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第十四話 人類解放軍と最悪の戦い

 あまりにもおそまつな外見の洞窟にはいると、すぐそこには光る球体……次元門があった。


「って、ここダンジョンかよ」


「そうだよ。ダンジョンの中に拠点があるから」


 そう言って、ミカは次元門へと入っていった。

 

 俺も半信半疑ながら次元門を潜ると、中は駅前にある地下街みたいな感じだった。


 広い道が真ん中を走っていて、その脇に色々な部屋がある。


 多くの部屋には扉がなくて、武器屋、防具屋、飯屋もあるし、ヨガ教室も一つあった。

 あんまり『人類解放軍』って感じはしないけど……まあ、生活するには便利そうだ。


「地上より、ダンジョンの中の方が魔物が居ないからね」

 と、ミカが自慢げにつぶやく。


 まさかダンジョンに暮らそうとは、まさにコペルニクス的回転というか、逆転の発想というか……

 しかし、やっぱり狭い場所である事には変わりなく、息苦しさも感じるな。


「ミカさん、おかえりなさい! おおっ、まじで生き残りが居たんですか?」

 武器を研いでいる職人風の男が、ミカに声を掛けてきた。


「お疲れ、ヤス。ほら見てよ、【最悪の裏切り】の生き残り、見つけてきたよ」


「本物ですかぁ? 別人なんじゃないんですか?」


「え、ミカさん?」


「お帰りなさい! 隣の方があの『不死の男』ですか?」


 道を歩いているだけで、続々と人が集まってくる。


 そして俺を迎える人たちの目は驚きと疑いで半分半分といったところだった。

 

「どうも、黒木康隆です。はじめまして」


 今後は多分仲間になる人達だし、頭を下げながら俺は道を進んだ。


 そして道の突き当りまで進むと、防火扉のようになゴツイ扉が構えていた。


「この奥に代表が居るから」

 それだけ言って、ミカはノックせずに扉に手をかけた。


 ……ていうか、代表って誰だろ? 普通に考えたら、大河原統合部長かな?


 魔神界攻略に向かわなかった人の中で、一番えらい人って言ったらあの人くらいだし。


 そう思いながら扉の向こうに進むと……そこに居たのは……


「やあ、黒木さん。おかえりなさい」


「え……コガネ?」


 かつて総務部で働いていた彼女。そして、事件の黒幕であるリリィ室長の姉妹。


 コガネ・イシグロだった。


 外見はいぜんとさほど変わりがなく、どことなく生真面目そうな雰囲気だったが……


「ひさしぶりですね。黒木さんが生きててくれてよかったです」

 すぐに顔をほころばせて、質素な木の椅子から立ち上がった。


「一体、どういうことだ? なんでコガネがリーダーに?」


「ま、信望ってやつですかね?」


「……信じられないな」


 色々な意味で、信じられない。

 人類の未来が、この変人の手に委ねられているのか?


「……こう見えて、結構人を使うのが上手いからね。

 他の連中は戦うことしか出来ないけど、コガネさんは他の仕事も出来るから」


 ミカがコガネのフォローを挟む。が、苦い顔をしてるから、彼女も全面的にコガネがトップという事に納得はしていないんだろう。


「あのさ、別にコガネに文句があるわけじゃないけど……大河原部長は?

 俺はてっきりあの人がトップかと……」


 俺が言うと、コガネとミカの二人は顔を見合わせた。

 表情は暗い。


「どうしたんだ?」


「いや、あの人は……五年前に死んだよ」


 ☆


 時間は五年前に遡る。


 魔神界攻略遠征組が、リリィと彼女が率いる魔物たちによって壊滅、その事件が【最悪の裏切り】と名付けられたあとになって、世界中で魔物が戦士たちを狩り始めた。


 反抗勢力の芽を摘むために行われたこの行為は【最悪の侵略】と呼ばれ、多くの企業戦士、あるいは国に所属していた戦士達が殺された。


 日本国内で特に狙い撃ちされたのは、井川鉄鋼ダンジョン攻略部。


 彼らの上位半分は【最悪の裏切り】によって壊滅したが、まだ半分が、そして何より組織のトップである大河原道真(おおかわらみちざね)が残っていた。


 リリィ・イシグロはその男(大河原)こそが生き残った人間の中での最大の――あるいは、【最悪の裏切り】で死んだ人間を全員含めたとしても、最大の脅威になると考えていた。


