育ての親と友人と魔法の開発
意外に楽しい日々を過ごしている主人公。
その日常はどのようなものなのでしょうか? 中身が28歳なだけに、実年齢相応な部分が見た目以外は皆無なのですが、交遊関係は築けているのでしょうか?
第一章 幼年期 第三部の開幕です。
どうぞ、最後までお楽しみくださいませ。
それからまた数ヶ月後。
「ご主人様。起きてください。朝です」
優しく体を揺すられて目を開くと、セシリアが横にいて、そのまま抱き締められた。
「おはようございます。ご主人様」
「お、おはよう」
胸に顔が埋もれて、起き抜けから全身が一気に熱くなる。
「ちょ、セシリア。何回も言ってるけど、起き抜けに抱き締めるのは止めないか? 物凄く照れ臭い上に、なんか恥ずかしいんだけど」
「しかし、ご主人様はこうした方がお目覚めがよろしいようですから」
いつもの平淡な口調で言うセシリア。
目覚めがいいって・・・そりゃ、セシリアみたいな美人に抱き締められて嫌な奴はいないとは思うよ? 照れ臭過ぎて、瞬間的に意識が覚醒するし。でも、起き抜けからこの心拍数の上昇の仕方は体に悪い気がする。と言うか、身が持たないです。
相変わらず、添い寝は止めてくんないし。
「ハァ。これも毎朝の恒例行事みたいになってるな」
「はい。お嫌ですか?」
「嫌なら断固拒否してる。嬉しいから困ってるんだよ」
「嬉しいのにお困り・・・」
セシリアの表情がほんの僅かに難しいものになる。
「あ~、いいんだよ。考えてくれなくて。嬉しいのはセシリアのおかげ。困ってんのは俺自身のせいなんだから」
「・・・私には解決できない事でしょうか?」
「ん~・・俺の内面の問題だからなぁ・・・・まぁ、気にすんな。セシリアが側にいてくれたらどうでもよくなるから」
「はい。私のご主人様」
僅かに嬉しそうな顔になって、また俺をぎゅっと抱き締めてくるセシリア。
うん。誤魔化す時はこういう風に言えばイケるのは分かったけど、これは何にも解決になんないな。照れ臭くて堪らん。最初の頃よりかは耐性ができてきたけど、セシリアの表情が読み取れるようになってきたせいでプラスマイナス0だもんなぁ。
「そ、それで、今日は買い物に行く日だったよな?」
行動を促す言葉を紡ぐ。
放っておくと、セシリアはこのままでずっといるんだよなぁ。頭が真っ白になってすぐに何も言えなかった頃には、昼過ぎまで抱き締められたままだった事もあるし。
一体何を考えてるのやら・・・まさかとは思うけど、俺がまだ起きてないとか思ってたとか? セシリアだったら有り得そうだ。何にせよ、今後も寝る前に何かしら行動を促すセリフを考えるのは必須だな。
「はい。今日は食材の補充と魔導書を探しにいきます」
「へ? 魔導書を?」
「はい。今のご主人様のペースですと、屋敷の書庫にある魔導書は残り3日間で読み終えてしまうかと思われますので」
「そうなのか。じゃあ、それにもついていくとするか。自分でも探してみたいし」
「かしこまりました。では、街で1番大きな書店に向かいます」
「よろしく。それじゃ、準備しようか」
「はい」
セシリアの返事を受けて、着替えなどの外出準備を始める。
セシリア・・頼むから俺の目の前で堂々と着替えをするのは止めてくんないかなぁ・・・一緒に風呂に入るのは止めてくれるようにはなったけど、これじゃ心臓に悪い事には変わりが・・・・
それから、朝食を済ませて、一緒に買い物へ出発。
セシリアは一緒に出掛ける時には必ず手を繋いでくる。俺が何と言っても俺の安全の為と頑として譲らないのだ。
もうそろそろ大丈夫だと思うんだけどなぁ。最初の頃は物珍しさに目移りしまくってたけど、もういい加減落ち着いたし。それに、前の記憶の中じゃ、5歳児くらいの子どもって結構自由にフラフラしてた筈だし。
セシリアはかなり過保護なのかも。まぁ、別にウザったいとかではないからいいような気もするけど、やっぱり照れ臭い。女の子と手を繋いで歩いたのなんて、小学校低学年の頃の遠足以来だもんなぁ。
「あ、ケーイ~っ」
大きな声で呼び掛けて、歩いている俺達に駆け寄ってくる俺と同い年くらいの赤茶色の髪をした女の子。赤系の髪の色は五大部族の1つである紅魔族の証だ。今の俺と同じ部族でもある。
「カサリナ」
駆け寄ってくる姿を視認して、その子の名前を口にすると、そのままの勢いで抱きついてきた。
「うんっ。久しぶり~っ」
「久しぶりって、3日前に遊んだトコだろ」
カサリナに言葉を返しながら離れさせる。
