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みにくい顔だと思い込んでいるお姫様のおはなし  作者: 星野 満


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10. ダルタニアンにおんぶされたお姫様

 ✧ ✧ ✧ ✧



「ねえダルタニアン様?」

「何ですアンヌ様?」

「私、歩けますから、降ろしてくれませんか?」


「いえいえ、そのおみ足では無理でしょう。アンヌ様は城からだいぶ歩いて踵(かかと)が赤く擦りむいていましたからね。あ、ほら動かないで……俺の馬までもう少しの辛抱ですから~♪」


「でも──重いでしょう?」


「なんのなんの、失礼ながら貴方は屋敷の畑にいる案山子(かかし)より軽いくらいですよ」


「は、案山子ですって?」


 一瞬、デイジー姫はカッとなりました。


 なぜって城内でよくデイジー姫を“ 案山子 ”と馬鹿にされていたのを思い出したからです。


「はい、本当にアンヌ様は軽いですよ~。これなら一里(いちり)くらい背負ってもどってことないなぁ!」


 飄々(ひょうひょう)とダルタニアンはいいます。

 おまけに口笛を吹きながら、デイジーをかるがると背負ってズンズン歩いています。


 思わずデイジー姫は何か言いかけたけど、黙ってしまいました。

 

 確かにデイジー姫の身体は案山子みたいでした。


 以前はふくよかだった手足も、小枝のようにガリガリにやせ細ったと、自分でも自覚していました。


 もちろん、このハッとするほど見栄えの良い騎士見習いから、案山子(かかし)と揶揄(やゆ)されても何も言い変えせません。


 ふと、デイジー姫は自分の足元を見ました。

 右足首には白い布がまかれています。

 

 先ほど広場で、ダルタニアンがデイジー姫の踵に軟膏を塗った後、ハンカチで丁寧に巻いてくれたのです。それはとても手慣れた手つきでした。


 デイジー姫は自分でも気づかずに、靴擦(くつず)れをおこしていました。


 ムリもありません。デイジーはお姫様ですから。

 宮殿内でもこんなに長く林道を歩き続けたことなどありません。

 

 長旅でも、履きやすいといわれる平民靴でも、踵(かかと)の高いハイヒールばかり履いていたデイジー姫には逆にペタペタと凸凹道を蹴って歩く平靴はやっかいでした。


✧ ✧


 二人は広場を抜けると王都の市場(いちば)に出ました。

 

 通りにはたくさんの屋台や小店が並んでます。

 沿道を渡ると慌ただしく人々がその通りを行き交っています。

 

 この時間、市場は夕食の買い物客でにぎわっていました。

 

 初夏の風がただよう中で、美味しそうな焼いた肉や甘いお菓子の匂いがぷ~んと漂ってきます。

 思わずデイジー姫も鼻の穴を子犬みたいにクンクンと顔をあげました。


 すると市場を行く人の中にはジロジロと、ダルタニアンが背負うデイジー姫を見る人もいました。


 ──あ、嫌だわ。私ったら!


 デイジー姫はジロジロ平民たちに見られるのが急に恥ずかしくなって、頭巾(ずきん)を目が隠れるくらいグイッと被(かぶ)りなおしました。


 なにせ、靴擦(くつず)れをしたとはいえ、若い殿方にお(・)ん(・)ぶ(・)されるなんて生まれて初めてだとデイジー姫は思ったのです。


 ただ──幼い頃は、そうだ! “ おんぶ ” あったわと思い出しました。

 

 乳母に隠れて子供部屋を抜け出して、城の従者たちに見つかるとすぐに抱っこされたり、くいっと空中に高く高く背負わされた事が何度もあったわと。

 

 そのまま彼らに子供部屋まで戻されたと、デイジー姫の記憶が一気に蘇(よみがえ)ってきました。


 

 ──懐かしい。


 あの頃は、誰かれかまわず、ちっちゃかった私は『おんぶに抱っこ!』って下々の言葉を使って皆におねだりしたっけ。

 

 巨人みたいなコック長やお髭(ひげ)のたくさん生えた庭師も、私が両手を広げてお願いすると、すっごい笑顔になって、私をひょいと抱きかかえてくれたり、おんぶしてくれたわ。


 ──なんだろう、あの頃は毎日がとっても楽しかった。

 今みたいに自分の顔がみにくいなんて、これっぽっちも考えなかった。


 デイジー姫は、なんだかちょっと切なくなりました。


 それにダルタニアンの大きな背中は、とってもホカホカと温かくて心地良かったのです。

 

 いつしかデイジー姫は、ダルタニアンの太い首に自然と自分の両手を巻きつけました。

 疲れもあったのか、デイジー姫はウトウト眠ってしまいました。


 スゥーとデイジー姫の寝息を耳元で聞きながら、ダルタニアンは気持ちよさげに口笛を優しく吹きます。


 それから何時(なんどき)ほど経ったのか──。


 ふと気付くと今度はダルタニアンと一緒に、デイジー姫は可愛いらしい白馬の背に乗っていました。


「──あら、私いつのまに……」


「お目覚めですか?」


 ダルタニアンはデイジー姫の、寝ぼけ眼(まなこ)の顔をみて白い歯を見せました。


「アンナ様がよく眠ってたのでム(・)ー(・)ア(・)もゆっくりと歩かせてますよ」


「ムーアて?」片目を擦(こす)りながらデイジー姫は聞き返しました。

 

 まだ、ぼぉとして眠そうな顔です。


「ああこの馬です。ムーアって良い名でしょう。俺の愛する天使(エンジェル)が付けた名前です。ムーアが生まれた朝、『ダル、今朝あたしね、荒野(ムーア)を走る白馬に乗った夢を見たのよ、これは神の啓示に違いないわ!』って俺の天使がいいました」


「天使(エンジェル)って?」デイジー姫は聞き返しました。


「ああ、俺が世界で一番愛する女の子ですよ」

「え! 貴方って恋人がいるの?」

「いますよ。もう愛しくて愛しくて……目に入れても痛くないくらい可愛い娘です」

 

とダルタニアンは物憂げな表情で、すっごく目を細めて嬉しそうにいいました。

デイジー姫はとたんに身体から血の気が引いていくような、醒めた面持になります。


「そうなの──それはとっても素敵なことね」


 そういったデイジー姫は、ダルタニアンに寄り添っていた体も少しだけ固くしました。


 パカパカ パカパカと、白馬のムーアは気持ちよさげに歩きます。

 

 王都の街並みはそろそろ夕暮れていきます。

 

 赤レンガの色の屋根の見える坂道を、ダルタニアンとデイジー姫を乗せてムーアはゆっくりと下(くだ)っていきます。


 さっきまで、あれほど眠かったデイジー姫でしたが、すっかり目醒めていました。




※ ダルタニアンには恋人がいるなんて──。デイジー姫、ちょっとがっかりしちゃったのかな?

(ToT)/~~~✧

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― 新着の感想 ―
ダルタニアンにおんぶされて、デイジーちゃんは小さかった頃を思い出して懐かしくなってたんですね♪ そして知らぬ間に寝てるうちに今度は馬に乗っていた! ダルタニアンに恋人が!! デイジーちゃんはちょっ…
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