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14話

 カーテンの隙間から朝の陽光が差し込み、ルドルの頬をやさしく撫でていた。柔らかなその光に、彼のまぶたがぴくりと震える。


 「……ん、う……」


 かすかな呻き声とともに、ルドルの瞼がゆっくりと開かれた。視界には、木の梁が走る見慣れた天井。自室の天井だった。


 「いつの間に……帰ってきたんだ……?」


 まどろみの中で見ていた夢は、まるで現実のような鮮烈なものだった。


 鼓動は早く、呼吸も浅い。夢の余韻がまだ胸を締めつけていて、掌には剣を握った感触すら残っているようだった。


 「あれ……夢……?」


 額には冷や汗がにじみ、指先がかすかに震える。玉座の前に立つ白銀の髪の人物。紅の瞳に宿る静かな怒りと、背後に広がる深い孤独。


 その姿を思い出すたび、背筋に冷たいものが走った。


 「あれが……魔王……」


 誰に語るでもなく、唇が自然と動いた。


 「アニマ……アニクト……ステラ……」


 懐かしむように、呼び戻すように呟いた名前。胸に手を当てると、そこに熱があった。痛みはないが、何かがこみ上げてくる。


 あの四人。勇者とその仲間たち。彼らの存在は夢でありながら、確かな記憶のようでもあった。


 「起きてる? ルドル」


 ドアが開く音と共に、母が部屋へ入ってきた。ベッドに座るルドルの顔を見て、驚きの声を上げる。


 「大丈夫!? どうしたの、その顔……」


 母が駆け寄ってくるその時、ルドルは初めて自分の頬を伝う涙に気がついた。


 「どこか痛いの!? 熱は……」

 「……大丈夫。大丈夫だよ、お母さん」


 そう言って涙を拭うが、次々とあふれてくる。


 「ちょっと怖い夢を見ただけだから」

 「本当に?」


 母はルドルの額に手を当て、脈を測り、小さくため息をついて微笑んだ。


 「わかったわ。落ち着いたら朝ご飯にしましょう」


 そう言ってルドルの頭をそっと撫でて部屋を出て行く。扉の向こうからは、父を叱る母の声が響いていた。


 その日の朝、食卓を囲むのはいつもの三人。父は、母の怒りを必死に宥めていた。


 勇者の剣の在処については母にも明かさず、「疲れて眠ってしまったルドルを背負って帰ってきた」とだけ説明していた。


 父はルドルを背負って帰ってきたせいなのか、なぜか体中傷だらけだったが、それについては「ちょっと転んだだけ」と軽くごまかしていた。


 「ごちそうさま!」


 母と父のちょっとした喧嘩を横目に、ルドルは美味しい朝食を食べ終え、部屋へと戻った。


 席を立つころになっても、父の言い訳は続いていた。


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 昼食後、父が妙に張り切った様子で声をかけてきた。


 「そろそろルドルにも少し稽古をつけるか」


 得意げな笑みを浮かべる父に、母は冷ややかな視線を送る。


 「あまり無茶なことはしないでくださいよ?」

 「……分かってるって」


 その時、玄関をノックする音が響いた。


 「来客か、誰かな」


 父がわざとらしく大声を出し、ルドルが立ち上がる。


 「僕が見てくるよ」


 玄関へと向かったルドル。扉を開けると、そこにはリーアとルークが立っていた。


 「……こんにちは」


 青い髪をふわりと揺らしながら、リーアが控えめに挨拶する。そしてルドルの顔を見ると、その表情がぱっと明るくなった。


 「勇者様! こんにちは!」


 その声に引かれて、両親もリビングから姿を現す。


 「ルドル君、こんにちは。あれからお体は大丈夫かい?」と、ルークが穏やかに問いかける。


 「リーア、こんにちは!」とルドルが元気よく返し、「もう元気いっぱいだよ!」とルークに笑顔を見せた。


 「あらリーアちゃん、今日も来てくれたのね。今日はルドルがいて良かったわね」


 母は優しい笑みを浮かべた。


 リーアは、命を救われて以来ルドルに強い憧れと感謝の念を抱き、ほぼ毎日家を訪れていた。


 ルドルを“勇者様”と呼ぶその姿に、ルドルは少し照れくさそうに微笑み返す。


 「あなたと遊びたくて来てくれたんだから。遊んでらっしゃい」


 母に背を押され、ルドルはうなずいた。一方で、稽古の話が流れたことに、父はひそかに肩を落としていた。


 「ねえ、今日は草原のほうまで遊びにいける?」とリーアが嬉しそうに尋ねる。


 「草原? 村の外に行くならあんまり遠くには行くなよ」と父がルドルに釘を刺す。


 「うん! ちゃんと気をつけるから!」


 ルドルはリーア、ルークと共に家を出た。陽光が降り注ぐ草原を歩きながら、彼の心はどこか懐かしい記憶に導かれるようだった。


 その記憶の先に、再び“あの夢”が浮かび上がる。魔王と対峙した、あの戦いの一幕が。


 (あれは夢じゃない。……きっと)


 ルドルの胸の奥で、何かが静かに目を覚ましつつあった。

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