↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『世界樹の少女と、終わりの魂』  作者: 雨宮ぐみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
84/100

第八十四話 命を渡すということ



前書き


この物語は、目には見えないものに耳を澄ませながら、自分自身の運命と向き合っていく少女・楓夏の物語です。


森の声。


魂の記憶。


ご先祖様から受け継がれる想い。


そして、まだ誰にも決められていない未来。


私たちは、日々の中で「どうしてこんなことが起きるのだろう」「なぜこの人と出会ったのだろう」と、不思議に思うことがあります。


もしかすると、その出来事には、目には見えない意味があるのかもしれません。


楓夏もまた、森から聞こえる不思議な声をきっかけに、さまざまな魂や未来と出会い、自分が何者なのかを知っていきます。


けれど、この物語で描きたいのは、特別な力を持つ少女の冒険だけではありません。


大切な人を想う気持ち。


失った人への愛。


自分では変えられない過去。


そして、これから先をどう生きるのかという「選択」。


どんなに過去を変えたいと思っても、起きてしまった出来事を消すことはできません。


それでも、その経験を抱えたまま、未来へ進むことはできます。


誰かに決められた運命ではなく、自分自身で選んだ道を歩いていく。


その先に、どんな未来が待っているのか――。


楓夏と一緒に、森の声に耳を澄ませながら、この物語の世界を旅していただけたら嬉しく思います。


あなたの心にも、いつか小さな「声」が届きますように。


そして、その声があなた自身の未来を選ぶための、優しい道しるべになりますように。

第八十四話 命を渡すということ


 『お前の命が必要だ』


 黒曜の言葉が、静かな過去の街に響きました。


 楓夏は自分の胸に手を当てます。


「私の命を……結花に?」


『そうだ』


「どうして?」


『未来の娘は、普通の人間ではない』


 黒曜の声が低く響きます。


『時間の裂け目から生まれた魂だ。お前の生命力がなければ、存在できない』


 結花が泣きながら首を振ります。


『嫌……』


「結花?」


『ママの命なんて、いらない!』


「……」


『私はママに生きてほしい』


 楓夏の目から涙がこぼれました。


「ありがとう」


『だから、私を消して』


「そんなこと言わないで」


『だって……』


 結花は泣きながら笑います。


『ママがいなくなる未来なら、私なんていらない』


 楓夏は結花を抱きしめました。


「違うよ」


『……』


「お母さんが子どもを守るっていうのは、自分が消えることじゃない」


 楓夏は優しく言います。


「一緒に生きることなんだよ」


 ***


 その言葉を聞いた瞬間――。


 世界樹の根が大きく揺れました。


 地面から光が溢れます。


 零が驚きました。


「これは……」


 父も目を見開きます。


「世界樹が反応している」


「どうして?」


 零は楓夏を見ました。


「楓夏が、未来を選んだからだ」


「未来を?」


「自分を犠牲にする未来じゃない」


 零が微笑みます。


「誰も犠牲にしない未来を選んだ」


 楓夏の胸に、新しい光が灯りました。


 これまでの紋章とは違う。


 金色の、小さな花のような紋章。


「これは……?」


 結花が嬉しそうに笑います。


『ママの魂の紋章』


「私の?」


『うん』


 結花の胸にも同じ紋章が現れました。


 二つの紋章が光の糸でつながります。


 しかし――。


 黒曜が叫びました。


『そんな未来は認めない!』


 黒い霧が一気に押し寄せます。


「みんな、下がって!」


 楓夏が前へ出ます。


 ところが――。


 凪人も隣に立ちました。


「僕も戦う」


「凪人くんは未来へ戻らないと」


「戻らない」


「どうして?」


 凪人は楓夏を見ました。


「君が一人で戦う未来は、もう選ばない」


 楓夏は驚きました。


「……うん」


 二人の紋章が重なります。


 さらに――。


 桜真。


 黒桜。


 父。


 零。


 全員の力が一つにつながりました。


 ***


 黒曜の姿が、初めて揺らぎました。


『なぜだ……』


 楓夏が答えます。


「あなたはずっと、未来を一つにしようとしてる」


『それが正しいからだ!』


「違う」


 楓夏は首を振ります。


「未来には、たくさんの可能性がある」


『可能性など、苦しみを生むだけだ』


「それでもいい」


 楓夏は結花の手を握ります。


「嬉しい未来も」


「悲しい未来も」


「出会う未来も」


「別れる未来も」


「全部、自分たちで選びたい」


 黒曜が叫びます。


『愚かな!』


「そうかもしれない」


 楓夏は微笑みます。


「でも――」


 紋章が強く輝きます。


「私は、未来を怖がらない」


 黒曜の身体に大きな亀裂が走りました。


『やめろ……!』


 ***


 突然、結花が苦しそうに胸を押さえました。


「結花!」


『ママ……』


「どうしたの?」


『私の時間が……』


 結花の身体が透け始めています。


「まだなの?」