「大河原部長は、木村省吾より『全てにおいて』格上だ。絶対に生かしておけない」


 リリィはかつて自身が第一室に所属していた経験から、そのことを重々承知していた。


 大河原は井川鉄鋼100年の歴史でも最強の呼び声も高く、現役を退いて、力も衰えただろう今も、おそらく彼の最強は揺るがない。


「行くぞ。私達も手を抜くわけにいかない」


 そしてリリィは、彼女が率いる魔神教会の中でもよりすぐり。

 【魔王】の称号を持つ特別な魔物七匹を引き連れ、井川鉄鋼の残党狩りに向かった。


 戦いの舞台となったのは魔神界への次元門のそば、富士山の麓に広がる高原だった。


 井川鉄鋼側の戦力は、大河原道真をトップに、あとは第六室から第九室までのほとんどのメンバーが集っていた。


 しかしその場には第十室所属の七目ミカは居合わせていなかったし、コガネ・イシグロも居合わせなかった。


 なぜなら、二人はリリィ・イシグロに(ちか)しい人間であり、他の社員達に信頼されていなかったのだった。


 前回は、リリィの裏切りによって敗北した。


 同じ(てつ)を踏まないためにと、戦力になることが分かっていても、リリィと関係の深い人間はその最大の戦いに呼ばれなかったのだった。


 戦いは常に魔神教会の優勢で進んだ。


 七人の魔王は人間たちにとって、かつて無い強敵。


 井川鉄鋼側は、すぐに大河原道真一人を残して、後は殺されるか逃げるかとなった。


 実質的に戦いは彼一人と、七人の魔王。そしてリリィという形に。


 そして、最後には大河原道真も敗れた。


 しかし、この状況下において三人の魔王を道連れに倒すことが出来たのは、世界でも彼一人だっただろう。


「……なるほど、確かに……強い」

 血にまみれた姿で、大河原は愛刀の【紙切り】を地面に深く刺しこみ、それに体重を預けることで、かろうじてその場に立っていた。


 それを見て、既に彼に戦う力は残っていないと判断し、リリィは彼に近づいた。


「さあ大河原部長。これで終わりです」

 リリィは大鎌の刃を大河原の首に近づけた。

「残す言葉は?」


「一つ聞きたい」

 と、大河原は呟いた。

「お前たちが殺した人間の中に、黒木康隆は居るか?」


「どうしてそんなことを?」


「最後の頼みだ。教えてくれないか?」

 

 リリィは奇妙に思いながら、頷いた。


「その男なら、『監禁』していますよ」


「やはり、殺せなかったんだな」

 大河原は笑った。


「どうせ雑魚です。死ななくても、障害にはなりません」

 リリィはその事実に、そして敗者である大河原の微笑みに腹が立った。

「そしてあなたはここで死ぬ」


「……ふふ、私は何も恐れていない。

 なぜなら、既に次の世代の芽を見つけているからだ……

 盛者必衰……お前たちは彼に負けるだろう……いつか必ず」


「あなたが勝てないのなら、人類の誰も私には勝てない。戯言です」


「確かに今は小さな芽。だが、その芽は踏みにじっても、引き抜いても、より強固に成長する。

 お前はいずれ気づくだろう。はじめから敗北は決まっていたと……」


 言葉の途中で、リリィは我慢の限界に達した。

 敗者らしくない態度を取る老人の首を跳ね飛ばし、満身創痍の体を引きずって、その場を後にした。


 しかし、その言葉はリリィの心に一つの不安の種を巻いた。


 後に彼女は、部下にこう命じた。


「黒木康隆に対して、あらゆる方法を試し、やつを殺す手段をさぐれ」


 そして黒木に対する5年間の拷問が始まったのだった。


 ☆


「そうだ」

 大河原部長の死を告げ、それを(いた)むような長い沈黙の後にコガネは不意にそう呟いた。


 そして机の引き出したから一つの封筒を取り出すと、俺に手渡してきた。


「……? なんだこれ?」


「大河原部長から、黒木君への手紙」


「俺に? どうして?」


「さあ、開けてみないとわかんないですね」


「……わかった」

 

 なんだろ? 正直、想像もつかないな。


 そう思いながら、封筒を開けると、中からはやけに達筆な字で書かれた手紙が出てきた。


 『黒木康隆君へ


 この手紙を君が読んでいるということは、多分私は……死んでいるかもしれない。

 

 どうして自分に手紙を? と、不思議に思うかもしれない。


 だが、まず一言君に謝罪させてくれ。すまなかった。


 君にはずっと大切なことを隠していた。


 こんなことを伝えられても、君は困惑するだけかもしれないが……


 君は私の息子だ。


 比喩的な意味ではなく、言葉通りの意味で……』


 え……どういうことだ。


 そんなワケない。俺には……俺は……いや、でも。


 混乱してきた。頭が重い。


「大丈夫? やっすー」

 ミカが心配そうな顔で俺を見て言った。


 ……そんなに顔色に出てたかな?


「あ、ああ。大丈夫だよ」


 とりあえず。続きを読まなきゃいけない。それだけが今分かる事だった。


 『……本当にすまなかった。

 

 君のことを公的に認めるわけにいかなかったんだ。

 

 君の母さん、泰子は私の愛人だった。そして、本妻との間には授からなかった子供を、彼女が授かった。


 泰子は私に結婚を迫ったが、私は断った。社会的立場によって、そんなことは許されなかった。


 ……失望しただろうか? だとしたら、すまない。


 やはり、本当は話すべきではなかったかもしれない。


 もう泰子がこの世に居ない以上、私から話さなければ、永遠に事実は闇の中だっただろう。


 その方が良かっただろうか?


 けれど……そうは出来なかった。どうしても……君に自分が父親だと明かしたかった。

 

 「どうして僕を見捨てた」と、君は怒っているかもしれない。


 だが、いまさら恩義せがましいことを言いたくはないが、私は君が井川鉄鋼に入れるように助力もしたし、君が成人するまでの生活費も全て……いや、やめよう。私は臆病者になっているようだ。


 私が卑怯者なのは確かだ。それは認める他にない。


 だが、勘違いはしてほしくない。


 きみをダンジョン攻略部に移動させた事については、父親だからじゃなく、上司としてそうした。

 

 君には才能がある。誰にも負けない、素晴らしいものがある。


 私は父として……いや、上司としてそれを誇りに思う。


 最後にもう一度……すまなかった』



「やっすー、泣いてるの?」


 ミカに言われて、俺は自分が泣いている事に気づいた。


 一体何のための涙なのかはわからないけど。泣いていた。


 嬉しくも、悲しくも、苦しくも……あるような、ないような……


 妙な話だった。


 はじめから無かったはずのものが、今更あったと言われて、どうすればいい?


 感情のぶつけようがない。


 ただ……


「もう一つ、戦う理由が増えたよ」


 それだけは確かだ。父さんを殺したリリィ室長を許す訳にはいかない。

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