毎回の事だけど、勢いよく抱きついてくるのは何とかしてほしい。何気にちょっと痛い。女の子に突進されて痛がってるとか、なんとなくカッコ悪いから口にはしないけど。
「もう3日も前じゃないっ。まったく、全然お外で遊ばないんだから」
「たまには体も動かしてるからいーんだよ。俺は魔法の研究が忙しいんだ」
「まだやってるのぉ? 馬鹿にされちゃうよ?」
「馬鹿にしたい奴にはさせときゃいい。肉体ランクが覆しようがないものな以上は別の手段で何とかしなきゃならないんだから、そんなのに構ってる暇はない」
「何とかって、何を?」
「俺の兄貴達は知ってるだろ?」
「あ、うん。ガゼット様とドリューシャ様でしょ?」
「・・・あのクソガキに<様>なんていらないと思うんだけど」
俺の言葉に大慌てで首を振りまくるカサリナ。
「そっ、そんな事言ったら怒られちゃうよぉ? フォルティス家は<めいもん>だってお父様もお母様も言ってるし、偉い人達なんでしょ?」
「まぁ、親父殿は軍の偉いさんみたいだけど、別にガゼットとドリューシャが偉いわけじゃないさ。ただその一族に産まれたってだけで。まぁ、それはともかく、ガゼットは直接的に何かをしてくる事はないけど、ドリューシャは憂さ晴らしの標的を俺にしてくる事があるからな。返り討ちにしてやれるくらいにはなっとかないと、危ないんだよ」
「ご主人様は私がお守りしますから、大丈夫です」
「いつまでもセシリアを盾になんかしたくない。俺が怪我をしなくても、セシリアが傷付くのは気に入らん」
「え? し、しかし、フォルティス家の方には手を出すわけにもいきませんし・・・」
俺の言葉に、オロオロし始めるセシリア。
「いや、セシリアの立場は分かってるから、ドリューシャをセシリアにどうにかさせようとは思ってないよ。だから、俺が何とかしようとしてるんじゃんか」
「え?」
俺の言葉に、また泣き出しそうな顔をするセシリア。
「セ、セシリア?」
な、何故に泣きそうな顔をする? 今回は丁寧語なんか使ってないぞ?
「・・・・ご主人様が魔法を修得されたら、私はもう不要になるのでしょうか?」
「・・・・・・はぁ? 何をわけの分からん事を・・・・」
「しかし、ご主人様がご自身の身をご自身で守られるのでしたら、私はもう役立たずです。そうなれば、私は用済みになってしまいます」
悲しそうに言うセシリア。
ほぉ・・・そういう事を言うか。
「・・・セシリア? ちょっとしゃがんでくれるか?」
「? はい」
セシリアが身を屈めて、ギリギリなんとか頭の天辺が届く位置にきた時に、ゴンッとゲンコツを落としてやる。セシリアはわけが分からなさそうに目を白黒させる。
「あんまりくだらない事言うと、次はゲンコツじゃ済まなくなるぞ」
「え?」
「役に立つとか立たないとかじゃない。セシリアは俺をここまで育ててくれた母親みたいなもんだろうが。用済みだとか、冗談でも2度と口にすんな」
「あ・・・は、い。私のご主人様」
困惑と動揺と、そして僅かな歓喜を混じらせた表情をして俯いてしまうセシリア。
「・・・・ケイってホントにセシリアに優しいよねぇ?」
若干ジト目気味に言ってくるカサリナ。
「そうか? 至って普通のつもりだけど」
「そっかなぁ? 魔導生命体にそんな事言う人なんていないよ?」
「ハァ・・・いいか? カサリナ」
「? うん」
「セシリアは魔導生命体だけど、魔導生命体の全部がセシリアなわけじゃないだろ?」
「う、うん。それはそうだよ?」
「んで、俺は別に魔導生命体に言ってるわけじゃないんだ。セシリアだから言ってるんだよ」
「? どういう意味?」
「例えばだな・・・俺は紅魔だろ?」
「うん」
「カサリナが俺と遊ぶのは俺が紅魔だからか?」
「え? ううん。ケイだからだよ? 面白い事いっぱい知ってるし、優しいし、他の子達みたいに嫌な事言わないし」
「まぁ、そういう事だ」
「でも、ケイが紅魔じゃなかったら、こんな風に遊べないよ? 他の部族の子と仲良くしちゃいけないって」
「まぁ、部族同士の権力争いがあるから、大人はそう言うだろうけどな。カサリナは他の部族の子とは仲良くしたくないのか?」
「え? う~ん・・・・分かんない」
「じゃあ、紅魔なら皆と仲良くできる?」
「・・・嫌な事言う子じゃなかったら」
「なら、白魔や碧魔の子でも、嫌な事を言う子じゃなかったら?」
「・・・・仲良くなりたい、かな? そっか。仲良くなりたいっていうのに、紅魔とか白魔とか関係ないんだ」
「だろ? 要は、そいつがどんな奴かってのが問題になるわけだ。そこに魔族だの五大部族だの魔導生命体だのは関係ない」
「だから、ケイはセシリアが好きなの?」