 零が時計を見上げます。


「未来との接続が切れ始めてる」


「どうすればいい?」


「結花の魂を、現在に固定する必要がある」


「どうやって?」


 零は黙りました。


 楓夏が聞きます。


「何か方法があるんでしょう?」


「ある」


「教えて」


「ただし――」


 零が楓夏を見る。


「未来の娘を現在に固定するには、誰か一人が時間の狭間に残らなければならない」


 全員が凍りつきました。


「誰か一人……」


 楓夏は結花を見ます。


「私が残る」


 父が叫びます。


「楓夏!」


「私なら――」


「駄目だ!」


 凪人が楓夏の腕を掴みます。


「それじゃ黒曜と同じだ」


「でも……」


「誰かを救うために、自分を犠牲にする必要はない」


 凪人は首を振ります。


「別の方法を探そう」


 そのとき。


 結花が静かに笑いました。


『あるよ』


「え?」


『一人じゃなくていい』


 結花の胸の紋章が輝きます。


『みんなの時間を、少しずつ分ければいい』


 零が目を見開きました。


「そうか……」


「できるの?」


「できる」


 零は頷きます。


「全員が少しずつ未来を支えれば、誰も消えずに済む」


 楓夏は笑いました。


「それなら――」


 全員が手をつなぎます。


「やろう」


 光が広がりました。


 結花の身体が少しずつ実体を取り戻していきます。


 そして――。


 黒曜の姿が完全に崩れ始めました。


『なぜ……』


 黒曜は楓夏を睨みます。


『なぜお前は、私の未来を壊せる……』


 楓夏は静かに答えました。


「あなたの未来じゃないから」


「これは――」


 結花の手を握ります。


「私たちの未来だから」


 黒曜の姿が光の中へ消えていきます。


 しかし、完全に消える直前――。


『覚えておけ……』


 黒曜が最後に笑いました。


『私より、もっと古い存在がいる』


「もっと古い存在?」


『この世界が生まれる前から存在する――』


 黒い霧が消えます。


『最初の守り手だ』


 静寂。


 零が青ざめます。


「……そんなはずはない」


 楓夏が尋ねます。


「零くん?」


 零は震える声で言いました。


「最初の守り手は――」


 そして、空を見上げます。


「今も生きている」


 ――第八十五話へ続く。



後書き

『世界樹の少女と、終わりの魂』を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。


全100話。


長い旅となった楓夏の物語も、ここで一つの区切りを迎えました。


最初は、森から聞こえる不思議な声に戸惑っていた少女が、たくさんの人や魂、そしてさまざまな未来と出会いながら、自分自身の運命と向き合っていきました。


物語の中では、失われた未来や、選ばれなかった未来も登場しました。


けれど、どの未来も決して無意味なものではありません。


私たちの人生にも、「あのとき別の道を選んでいたら」と思う瞬間があるかもしれません。


過去に戻ってやり直すことはできなくても、その経験をこれからの人生にどう生かすかは、自分で選ぶことができます。


楓夏が最後にたどり着いた、


「未来は誰かに決めてもらうものではない」


という答えは、この物語を通して伝えたかった大切なテーマでもあります。


そして、目には見えない魂や森の声を描きながら、もう一つ大切にしたかったのは、「つながり」というものです。


大切な人との思い出。


亡くなった人から受け取った愛。


家族の絆。


言葉にできなかった想い。


それらは、姿が見えなくなっても、心の中から簡単に消えるものではありません。


もしかすると、ふとした瞬間に感じる懐かしさや、夢の中で出会う大切な人の姿も、心の奥に残った記憶や想いが、私たちに何かを伝えているのかもしれません。


楓夏は、森の声を聞くことで、たくさんの魂と出会いました。


そして最後には、自分自身の声にも耳を澄ませることができるようになりました。


物語は終わりました。


けれど、楓夏たちの未来は、ここからも続いていきます。


悠真がどんな人生を歩むのか。


結花がどんな大人になるのか。


凪人と楓夏がどんな日々を重ねていくのか。


それは、誰にも決められていません。


だからこそ、未来には無限の可能性があります。


この物語を読んでくださったあなたの未来も同じです。


もし今、迷っていることがあるなら、焦らなくても大丈夫です。


立ち止まってもいい。


遠回りしてもいい。


時には、最初から選び直してもいい。


あなたがあなたらしく歩いていく限り、その一歩一歩が、あなただけの未来になっていきます。


最後まで楓夏たちと一緒に旅をしてくださった皆さまへ。


心からの感謝を込めて。


そして、いつかどこかの森で風が木々を揺らしたとき――。


ほんの少しだけ耳を澄ませてみてください。


もしかしたら、楓夏の声が聞こえるかもしれません。


「大丈夫。


未来は、これから自分で選んでいけるよ」


ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。


全100話――完結。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。