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魔族転生  作者: 桃源郷
第一章 幼年期
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育ての親と実の家族と魔法の研究

主人公は無事に成長できているのでしょうか? そして、名前はどうなってしまったのか・・・


第一章 幼年期 第二部の開幕です。

どうぞ、最後までお楽しみくださいませ。

それから、5年の月日が流れた。


前世の記憶は全く無くならず、山下 圭一としての記憶がバッチリ残っている。4歳になっても記憶が無くならなかった時はこのまま記憶を維持する事になったら色々不都合が出るんじゃないかと焦ったけど、幸い、魔族の外見は恐ろしいようなものでもなく、魔族の常識は周囲の状況を見聞きしていれば自然と手に入るから、特に問題は無さそうで一安心。



セシリアさんはとても優しく、暖かく俺の世話をしてくれている。感情の起伏が乏しく、表情はほとんど無いんだけど、片時も俺から目を離さず、常に俺の気持ちを察して動いてくれるのだ。実の親でも、ここまで甲斐甲斐しく世話をしたりはしないんじゃないだろうかってくらいだ。



そのセシリアさん、知識は豊富みたいでいろんな事を教えてくれるんだけど、たまにビックリするような事をしてくれる。


まずは、俺の命名。いろんな本を読んでくれたらしく、膨大な数の候補を作ってきてくれた。現存する英雄譚(ヒロイック・サーガ)の主人公達の名前を捩ったものが大半だったように思うけれど、数が膨大過ぎて把握しきれなかったくらいだ。


話は逸れるけど、俺の名前は元の名前と同じ響きを持つケイクイルで決定してもらった。略してケイと呼んでもらえば、違和感が少なくていいって理由だ。


あと、何故にこの世界にもいるんだと嘆きたくなる黒光りするあの凶悪な害虫が出てきた時の事だ。あの頃はまだハイハイすらできなかったせいで、退治する事も逃げる事もできない。そんな状況でヤツが飛んでくるモンだから思わず叫んでしまったんだけど、<ご主人様(マスター)に危害を加えるものは許しません>とか言って、部屋の壁ごと殴り潰してしまい、壁に大きな穴が空いた。

また、前世の記憶がある俺にとって、ここは異世界なわけで、それだけに周囲には珍しい物ばかり。目が見えるようになれば、いろんな物に興味を示すのは当然だろう。それを、セシリアさんは逐一全ての物に対する解説をしてくれている。まだ1歳にもなってない頃からずっと。

離乳食が終わったばかりの頃には、明らかに俺の体積以上の量の食事を作って俺の誕生日を祝ってくれたし、字が読めるようになったから本が読みたいと言えば、部屋が埋まる程の量の本を持ってくる。


こんな感じに、いろいろと加減がないのは困る事もあるしビックリさせられるし、ツッコミ所は満載。でも、彼女の行動・言動は全てが俺を思っての事ばかりなだけに、脱力感は覚えるものの、やっぱり嬉しい。



しかし、目が見えるようになってから自分で自由に動けるようになるまでが大変だった。

セシリアさんは転生する前には見た事もないくらいの超絶美人さん。人間と外見上で違うのは、長くて尖った耳くらいなもの。それくらいの違いは、オタクな俺にはむしろご褒美です。

そのセシリアさんに抱かれてると、顔は至近距離、柔らかい胸が全身に押し付けられる。移動は抱かれてないとできないし、セシリアさんは片時も俺を離さないから、ほぼ1日がその状態で、風呂では当然全裸でその状態。体は乳児でも、俺の意識は28歳の女性経験無しのオタク非モテ男なまま。

当然、平静でいられるワケがない。全身の血液が沸騰するんじゃないかというくらいに体が熱くなってしまうのは仕方がないと思う。

しかし、そんな事は当然、セシリアさんには分からない。俺の体調がおかしいんじゃないかと、感情の起伏が乏しい彼女が慌てて動揺しまくっていた。仕方がない事ではあるとは思うんだけれど、本当に申し訳ない。ごめん。




ついでに、実の家族についても語っておこう。


母親のレリーナは廊下ですれ違う事はあっても俺に一瞥をくれる事もない。マジで俺に関する興味がないようだ。セシリアさんが俺の体調を心配して薬や魔法による治癒を願った時には、禁じる事こそなくても、くだらない事で自分の手を煩わせるなと一喝して勝手にしろと吐き捨てる程だ。


