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どうでもいい話 脱力エッセー  作者: カキヒト・シラズ


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シリーズ世界文学最高峰⑥ 人間喜劇 vs アメコミ・クロスオーバー

初出:令和7年9月14日


 さて、バルザック「ゴリオ爺さん」を読了した。

 前回の「嵐が丘」に次いでモームの十代小説の未読作品を読んだ。これで「デイヴィッド・コパフィールド」と「トムジョウンズ」の二作品以外、制覇?したことになるが、残りの二作品は読むかどうか決めてない。


1.「ゴリオ爺さん」のあらすじ


 舞台は19世紀前半、第二王制時代のフランス、パリ。

 ヴォルケール館という、貧乏人向け賃貸アパルトマンの描写から始まる。

 ここはまかないつき下宿という寮のようなアパルトマンだ。10名程度の住人がいるが、彼らは食事どきに食堂で顔を合わせるので顔なじみになっている。

 タイトルロールのゴリオ爺さんは、ここに住む一人暮らしの老人。元製麺業者で今はリタイアしているが、ときどき複数の若い美人が彼を訪れるので、貯金を風俗に全振りするスケベじじいと噂をたてられる。

 だが実は若い美人はゴリオ爺さんの二人の娘。社交界に出入りする貴族や銀行家に嫁いだので、二人はいつも豪華な身なりをしているが、ときどき父親に金を無心にくる。

 ゴリオ爺さんは製麺業者時代に稼いだ貯金に加え、財テクの投資で儲けており、ヴォルケール館の住人にしては資産家だった。


 主人公、ラスティニャックは地方からパリに出てきた二十二歳の法学部の大学生でヴォルケール館の住人。

 地方の実家は裕福ではないが、社交界で活躍するポーセアン夫人と遠縁の親戚だ。

 出世を夢見るラスティニャックはポーセアン夫人のコネで社交界でデビューする。

 大学で法律を勉強して検事を目指すより、社交界で有力者と懇ろになった方が出世の早道だ。そう考えたラスティニャックは大学はさぼり、社交界に出入りする。


  社交界でラスティニャックはデルフィーヌという銀行家の夫人と知り合い、恋仲になる。ところがデルフィーヌはゴリオ爺さんの下の娘だった。

 デルフィーヌはあるときラスティニャックに冷たく当たる。ラスティニャックは彼女にふられたと思い、ヴォルケール館の食堂で落ち込んでいると、同じヴォルケール館の住人で、ラスティニャックの事情を熟知しているヴォートランという中年男が声をかける。

 デルフィーヌはあきらめ、同じヴォルケール館の住人のヴィクトリーヌと結婚せよ、とヴォートランはラスティニャックに提言する。

「ヴィクトリーヌの親戚の金持ちだがもうすぐ決闘で死ぬので彼女に多額の遺産が入る。彼女と結婚するとおまえは逆玉のこし。しかも彼女はおまえを好いている」

 実はヴィクトリーヌの親戚の決闘相手はヴォートランの知人で拳銃の名手。決闘すればますヴィクトリーヌの親戚の方が死ぬ。

 ヴォートランの説得にラスティニャックは心を動かされる。


 ところがヴォートランは本名ではなく、仮の名で警察に追われている指名手配犯だった。

 前科もあり、マフィアの親分で手下も多く、非合法な手段で大金を稼いでいたが、警察の目をくらますため、わざとヴォルケール館のような貧乏長屋に身をひそめていた。

 警察はあるとき、ヴォルケール館の住人を買収し、ヴォートランの食事に睡眠薬を混ぜ、彼が眠ったら肩の刺青を確認せよと命じた。もし刺青があれば指名手配犯にまちがいないとのこと。

 かくしてヴォルケール館で住人が食事中、警察が訪れ、ヴォートランは逮捕される。


 一方、あるときゴリオ爺さんからラスティニャックは相談される。

 デルフィーヌが冷たくしたのはサプライズで新居を建設していたからとのこと。弁護士を通じて旦那の銀行家と離婚し、膨大な慰謝料を得た。ついてはラスティニャックと結婚して新居に住み、残りの金で一生遊んで暮らそうとのこと。ただし条件としてゴリオ爺さん自身も新居に同居させること。

 ラスティニャックはこの提案に同意する。


 ところがその後金銭トラブルが起きる。

 銀行家の旦那が事業に失敗して保証人にされていたデルフィーヌが多額の借金を負ったり、貴族に嫁いだデルフィーヌの姉がやって来て、愛人がギャンブルで多額の負債を背負ったなど、ゴリオ爺さんに娘たちが金の無心に来る。

 ゴリオ爺さんは一文無しになって寝込んでしまう。ラスティニャックと友人の医学生がゴリオ爺さんの最期をみとるが、二人の娘は来ない。

 一方、ラスティニャックのパトロンだったポーセアン夫人がパリを去る。

 最後にスティニャックは「今度はおれが相手だ」と叫び、社交界に戦いを挑む決意を新たにする。



2.人間喜劇の人物再登場


 さて、これはフランス文学史のトリビアだが、バルザックの全作品は「人間喜劇」というシリーズになっている。

 「人物再登場」と呼ばれる手法を用い、同一のキャラクターが複数の作品に登場するとのこと。

 今の時代のわれわれからすれば、小説にかぎらす、映画、ドラマ、漫画、アニメ、ゲームなどシリーズ物と呼ばれるものは「人物再登場」が当たり前で、「だからどうした」と反論したくなるが、シリーズ物フィクションの元祖が「人間喜劇」だから、「バルザック先生はえらい」という理屈かもしれない。

 またこれまたフランス文学史のトリビアだが、バルザックの「人間喜劇」をパクったのが、エミール・ゾラの「ルーゴン・マッカール叢書」とのこと。こちらも「人物再登場」するらしい。

 しかしながら小生はバルザックは今回の「ゴリオ爺さん」、ゾラは「ナナ」しか読んだことがなく、それぞれ1作なので「人物再登場」はいずれも確認できない。


 ところで「人物再登場」と言えばアメコミのクロスオーバーやマルチユニバースを想起する。

 「人間喜劇」は二百年経て、クロスオーバーやマルチユニバースに進化したということか。



3.老人の「ゴリオ爺さん」化のすすめ


 ところで「ゴリオ爺さん」の最大のテーマは、親バカの悲劇だろうか。

 二人の娘のために財産を散財し、自己破産に追い込まれる年金暮らしの老人。

 「ゴリオ爺さん」を読めば、親は子供に金はやらず、自分で全部使いましょうというメッセージを読むことができるが、こうしたメッセージは老人たちがよく見る朝の地上波テレビ番組でも流れている。

 家を売って当社の高級老人ホームに入りましょう。遺産は1円たりとも子供たちに残さず、全額当社のにお支払いください。老人ホームは夢のパラダイスです。

 虐待問題がときどき明るみになる老人ホームだが、テレビで情報操作されてだまされている老人も多いのではないか。

 老人ホームの運営会社だけではない。金融業者の方が老人の貯金をつけねらう。

 子供に取られるより、貯金はわれわれ金融業者に全振りしてNISAに投資してください。

 こんなメッセージがマスコミからよく流れてくる。


 生涯所得の半分以上を広義の税金でとられる現在の日本。

 子供や業者に貯金を取られる以前に行政が全部持っていく。

 高税率の国にあって、親バカの「ゴリオ爺さん」の方が、真に搾取されない老後を過ごせるのではないか。

 そう感じた。


(つづく)

 

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