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短編をいっぱい書いたらインスピレーションとか高まってくんじゃないかなっていう試み  作者: 永多 真澄


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「サラダせんべい」「スク水」「ロードローラー」

数年前の年初め頃に友人とやった即興三題小説です。

 男は山と盛られたサラダせんべいをひとつ取ると、まるで機械的に口へと運ぶ。

 寝そべり、コタツから頭と腕だけを出したその男は、特に何をするでもなく延々とせんべいを口に運ぶ。繰り返されるサイクル。延々と続くと見られたそれは、せんべいの山の消失と引き換えに終わった。

 男はあからさまに面倒くさそうな表情で、恨めしげに空になった皿を見た。往生際の悪いことに残ったかすを指にくっつけて口に運ぶ男だったが、やがてそれも無くなってしまう。

 男は何かを諦めたように重く長いため息を吐くと、コタツから這い出して予備のせんべいが仕舞ってある戸棚を開けた。ところで、盛大なため息をついた。先ほど食べたせんべいが、最後の一袋だったのだ。

 男はそっと扉を閉めて、しばし思考に沈む。このまま次のせんべいを我慢して無理やり眠りにつくか、この寒い中外出してせんべいを買いに行くか、死ぬか。おおまかにこの三つの思考が頭に浮かんで消えた。

 男にとって、せんべいは食の最高峰に位置する存在である。もし彼に「一生せんべい食えなくなるか、雪の中をスクール水着で全力疾走するか」という2者択一を迫れば、彼は迷わずスク水全力疾走を選ぶだろう。それほどまでに彼の中でのサラダせんべいへの思いは強い。彼はせんべいのためならば、プライドくらいならば簡単にかなぐり捨てる。

 まあそれ以前にそんな馬鹿みたいな問いかけをしようものなら、答えよりも先に手が出るだろうことは想像に難くないが。

 そういうわけで、男は意を決してせんべいを買いに行くことに決めた。


 深々と降る雪は、町に寒さと静けさをもたらす。

 ちょうど長靴のソールが埋まる程度に雪の降り積もった道を、サクサクと小気味良い音を伴って男は歩く。

 男は雪が嫌いである。

 バスは遅れるわ電車は止まるわ滑るわで、何一つとしてよいことなど無い。正直喜んでいられたのは中学に上がるまでだ。

 深々と降る雪の町を、男は急ぐ。最寄のスーパーまでは、せいぜい1キロも無い。


 買い物籠三つに山盛りにサラダせんべいを詰めてきた客に、顔色ひとつ変えない店員は実に立派だ。というよりも、慣れたものである。もはや驚きすら感じないほどにその光景は一般化していたし、店側のバックアップ体制だってしっかりと構築されていた。

 先程だって、店員がせんべいを補充する横から男が籠に放り込む光景が見られた。さながらわんこそばである。もはや店員も何の疑問も抱かずその作業に徹しているが、明らかに異常な光景である。そもそも、問屋から直接買い付けたほうがいいのではないかという疑問を抱かずにはいられないが、結局は店の利益に貢献しているため店員も何もいえない。


 一月の食費の70%を費やして購入した大量のせんべいを抱え、男は来たときよりも幾分かほくほくした顔で雪の道を歩く。

 途中、道路工事をしている区画に差し掛かったときである。

 こんな時期にご苦労なことだと、少しでも気をとられたのがまずかった。半分解けた雪に足をとられたのだ、と気がつく頃には彼の天地は逆転していて、そのまま盛大にすっ転んだ。同時に大事に抱えていたはずのせんべいが満載された袋が宙を舞う。男は受身を取ることもそこそこに、袋の軌跡を血眼で追う。それは綺麗な放物線を描いて、アスファルトに落ちた。

 男は弾かれたように立ち上がると、即座に大地を蹴る。自分の身は省みない。ただひたすら、サラダせんべいが無事であれと祈って。

 そしてその祈りは、不条理にも文字通り打ち砕かれた。

 彼の夢と希望がつまったせんべいたちは、道路を均していたロードローラーに巻き込まれた。彼の眼前で、ただただ無慈悲にそれはただの道路の一部と成り果てた。

 男はその一部始終を見て、ガクリとその場にくず折れた。世界の全てが音を立てて崩れていく。世界の全てが、男にとっては無価値な存在へと成り果てた。

 せんべいの袋を葬り去ったロードローラーが、男に迫る。運転手は男の存在に気づいていないのか、それはまるで無慈悲に男に迫る。

 そして男も、それをただ無感動に眺めていた。世界の全てが男にとって無意味である。つまり、自分の命でさえもーー

 ロードローラーが、ついに男の視界いっぱいを埋め尽くして、そこで男の意識は途絶えた。




「……というのが、僕の初夢ですね」

「最悪じゃねーか!!」

 延々と話されたあんまりな内容に、その場いた全員が同じツッコミを返したという。


おしまい

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