父親のガグドルは1歳になって初めて顔を見た。現在、魔族は戦争中らしく、ガグドルは軍のお偉いさんみたいで、2年振りにその日に戦地から一旦戻ってきたらしい。つまり、俺をレリーナに仕込んですぐに戦地に出たって事だな。まぁ、戻ってきても、俺の肉体ランクを聞いた途端に完全に興味を失って、レリーナ同様に次の子への期待を口にしてましたが。



んで、今の俺には兄が2人いるんだけど、コレが何とも言えないクソガキ。


長兄のガゼットは傲慢を絵に書いたような奴で、セシリアさんを含む屋敷の使用人への態度も口も最悪だ。食事の準備が遅いと喚いてはメイドさんを殴り、味が気に入らないと吠えてはコックを蹴り飛ばす。友人を屋敷に連れてくる事もあるけれど、その扱いは友人と言うよりは下僕。さらには、俺の肉体ランクを知っているらしく、事あるごとに因縁を付けて絡んでくる。

1歳にも満たない赤ん坊に凄んでどうするよ・・・


次兄のドリューシャも態度はデカイものの、強い者には徹底して弱いらしく、ガゼットの腰巾着だ。でも、ガゼットを慕っているわけでもなく、陰口は物凄い。んでもって、弱い者には強い。セシリアさんが守ってくれなかったら、こいつの憂さ晴らしで俺は殺されてたかもしれない。

俺を庇うセシリアさんを傷付けてくれた礼は必ずするぞ。毎度、ボコボコにしやがって。



さらに、一昨年には俺に弟ができた。両親の期待通りに高い肉体ランクで、なんとSSらしい。

これにレリーナは狂喜乱舞したらしく、盛大な宴が開かれたらしい。らしい、というのも俺は呼ばれていないから、後で屋敷内の会話に聞き耳を立てて集めた情報と、自分よりも高ランクの弟ができてしまった事でガゼットが荒れまくっていた時に聞こえてきた暴言とも愚痴とも言える内容から知った事なのだが。

この弟の人格がまともに育てばいいんだけど、ガゼットとドリューシャを見る限りには望み薄だよなぁ。セシリアさんに危害を加えるような感じにならなきゃいいんだけど。




ちなみに、屋敷内での俺の待遇は意外とそんなに悪くはない。

まぁ、他の兄弟と違って自室は与えられてないから、セシリアさんの部屋に身を寄せさせてもらってるし、食事も全てセシリアさんが準備してくれて、家族の食卓に混じる事はないという冷遇ぶりではあるんだが。

でも、セシリアさんの部屋は手狭ではあるものの、清潔な落ち着く空間だし、何よりもセシリアさんの作る料理はメチャクチャ美味いのだ。生活費やその他の費用はフォルティス家持ちだし、屋敷内の施設も利用は自由。無論、レリーナやガゼット達の邪魔にならないようにするのが前提ではあるけれど、それくらいはどうと言う程の事でもない。


唯一の難点は、部屋が一緒なせいでセシリアさんが未だに俺に添い寝をしてくる事だろうか。

部屋が狭いからベッドを2つも置くのは無理とはいえ、床に何か敷いて寝れば俺はそれで十分だってのに、<ご主人様(マスター)にそんな事はさせられません。床でお休みになると言うのでしたら、私が床で休みますので、ご主人様(マスター)はベッドで休んでください>と一歩も譲らない。女性にそんな事をさせられる筈もなく、一緒に寝る事になってしまっているのだ。寝不足にもなろうもんである。




と、まぁ、そんな環境の中にいるから、まずは自分の身は自分で守れるようになる事を目標に掲げた。セシリアさんが盾になるような状況は早急に何とかしたいし。

しかし、肉体ランクが低い事はどうしようもないらしい。これだけは生まれ持った資質なのだそうだ。そこで、俺は魔法に目を付けた。字が読めるようになった3歳の頃から猛勉強を開始。

元々、勉強は嫌いではあったけど、魔法が使えるとなればオタクの血が騒ぎまくる。初めて簡単な魔法が使えたのは、魔導書を読み始めて1ヶ月後。小さな灯りを数秒間出せただけだけど、そこからのモチベーションは常時最高潮。