「ブッ!?」
カサリナの素直過ぎる一言に、思わず顔が熱くなってしまう。
こ、子どもってのは素直過ぎる・・・実年齢は同い年でも、こちとら中身は30手前のおっさんだぞ。小っ恥ずかしい事をストレートに言わないでもらいたいもんだ。
「ま、まぁ、家族みたいなもんだからな、セシリアは」
「家族・・・」
「そっかぁ。じゃあ、優しくても普通だね」
不思議そうに呟くセシリアと納得したように言うカサリナ。
「まぁ、あくまでも俺の考え方であって、それが絶対に正しいとは限らないけどな。かなり特殊な考え方だろうし」
「<とくしゅ>?」
「あ~・・・珍しいって事だ」
「あ、うん。じゃあ、絶対<とくしゅ>だね。他の人から聞いた事ないことばっかり言うもん、ケイは」
「だろうな」
「でも、変じゃないと思うよ? だって、あたしも紅魔だったら皆が好きなんじゃないもん」
「そっか。ま、ありがとな」
言って、カサリナの頭を撫でてやる。
「えへへ。あっ! それで、今日は遊べるの?」
「ん~・・・まぁ、買い物が終わってからな」
「ご主人様。買い物なら私が済ませますよ?」
「魔導書とかは俺も見たいんだよ。強化系の魔法に関するヤツが欲しいし」
「? どして?」
「ん? 何が?」
「強化系の魔法の本が欲しいって」
「あぁ。肉体ランクはどれだけ鍛えても覆せないけど、強化魔法ならそれができそうだからな。攻撃魔法も覚えたいけど、1発でやられるようじゃ魔法を使う暇もないかもしれないだろ? だから、まずは体を強くする魔法を使いこなせるようになりたいんだ」
「そ、そんな事、できるの?」
「できると思う。素早く動けるようになる魔法も力が強くなる魔法もあるんだからな」
「ほぇ~・・・なんかよく分かんないけど、スッゴいね~」
「はは。ま、俺がその魔法を使えるようになって、カサリナも使いたいって思ったらいつでも教えてやるよ。いつまでも<弱小貴族の弱虫>なんて言われるのも気分が悪いだろ? 魔法でトコトン強化して、肉体ランクなんか覆してやればいい」
「で、できるようになるの? 言ってくる子達って、みんな肉体ランクが高い子達ばっかりだよ?」
「まぁ、楽しみにして待っててくれ。近い内に完成させる」
「うっ、うんっ。じゃあ、買い物が終わったらいつもの公園で待ってるね?」
「了解。なるべく早くに終わらせるよ」
「うんっ! じゃあ、待ってるからね~っ」
嬉しそうに笑って走り去っていくカサリナ。
子どもは元気だなぁ。俺には無駄に走る気力なんか無いぞ。肉体年齢は5歳でも、中身はやっぱりおっさんだもんなぁ。
「よろしいのですか? 指定してもらえれば、ご希望の魔導書や文献をきちんと揃えますが」
「いーんだってば。他にも参考になるような物があるかもしれないし、新しいものを作る時にはインスピレーションも大事なんだから」
「新しい? もしかして、ご主人様は新しい魔法の開発をされているのですか?」
「ああ。まぁ、全身体能力の向上とか強化とかの魔法があって、その増幅率が俺の望むレベル以上なら新しく考える必要はないけど。」
「・・・・新しい魔法の開発は、古の時代でも極一部の天才と呼ばれた方々にしかできなかったとありました。魔力構成の構築に失敗すると、暴発などの危険もあるという記述もあります。危険ですので、お止めになった方がよろしいかと思うのですが」
「へぇ・・・じゃあ、俺って天才なんじゃないか? もういくつかオリジナルの魔法ができてるぞ?」
「え!?」
驚きの表情を浮かべるセシリア。
おぉ~・・・泣き出しそうな顔以外にハッキリと表情が出た。そんなにビックリするような事なのか。
って事は、もしかして、魔法に関しては、召喚物とか転生物とかのラノベによくあるようなチートが働いてるのか? 肉体ランクの件で、現実にはチートなんて都合のいいものはないのかって諦めてたんだけど。それとも、単純に<ケイクイル フォルティス>の生まれ持った才能?
まぁ、別にどっちでもいいか。結果が同じなら、チートだろうが才能だろうが問題無いんだから。
どうやら、主人公は若干引きこもりがちなようですが、それでも友人はいるようです。
また、今回の話で主人公の才能が明らかになりました。チートにも見えますが、実は<ケイクイル フォルティス>として生まれ持った才能だったりします。チートではないという理由はいずれまた明らかになる予定です。
では、これにて第一章 第三部を閉幕とさせていただきます。
お付き合いいただいた皆様に感謝を。よろしければ、次回もまたお付き合いくださいませ。




