24話
基礎特訓から解放された喜びを隠しきれず、リーアは目を輝かせながら、落ち着きなくそわそわと動いていた。
その様子を見て、オルドは優しげに微笑んだ。
「そうじゃな、まずは魔法について簡単に説明してもらおうかな。リーアちゃん、説明できるかい?」
いきなり名指しされたリーアは、一瞬ぽかんと目を丸くしたが、すぐに姿勢を正し、真剣な顔つきで言葉を紡ぎ始めた。
「えっと……魔法っていうのは、世界に流れている“魔力”を使って、さまざまな現象を起こすことです。魔力は空気や大地、水、火、全部の自然の中にあって、人の体にも流れているって……ママから教わった!!」
彼女の声には、自信と好奇心が混じっていた。思い出しながらも懸命に話そうとするその姿に、ルークとルドルは思わず頬を緩める。
オルドは腕を組み、ゆっくりと頷いた。
「うむ、素晴らしい答えじゃ。魔力とは、まさに世界を流れる見えざる川のようなもの。それを感じ取り、形にするのが魔法使いの務めじゃな」
そして話を続ける。
「中でも先ほどリーアちゃんが言ってくれた、人の体に流れる魔力が一番大事じゃ。じゃあ、ルーク君、何故人の体に流れる魔力が大事か説明できるかい?」
ルークはすっと背筋を伸ばし、迷いなく答えた。
ルークは姿勢を正し、一度目を閉じてから静かに言葉を紡いだ。
「はい。魔法を使うときは、体内の魔力を消費して発動します。小さな魔法なら少しで済みますが、何度も使ったり、大きな魔法を使う時には、それに見合った魔力が必要になります」
彼は少し言葉を切り、真剣な表情を浮かべながら続けた。
「それに、限界を超えて魔力を使いすぎると、身体に強い反動が返ってきます。意識を失ったり、筋肉が痙攣したり、最悪の場合は命を落とす危険もあるって……父さんから教わりました」
彼の言葉には重みがあり、その場の空気を一段と引き締めた。
「うむ、完璧じゃ。兄妹揃って優秀じゃな」
オルドはにっこりと笑みを浮かべた。
「ということじゃから、まずは魔法の基礎から始めていこうかね」
その言葉を聞いた瞬間、リーアの顔から一気に輝きが消えた。わくわくとした表情が一転して、あからさまな落胆の色を浮かべる。
「基礎?」
ぽつりと呟いたのはルドルだった。彼には『魔法の基礎』という概念がまだピンと来ていないようだ。
「そうじゃ、やることは簡単じゃ」
そう言いながら、オルドはその場に座り、あぐらをかいた。
「目を瞑り、心臓から頭、両手、両足へと魔力を送り出すイメージを持つのじゃ。そして次はその逆。両足、両手、頭から心臓に向けて魔力を戻す。これを繰り返すのじゃ。やってごらん」
三人はそれぞれ、言われた通りに目を閉じ、静かに魔力を流すイメージに集中し始めた。
ルークはすぐにコツを掴んだようで、深呼吸をしながら滑らかに魔力を流していた。彼の顔には余裕があり、その動きにはまるで熟練者のような安定感があった。
一方、リーアは普段無意識にできていたため、改めて意識すると途端にうまくいかず、眉間に皺を寄せていた。小さく唸り声を上げながら、何度も目を閉じ直し、魔力の流れを感じようと必死に取り組んでいる。
ルドルはというと、全身に力が入りすぎていて、魔力の流れどころか、感覚すら掴めていない様子だった。唇を噛みしめ、額に汗を浮かべながらも懸命に取り組んでいるが、その姿はまるで泳ぎを知らぬ者が荒波に飲まれそうになっているようだった。
オルドはそんな三人を見守りながら、瞳を細めた。
彼は水晶玉などの道具に頼らずとも、周囲の魔力の流れを直接感じ取ることができた。長年の修練と研鑽により、視覚とは別の“感覚”で魔力の動きを読み取る術を身につけていたのだ。
今、ルークとリーアの体内には確かな魔力の循環がある。大小に差はあるが、それぞれの魔力が自身の中心を起点に、しっかりと流れているのがわかる。
しかし——ルドルだけが違った。彼の目はルドルに向けられ、表情はどこか険しい。
「……やはり、妙じゃな。魔力の流れを全く掴めぬだけならともかく、反応がなさすぎる」
かつて語り継がれる伝説の中で、勇者は魔法のような現象を自在に操ったとも言われている。だが、別の逸話ではその勇者は一切の魔法を使えなかったとも伝えられていた。
オルドの耳に届いていた話では、ルドルがとっさに相手の動きを封じたという出来事があったらしい。それは明らかに魔法に似た現象。
もしそれが事実であるならば、魔力を介さずに現象だけを引き起こす、常識外れの力だ。偶然とは思えない何かが、彼の内に確かに眠っているのだろう。
かつて伝えられた逸話と重なる“何か”を、オルドはルドルの中に感じ取っていた。魔力の流れを持たずとも、空気に溶けるような存在感。そしてその静けさの内に蠢く、未だ目覚めぬ力。
その異質な“沈黙”が、オルドの背筋に淡く冷たい戦慄を走らせた。
「ふむ……もしやと思ったが……」