今では現存する魔法は全て扱えるようになっている。しかし、魔族は戦闘で魔法に頼る事を弱者の証と考えているようで、生活に使える魔法はあっても強力な攻撃魔法みたいなものはほとんど残っていない。昔はかなり強力な魔法がいくつもあったらしいってのは古い魔導書や文献から分かったけど、これを全部復活させるのはまだ少し時間がかかりそうだ。

だがしかし、現存する魔法も失われた強力な魔法も基本は同じ。魔力で精霊に働きかけてその力を引き出し、望んだ形で発動・具現化するという手順が同じである以上、あとは魔力の構成をしっかりと構築すればいいだけ。まだ必要とする魔法の全てを手に入れたわけじゃないけど、日々の研究で着実に前には進んでいるのだ。




そんなわけで、今日も部屋の中でひたすらに読書をしている。朝からずっと読み耽っていたら、もう昼を過ぎていた。

「フゥ・・・」

今読んでいる魔導書から目を上げて、指で摘まんで眉間のマッサージをしながら一息つく。

「お疲れ様です。ご主人様(マスター)

斜め後ろから声を掛けられて振り向くと、セシリアさんがトレイにティーセットを乗せて立っていた。

「あぁ、うん。ありがと」

静かにお茶を煎れてくれるセシリアさん。俺の好きなガフの葉を使った紅茶だ。喉越しが良くて、甘い風味とスッキリした味わいをしているのがポイント。

「いつもありがと。悪いな」

「いいえ。ご主人様(マスター)のお世話をする事が私に与えられた役目ですから」

言いながら俺の頭を撫でるセシリアさん。


うむぅ。要所要所で子ども扱いをするのは止めてもらえないもんだろうか? いやまぁ、体は完全に子どもなわけですが。


「セシリアさんも一緒に飲もう。1人で飲むより2人の方が旨い」

「え、と・・・ご主人様(マスター)と私とでは身分も立場も違いますので、やはりそういった事は止めた方がよろしいかと」

「そう言って、1度でも俺が引き下がった事があったっけ?」

隣の椅子を引き出して、座面をポンポンと叩くと、僅かな戸惑いの表情を浮かべつつも、大人しく座るセシリアさん。

「・・・ご主人様(マスター)は本当に他の方々とはいろいろ違います。魔導生命体の私にこんな気遣いは無用なものですよ?」

「いいんだよ。魔法の研究をしてる5歳児ってだけでも十分に変わり者なんだし」

「・・・何度申し上げても無駄、という事でしょうか?」

「当たり。さすがセシリアさん」

どこか脱力したように、でも、微かに嬉しそうなため息を漏らすセシリアさん。

「はい。どうぞ」

紅茶を煎れて差し出すと、少し驚いた顔をするセシリアさん。

「あの・・・このカップは?」

「ん? あぁ、先に用意しといた。何回言っても自分の分を用意してくんないから」

俺が言い切ると同時に、いきなりぎゅっと抱き締められた。


ちょっ!? 柔かい気持ちいいいい匂いぃぃぃぃっ!? 妙に安心させられるけど、死ぬ程に照れ臭いですよっ!?


「ありがとうございます。お優しい私のご主人様(マイ・マスター)

そう言うセシリアさんはいつもの平淡な声ではあるけれど、ほんの僅かに嬉しそうな響きが混じっている。いつも一緒な俺にしか分からん程度だけど。

「う、うううう、うん。喜んでくれるのは嬉しいんだけどな、セシリアさん。こう、密着されると、物凄く恥ずかしいと言うか、照れ臭いと言うか・・・」

「? ご主人様(マスター)は私の胸がお好きなのではなかったですか?」

「ブフゥッ!? なっ!?」

「入浴時にはよくご覧になってらっしゃいますし、お休みの間にはよく触ってらっしゃいますから、そうなのではないかと思っていたのですが、違いましたでしょうか?」

セシリアさんの言葉に、全身が一気に熱くなる。


いや、頑張って目を逸らそうとはするんだけど、やっぱり見ちゃうじゃんっ!! こんな綺麗な人のを見たくないわけがないんだしっ!!

でも、寝てる間に触ってるって、マジですか!? だからもう添い寝はいらないって言ってんのにぃぃぃぃっ!!


「い、いや、もぅ勘弁してください。男の本能には逆らえないんです」

俺の言葉に、悲しそうな顔をするセシリアさん。


し、しまったぁぁぁっ!? 思わず素で喋っちまったぁぁぁぁっ!!


