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どうでもいい話 脱力エッセー  作者: カキヒト・シラズ


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シリーズ世界文学最高峰④ 「カラマーゾフの兄弟」は三兄弟でなく四兄弟?

初出:令和7年9月6日


 さて、ドストエフスキーの名作「カラマーゾフの兄弟」について、評論でも感想でもなく、戯言を書きたくなった。

 同作品はサマセット・モームの世界十大小説に選ばれていること以上に、ネットでもたくさんの人が評論や感想を書いている。だから小生が知ったようなことを書くと恥をかくのではという懸念があったので、これまで言及するのを避けてきた。

 だが某SNSの某文学コミュで「カラマーゾフの兄弟」の感想を見つけ、「それはちがうだろう」と腹が立ったことがこの文章執筆の動機になった。

 今これを読んでいるあなたがドルトエフスキーファンなら、以下の文章を読んで同様に「それはちがうだろう」と腹を立てないでいただきたい。



①カラマーゾフの兄弟は三兄弟ではない


 カラマーゾフの兄弟とはだれか。

 長男ドミートリー、次男イワン、三男アリョーシャの三人が思い浮かぶ。

 しかしもう一人、スメルジャコフがいる。彼を含めるとカラマーゾフの兄弟は全部で四人だ。

 スメルジャコフは三兄弟の父、フョードルの召使いであり、戸籍上はカラマーゾフ家の人間ではない。

 しかしスメルジャコフはヒョードルが女ホームレスをはらませて産ませた子供だとのうわさがある。

 そうだとするとスメルジャコフもカラマーゾフの兄弟の一員だ。

 

 「カラマーゾフの兄弟」はタイトルからしてカラマーゾフ家の兄弟の物語であることは明らかだ。

 作者ドストエフスキーは、長男ドミートリー、次男イワン、三男アリョーシャの三人に加えて、このスメルジャコフを四人目の兄弟として、つまり作品全体の主要キャラとして意図的に設定したのではないか。



②頭脳明晰キャラ VS 謎の男キャラ


 ドストエフスキーファンにはおなじみだが、ドストフスキーの作品には主人公である頭脳明晰キャラと謎の男キャラが登場する。

 謎の男キャラはもう一人の主人公的な立ち位置で、思想的に主人公を補完する表裏一体キャラかもしれない。頭脳明晰キャラがテーゼなら、謎の男キャラはアンチテーゼといったところか。

 「罪と罰」では頭脳成績キャラがラスコーリニコフであり、謎の男キャラがスヴィッドガイロフだ。

 「悪霊」では頭脳明晰キャラがスターヴローギンであり、謎の男キャラがキリーロフだ。

 「カラマーゾフの兄弟」では頭脳明晰キャラがイワンであり、謎の男キャラがスメルジャコフだ。

 イワンの実存主義的思想は高尚に思えるが、本当はこれほど邪悪で愚かなのだということをスメウジャコフという”鏡”でイワンに提示する。これがスメルジャコフの全編の役割だ。

 だが作者ドストエフスキーはこれによってイワンの思想を完全に否定したわけではない。

 むしろイワンをテーゼ、スメルジャコフをアンチテーゼとして弁証法的にイワンの思想を強化したのだ。

 だがその一方で作者はイワンの思想を完全に勝利させたわけではない。



③「カラマーゾフの兄弟」の主人公はだれか


 「カラマーゾフの兄弟」で主人公はだれかが評論家の間で議論になることがある。

 普通に考えると三男アリョーシャだ。

 物語の冒頭で作者は本編はアリョーシャの物語だと宣言している。ただし厳密には現存する「カラマーゾフの兄弟」はプロローグで、アリューシャが中高年になってロシア正教の偉い僧侶に出世し、聖人君主的な快挙を成し遂げる話というのが、作者の当初の構想らしい。


 確かに「カラマーゾブの兄弟」はアリューシャを中心に物語が進む。

 登場回数も登場する長さでもアリューシャが主人公であることは明らかだ。

 ただ全編のメインストーリーが長男ドミートリーの話なのだ。


 ドミートリーと父ヒョードルはグルーションカという一人の女性をめぐって争っていた。

 ドミートリーの母はヒョードルの最初の妻だが大昔に離婚。二番目の妻はイワンとアリューシャを産み、今は他界している。ヒョードルはやもめなのだ。

 ドミートリーはある夜、ヒョードルの家に忍び込み、ヒョードル殺害を企てるが、召使に見つかり、殺害せずに逃げてかえる。

 ところが後日、ドミトリーは警察に殺人犯として逮捕される。ヒョードルが何者かに殺害されていたからだ。

 

 さて、ドストエフスキーファンなら、主人公かどうかはともかく、全編の最重要キャラが次男イワンであることに同意するだろう。

 ”父親殺しの殺人事件”が全編のメインストーリーかもしれないが、イワンをめぐる哲学的思想対決の方が読者の関心を惹くだろう。

 当初はゾシマ長老とイワンの思想対決、ゾシマ長老逝去後、有名な「大審問官」の章ではアリューシャがゾシマ長老にかわり、イワンと思想対決を繰り広げる。

 神vs悪魔、キリスト教的人道主義vs唯物論的実存主義。

 さながら聖書の「ヨハネの黙示録」におけるハルマゲドンのような哲学上の最終戦争が「カラマーゾフの兄弟」の醍醐味であり、メインストーリーである”父親殺しの殺人事件”など、そんな些細なものは吹き飛んでしまう感がある。



④「おれたちの戦いはこれからだ」の思想版


 ゾシマ長老が亡くなるとき腐臭がする。

 聖人なら死んでも腐臭はしない。腐臭がするのは聖人ではない。

 このような説明があらかじめされており、ゾシマ長老は敗北したかに思える。

 ゾシマ長老の敗北は、「神vs悪魔」の最終戦争で「神」が敗北したことを暗示させる。

 だが作者が「カラマーゾフの兄弟」で意図したのは「神」の敗北だろうか。

 おそらくそうではなく、「神=キリスト教的人道主義」はまだ完全に「悪魔=唯物論的実存主義」に勝利したわけではない、というのが全編の作者のメッセージだと思われる。


 特撮やアニメの最終回で、ラスボスを倒さず、「おれたちの戦いはこれからだ」で終わるパターンがよくある。

 「カラマーゾフの兄弟」もまた「おれたちの戦いはこれからだ」のように、「神」の勝利に向け、果敢に思想的ハルマゲドンの戦いに挑んでいくところで終わっている。


 以上が小生の「カラマーゾフの兄弟」の解釈だ。

 

(つづく)

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