シリーズ世界文学最高峰⑤ 「嵐が丘」vs「高慢と偏見」vs「騎士団長殺し」vs「水いらず」
初出:令和7年9月12日
サマセット・モームの世界十大小説をご存じだろうか。
小生はこのほど未読だった十大小説の一つ、エミリー・ブロンテ「嵐が丘」を読んだ。
十大小説のうち、これで既読は7作、未読は3作になった。
ところで「嵐が丘」は女性が10代のころ、ジュブナイル版の少女小説か、漫画やアニメでたしなむものというのが小生の理解で、男子たるもの厨房に入っても「嵐が丘」は読むべからず、という変な自分ルールでこれまで敬遠していたが、オリジナルの小説を読むとさすがモーム先生が選んだだけに十大小説の風格がある。
いい意味でも悪い意味でも19世紀世界文学の古典と呼ぶにふさわしい。
1. 女にとって理想の男 vs 男にとって理想の女
十大小説のうち、女流作家が執筆した作品は二つある。一つは前述の「嵐が丘」でもう一つはジェイン・オースティン「高慢と偏見」だ。
小生は20代後半に「高慢と偏見」を読んだが、ほぼ詳細は忘れてしまっている。
貴族階級のタカビーな独身女性が婚活して男をゲットするというようなストーリーだったと思う。
他に覚えているのは、「金持ちの男は結婚したがる」というフレーズぐらいか。
つまり「なかなかいい男がゲットできない独身女性の悩み」を描いた小説だろう。
これに対し、私は村上春樹「騎士団長殺し」を「なかなかいい女をゲットできない独身男性の悩み」を描いた小説として読んんだ。つまり逆「高慢と偏見」である。
厳密には「騎士団長殺し」のメインストーリーではなく、免式渉という登場人物のサイドストーリーが逆「高慢と偏見」になっている。
(拙作エッセー「読書感想速報!『騎士団長殺し』ってどうよ」をまだ未読の方は是非お読みください。
https://ncode.syosetu.com/n1369dw/ )
免式渉は貧乏なイケメン青年。彼女がいたが、彼女は免式を裏切って、中年の資産家と結婚してしまい、大いにショックを受ける。女が信用できなくなるのだ。
その後、免式はITベンチャーを企業して成功し、大金持ちになる。イケメンで金持ちの独身男性なのでたくさんの女性から求婚が相次ぐが結婚しない。どの女性も自分を愛してるのでなく、自分の財産目当ての求婚に思えてしまうからだ。
免式はゲイではないかとの噂もたつが、それでも免式は一生独身を貫く……。
小生は男性だからか「高慢と偏見」より「騎士団長殺し」の免式のエピソードの方が感情移入しやすい。
いずれにせよ、「高慢と偏見」は小生の既読済の十大小説の中ではワーストワンだ。
2.「水いらず」を知っているか
実はマイナーな作品だが哲学者ジャンポール・サルトルが書いた「水いらず」という短編小説がある。
これはある意味、「高慢と偏見」の魔改造バージョンとも言える。
「女性にとって結婚相手として理想的な男性はなにか」を追及した小説が「高慢と偏見」なら、「プレーガールにとって同棲相手として、またはセックスパートナーとして理想的な男性はなにか」を追及した小説だからである。
ボーボワールと契約結婚したサルトルならではの変則的な結婚観かもしれない。
恋多きヤリマンの女性主人公が、多彩な男性遍歴の末、あるいは多彩なセックス遍歴の末、ついに到達した究極のいい男とは……イケメンでも金持ちでもエリートでもましてやセックスがうまい男でもなく、なんの取柄もない、やさしいだけのダメンズだった。これがラストのオチである。
いい男とは特別な才能を持った偉人ではなく、そこらへんにいる普通の凡人だというメッセージ。
童話「ねすみの嫁入り」の18禁バージョンといったところか。
3.「嵐が丘」で男女対決痛み分け
ところで「嵐が丘」であるが、「高慢と偏見」と「騎士団長殺し」の男女対決が痛み分けになった作品といった感じがする。
主人公ヒースクリフとキャサリンは相思相愛だったが、あるときキャサリンはエドガーからプロポーズされる。
キャサリンはこの件で信頼できる召使と相談するが、エドガーは財産家でヒースクリフは(その当時)無一文状態であることからエドガーの結婚を決意する。
その会話をこっそり盗み聞ぎしていたヒースクリフはショックで家出をする。
三年後、エドガーの人妻となったキャサリンの前に忽然と姿を現すヒースクリフ。
その後、ヒースクリフの復讐が始まるというストーリーだ。
キャサリンの裏切りはヒースクリフの復讐をもって帳消しとなる。
そんなことより、行方をくらましていた三年間、ヒースクリフはどのように詐欺師の修行を積んでいたのか、読者としては知りたいところではある。
復讐譚と言えば、デュマの「モンテクリスト伯」を想起させる。
恋愛小説として知られる「嵐が丘」だが、もう少しサスペンス色を強くして「モンテクリスト伯」のような復讐譚を中心にした方が面白かったのでは、と勝手に「嵐が丘」の魔改造を妄想してしまう。
(つづく)