セシリアさんは俺を主人としている。魔導生命体にとって、その主人に丁寧語を使われるのは、従者として失格と言われているに同義らしい。初めて喋った時にセシリアさんの表情が大きく変わったんだが、それが今みたいな泣き出しそうなくらいに悲しそうな表情だったのだ。

この罪悪感は半端無いっ!!


「すっ、好きだぞっ!? セシリアさんはいい匂いがするし、柔らかくて心地いいからなっ!!」

「・・・ほんとう、ですか?」

「嘘なんかつく意味あるかっ! だ、だから、そんな顔しないでくれよ。な?」

「・・・はい。私のご主人様(マイ・マスター)

俺を抱き締める腕にさらにぎゅっと力が入るセシリアさん。


あ、危ねぇ・・・初めての時は自分を廃棄処分にするとか言い出したからな・・・・あの時もセシリアさんの好きな所を挙げまくって、何とか側に居続けてくれる事にはなったんだけど、今回もそれで上手くいったか・・・

でも、これ、ものすっっっげぇ恥ずかしいんだけどぉぉぉぉっ!? 本っっっ気で今後は気を付けようっっっ!! 顔が直視できなくなるっ!!


「ほ、ほら、セシリアさん。せっかく煎れてくれたお茶が冷めちまうよ。一緒に飲もう?」

「あ、はい」

セシリアさんの返事と共に、腕の中から解放され、2人並んでお茶を飲み始める。

ご主人様(マスター)?」

「ん?」

ご主人様(マスター)はどうして私を呼び捨てにされないのでしょうか?」

「セシリアさんの方が年上だろ? だからだよ」

「しかし、ほんの半年程度の差でしかありませんが」

「・・・・半年?」

「はい」

「俺とセシリアさんの年の差が?」

「はい」

「・・・・いやいやいやいや。有り得ないだろ。明らかに体のサイズが違うし、ずっと俺の世話をしてくれてたのはセシリアさんじゃないか」

「いえ、本当です。ご主人様(マスター)が産まれる半年前に造られました」

あっさりと衝撃の事実をカミングアウトするセシリアさん。


マジか・・・人工的に造られた命だとは聞いてたけど、この体格で俺とほぼ同い年? しかも、知識量は半端無いんだぞ? 魔法の基本を教えてくれたのはセシリアさんだし、身の回りの物に関する豆知識とか徹底解説してくれたのも、この世界の情勢や魔族の五大部族とかいろんな事を教えてくれたのもセシリアさんだってのに・・・とんでもない技術・・・・

あぁ、でも、なんか納得。妙に間の抜けたトコとかツッコミ所が満載なのは、知識に対しての経験値がアンバランス過ぎるからなんだな。


「ですから、私はご主人様(マスター)にとって年長者ではありません。呼び捨てにはしてもらえないのでしょうか?」

また悲しそうな表情をするセシリアさ・・・セシリア。

「う・・・わ、分かったよ。セシリア。だから、そんな顔をしてくれるな」

「はい。ありがとうございます。私のご主人様(マイ・マスター)

悲しそうな気配が消えて、いつも通りの感じで返事をするセシリア。


うわぁ・・・いくら実年齢の差がないっても、この見た目で呼び捨ては違和感が全開なんですが。俺は実年齢通りの5歳児で、セシリアは実年齢は同じくらいでも見た目は20歳前後。いやまぁ、5歳児が年齢を気にして言葉遣いを意識する方が違和感だらけだって言われたら、その通りではあるんだけど、中身は28歳のおっさんだからなぁ。

しかし、またセシリアが泣き出しそうな顔をするから、もう仕方がない。諦めて慣れよう。


でも、胸の件は忘れておいてほしいなぁ。セシリアは全く気にしてないっぽいけど、こっちが気まずいっての。

何かと問題を抱えてはいるものの、意外に楽しい日々を過ごしている主人公。

抱えた問題はこれから時間を掛けて解決していくのかもしれませんが、全然子どもらしくないのは問題無いのでしょうか? 同い年の子どもからは違和感を覚えられそうなものですが・・・


では、これにて第一章 第二部を閉幕とさせていただきます。

お付き合いいただいた皆様に感謝を。よろしければ、次回もまたお付き合いくださいませ。

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