2. 花壇を見ながら呪文を唱えるお姫様
※ 自分がみにくいと思い込んだデイジー姫。彼女は王女とは思えない、あるまじき奇行を繰り返していきます。
※2026/9/2 修正済み
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とても晴れた昼下がり、おつきのメイドたちがデイジー姫にいいました。
「姫様、今日はとても良い天気ですよ。たまにはお庭に出て散歩などいたしませんか」
「……そうね、よくってよ」
相変わらず引きこもっていたデイジー姫も、珍しく機嫌が良かったのか、メイドたちの誘いで庭に出ました。
庭の花壇は赤薔薇や早咲きの白百合、そしてその周りを取り囲むように色とりどりのひな菊たちが見事に咲き誇っていました。
一年の中でも春から夏へと変わる、この季節が一番の見ごろでした。
この王宮殿の中庭に面した花園は、王女様たちが住む、二階のバルコニーからもよく見えます。
それぞれローズ姫様、リリアン姫様、デイジー姫様が誕生した時に、三姉妹のお名前に、ちなんだ花の種を植えて見事に開花させた花園でした。
花園をプレゼントしたのは父王である王様でした。
王様はそれはそれは、花のように朗らかで美しい三姉妹を、心から慈しんでいたのです。
いずれは近隣諸国へお嫁にいってしまう王女たちを、せめて一時でも大切な花を愛でるかのように、大切に育てていました。
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久しぶりにデイジー姫は、お供のメイドを連れて部屋から中庭に降りて来ました。
「これはこれはデイジー姫様。ご機嫌麗しゅうございます」
「デイジー姫様、お久しぶりでございます」
庭で働いていた従者たちが、デイジー姫に気づいて、深々と帽子を取り挨拶をしました。
しかし、従者に挨拶されたのに、デイジー姫は無言でニコリともしませんでした。
本来なら王族の姫君は、決まり文句の『ごきげんよう』とあいさつを返すのです。
これはいけません、本来の王族の礼儀に反しています。
本来この国では、王女として家来からていねいに挨拶された場合は、挨拶した者に微笑んで、何か一声かけるのが宮殿内の習わしでした。
デイジー姫は誰とすれ違っても、その者の顔すら見ようとはしません。
挨拶をしてくれた従者たちを一切無視して、デイジー姫はツンとすました表情で素通りしていきます。
そんなデイジー姫の態度に戸惑う従者たち。
が、珍しく突然デイジー姫はピタリと立ち止まりました。
彼女が見つめた矛先は、美しい薔薇や白百合が集中している見事な花壇でした。
「…………」
花を見つめながら、デイジー姫は、急に親指を噛んでブツブツ独り言を呟きます。
デイジー姫のキツイ視線は、まるで無言の怒りに燃えているように、憎しみとも哀しみともつかない表情でした。
後ろを歩いているお付きのメイドは、そんな王女の異変に気づきました。
──はてさて、姫様は何をひとりでブツブツいっているのかしら?
メイドは気になって、足を半歩踏み出してデイジー姫にそっと近づき、耳をそばだてました。
それはとても意外な言葉でした。
「わたしはみにくい、わたしはみにくい、わたしはみにくい、わたしはみにくい、わたしはみにくい、わたしはみにくい、わたしはみにくい、わたしはみにくい!」
それは、まるで恐ろしい呪文を唱えるかのように、デイジー姫の横顔は、血走った眼で延々と『わたしはみにくい!』を繰り返し言い続けているのです。
( ひいいいぃぃ──!)
あわやメイドはその場で叫びたくなりましたが、どうにか必死で手で口を押えました。
ゾッとしたメイドは、慌てて友人のメイドに耳打ちしました。
「ねえ聞いてちょうだい、姫様がとても恐ろしいのよ!」
と先ほど聞こえた呪文の話をしました。
「まあ、それはとっても面白いじゃないの!」
その話を聞いたメイドはカラカラと楽しそうに笑い、休憩時間に他のメイドたちに、デイジー姫の呪文を面白おかしくしゃべりました。
するといつしか城中のメイドたちはあちらこちらで、デイジー姫の噂をするようになりました。
その噂はおひれがついて、
『デイジー姫はどうやら魔女に誑かされたらしい。真夜中にひとり部屋を抜け出して、花壇の前で恐ろしい呪文を毎晩唱えてるんだと! しかもその呪文ときたら……』
瞬く間に、デイジー姫のあらぬ噂が城中に広まっていきました。




