踏会に出席したデイジー姫の心境です。
※2026/2/24 加筆修正済み
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生まれて 初めての舞踏会。
キラキラ キラキラ輝く 光のシャワー
王宮の 黄金広間は 銀銀銅のシャンデリア
七色に ひかり輝いて 煌々と 灯っていた
くるくる くるくる 廻る 花のワルツ
レディ・ジェントルマン レディ・ジェントルマン
大人の ざわめき シャンパン カクテル シャワー
すごい! すごい!
ローズお姉さま リリアンお姉さま
とっても素敵 とってもお綺麗
大勢の ジェントルマンたち 囲まれて
お姉さまたち 満面 花の笑顔
王宮中の 貴公子たちが 勢ぞろいで
一輪の赤薔薇と 一輪の白百合を
真っ白な タキシードに 胸さして
レディ どうか わたしと 踊ってください
レディ 次は 僕と!
レディ 次は 私と!
はい もちろん お受けしますわ
はい 久しく 喜んで
はい……
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いいなぁ いいなぁ お姉さまたち
舞踏会は たけなわ 花のワルツ
くるくる くるくる
輪舞となって まわる まわる
──あ わたしは?
わたしは 誰と 踊るの?
大好きな レモン色の ドレス 新調したの
さっきから ずっと ずっと
あなたを まって いるのに
だあれも だあれも 誘ってくれない
だあれも だあれも 見てくれない
誰か 誰か?
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呼応したかのように 黄金鏡の邪鬼が
意地悪く 微笑んだ
おまえが とても みにくいからさ
おまえが とても みにくいからさ
おまえが とても みにくいからさ
おまえが……
やめて!
嘘よ!
いや
おまえが とても……
パキン!と ハイヒールの かかとを 折った
急げ 早く逃げるんだ!
急げ ここから 逃げなくては!
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しくしく しくしく
ひとり 裸足で 廊下を 走っていった
だあれも だあれも わたしを 見てくれない。
お姉さまたち ばかり
お姉さまたち ばかり
わたしが みにくい から?
わたしが みにくい から?
そうだ わかったわ
わたしは みにくい!
初めて 知った 舞踏会の夜
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既に王都の広場は涼しい風が吹いていて、夕日が赤く大空を染め始めました。
デイジー姫は美しい茜空を見上げながら、飛び立つ鳩の群れを見つめていました。
『あの日だあれも、だあれも私を見つけてくれなかった。憧れてた殿方たちも、いっつも二人のお姉さまにべったりだった』
デイジー姫の長い睫毛に縁どられた、大きなはしばみ色の瞳はいつしか地面を見つめました。
デイジー姫はあの夜の事を思い出していました。
初めて舞踏会に参加した夜、デイジー姫の自信は根こそぎ削られてしまったのです。
デイジー姫は奈落に落ち込みました。
勉強もダンスも裁縫も何もやる気がでなくなり放心状態でした。
何よりも上の姉君様たちと顔を合わせたくなかったのです。
姉君たちは何も悪くないのは重々承知していました。
宮殿内に居れば嫌でもお姉さまたちと顔を会わねばならない。
お姉さまたちと会いたくない、あったら以前みたいに笑えないもの。
──だって私のみにくい心がわかってしまう。
このみにくい心をお姉様たちに悟られたくはない!
お姉さまのお輿入れはまだ当分先だわ。
お輿入れ──。
デイジーがそう思ったのは王国の姫君は成人になっても、十代までは輿入れしない決まりがありました。
決めたのは王様でした。
姫君たちをこよなく愛する王様は、なるべく娘たちを手元に置いておきたくて早婚は承知しませんでした。
姉君様たちも社交界にデビューして、他国へ嫁ぐ前は自由な乙女時代を満喫していました。
よくよくデイジー姫が観察すると、ローズお姉さまは、自由奔放で何人かの崇拝者を囲っているくらいです。リリアンお姉さまも、三人の殿方とダンスを交互に踊っていて一人には絞っていませんでした。
なのにあの夜、私は壁の花のように独りぼっちで立っていただけ。
デイジー姫はそんな姉君様たちに、無理やり笑顔で取り繕うことができません。
同時に何もやる気がおきず、人と会うのも億劫になってしまいました。
何より今は、姉君たちがいるお城から逃げ出したかったのです。
──でも私っておバカさんだわ。
城から出たはいいけど、これからどうやって生きていこう?
デイジー姫は無性に不安になってきました。
それまではただ城を出る事だけ願っていたので、お昼ご飯を食べた後は解放感でいっぱいでしたが、今は不安でなりません。
おそらく王様がデイジーを追放しても、一人くらいお供の者を付けてくれて、寝床場所くらい用意してくれると思っていたのです。
すると王様はデイジー姫を身ひとつで城から追い出したのです。
──王様はよくよく私に愛想がついたのね。
彼女の瞳にうっすらと涙がにじんでいました。
その時でした──。
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「おいおい、お嬢ちゃんよ! なに独りぼっちで俯いているんだい?」
「!?」
デイジー姫は顔をあげました。
目の前に見知らぬ三人の若い男が立っています。
三人共王都民の身なりでした。
デイジー姫が滅多に話した事がない平民です。
「失礼な、お前たちは誰ですか?」
デイジー姫は体を固くして、とっさにいつもの口調で言いました。
「はあ、お前たちだと?」
ひとりの髭面の若い男が太い腕をむき出しにして、大きな口を開けてにやりとしました。
そのままデイジー姫のフードを取り払います。
「キャッ!」
デイジー姫は突然、フードから顔をむき出しにされて声をあげました。
すると彼女のマロンクリームの三つ編み髪が無造作になりました。
「お、フード被ってて気づかなかった、これはこれは珍しい栗毛じゃないか!」
「ははん幼いが顔もなかなか別嬪だぜ!」
今度は前歯が所どころ欠けたソバカス男が、デイジー姫の三つ編みの先っちょに触れました。
「なんたる無礼者!私から離れなさい!」
デイジー姫はその男の手をびしゃりと払いのけて大声をあげました。
「なんだとこのアマ、俺たちにそんな口を聞くとはいい度胸だな」
ソバカス男が怒りだしました。
「はは、威勢がいいな。ガリガリに痩せてるが目鼻立ちはなかなかいい」
もう一人、ひょろっと背の高い顔に大きな傷のある男が値踏みするようにデイジー姫を見て言いました。
「気の強い娘は好きだ、お嬢ちゃん俺たちと遊ぼう」
髭面の男はにやりと笑ってデイジー姫の肩肘をつかんで、彼女を抱き寄せようとしました。
「!?」
これは大変です。どうやらデイジー姫は王都民のよた者と出くわしてしまったのです。
※最後までおよみくださりありがとうございました。
※次回は2/22か2/23に投稿予定です。




