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『世界樹の少女と、終わりの魂』  作者: 雨宮ぐみ


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第四十六話 失われた者を生き返らせる力



前書き


この物語は、目には見えないものに耳を澄ませながら、自分自身の運命と向き合っていく少女・楓夏の物語です。


森の声。


魂の記憶。


ご先祖様から受け継がれる想い。


そして、まだ誰にも決められていない未来。


私たちは、日々の中で「どうしてこんなことが起きるのだろう」「なぜこの人と出会ったのだろう」と、不思議に思うことがあります。


もしかすると、その出来事には、目には見えない意味があるのかもしれません。


楓夏もまた、森から聞こえる不思議な声をきっかけに、さまざまな魂や未来と出会い、自分が何者なのかを知っていきます。


けれど、この物語で描きたいのは、特別な力を持つ少女の冒険だけではありません。


大切な人を想う気持ち。


失った人への愛。


自分では変えられない過去。


そして、これから先をどう生きるのかという「選択」。


どんなに過去を変えたいと思っても、起きてしまった出来事を消すことはできません。


それでも、その経験を抱えたまま、未来へ進むことはできます。


誰かに決められた運命ではなく、自分自身で選んだ道を歩いていく。


その先に、どんな未来が待っているのか――。


楓夏と一緒に、森の声に耳を澄ませながら、この物語の世界を旅していただけたら嬉しく思います。


あなたの心にも、いつか小さな「声」が届きますように。


そして、その声があなた自身の未来を選ぶための、優しい道しるべになりますように。

第四十六話 失われた者を生き返らせる力


 白い国の広場に、黒い霧が広がっていました。


 その中心に立つ男。


 祖父の兄――。


 黒羽くろは


 楓夏は、黒羽をじっと見つめていました。


「失った人を……生き返らせる?」


 黒羽は微笑みます。


「ああ」


「そんなこと、できるの?」


「できる」


 黒羽は自信を持って答えました。


「森、海、空――三つの守り手の力を一つにすれば、時間の流れを逆にできる」


 楓夏は首を振ります。


「でも、それは……」


「怖いか?」


「違う」


 楓夏は言いました。


「生き返ることが、本当にその人の幸せなのかなって」


 黒羽の笑顔が消えました。


「何?」


「亡くなった人には、その人の時間がある」


 楓夏は祖父を見ます。


「おじいちゃんは、おばあちゃんに会いたい」


 祖父は黙ってうなずきます。


「私も、おばあちゃんに会いたい」


 楓夏の声が少し震えました。


「でも、もしおばあちゃんが今の私たちを見ていてくれるなら……」


 胸に手を当てます。


「無理に戻ってきてもらうんじゃなくて、ちゃんと前を向いて生きたい」


「綺麗事だな」


 黒羽が吐き捨てます。


「大切な人を失ったことのない者には分からない」


「違うよ」


 楓夏は首を振ります。


「私も悲しい」


「……」


「でも、悲しいからって、時間を無理に戻したら……」


 楓夏は黒羽を見ました。


「今生きている人の時間まで壊れちゃう」


 黒羽の目が鋭くなりました。


「ならば、私が証明してやろう」


 黒い霧が一気に広がります。


 その霧の中から――。


 一人の女性が現れました。


「……お母さん?」


 黒羽の顔が変わります。


「母さん……」


 現れた女性は、黒羽を優しく見つめています。


「おかえりなさい」


「母さん……!」


 黒羽が駆け寄ろうとします。


 けれど祖父が叫びました。


「兄さん! それは母さんじゃない!」


 黒羽が振り返ります。


「黙れ!」


「記憶だ!」


「分かっている!」


 黒羽の声が震えます。


「分かっている……!」


 女性は微笑み続けています。


「あなたはずっと頑張ったね」


「……」


「もう苦しまなくていいのよ」


 黒羽の目から涙が落ちました。


「母さん……」


 楓夏には分かりました。


 この女性は本物ではない。


 けれど――。


 黒羽にとっては、本物と同じくらい大切な存在なのです。


「おじさん」


 楓夏が声をかけます。


「何だ」


「その人、本当のお母さんじゃないよ」


「分かっている!」


「じゃあ……どうして手を伸ばすの?」


 黒羽は答えません。


 女性が手を差し出しています。


「黒羽」


「……」


「一緒に帰りましょう」


 黒羽の手が震えます。


 そして――。


 その手を取ろうとしました。


 楓夏は走り出します。


「待って!」


 黒羽が振り返りました。


「邪魔をするな!」


「おじさん!」


 楓夏は叫びました。


「その人は、おじさんが一番会いたかった人だよね?」


「……」


「だったら、ちゃんとお別れしよう」


 黒羽の瞳が揺れました。


「そんなこと……」


「会えないからって、なかったことにはならないよ」


 楓夏の胸から光が広がります。


「思い出は、ちゃんと残る」


 女性の姿が少しずつ薄くなります。


「母さん……」


 黒羽が手を伸ばします。


 けれど女性は笑っていました。


「あなたは、もう十分頑張ったわ」


 そして――。


 消えました。


「母さん……!」


 黒羽がその場に膝をつきます。


 黒い霧が、彼の身体からあふれ出しました。


 その霧は悲しみそのもの。


 長い年月、誰にも見せなかった涙でした。


 祖父が兄のそばへ歩きます。


「兄さん」


「……」


「もう、終わりにしよう」


「私は……」


 黒羽は顔を伏せます。


「母さんを救いたかった」


「分かっている」


「だから、黒い石に願った」


「分かっている」


「でも、何度やっても……」


 黒羽の声が震えます。


「戻ってこなかった」


 祖父は兄の肩に手を置きました。


「戻ってこなくても、母さんは兄さんの中にいる」


 黒羽は顔を上げました。


「……そんな簡単に言うな」


「簡単じゃない」


 祖父は涙を流しました。


「私だって、妻に会いたい」


 その言葉に黒羽は黙りました。


 しばらくして――。


 黒い霧が少しずつ消えていきます。


 ところが。


 突然、空良が叫びました。


「まだだ!」


「え?」


「黒羽さんの力が止まってない!」


 広場の中央にある時計が、激しく回転し始めました。


 過去。


 現在。


 未来。


 すべての映像が混ざります。


「何が起きてるの?」


 楓夏が叫びます。


 空良が答えました。


「黒羽さん自身が止められても――」


 時計の中心に巨大な黒い穴が開きました。


「黒い石の本体が、まだ動いている!」


 地面が大きく揺れます。


 白い国の建物が崩れ始めました。


「逃げて!」


 花音が叫びます。


 しかし楓夏は動きません。


「どこにあるの?」


「何が?」


「黒い石の本体!」


 空良が時計を見ます。


「この国のさらに下」


「下?」


「白い国の中心にある」


 楓夏は頷きました。


「じゃあ、行こう」


「危険だよ!」


「分かってる」


 楓夏は仲間たちを見ました。


「でも、ここで終わらせないと」


 蒼空が隣に立ちます。


「僕も行く」


「私も」


 花音。


「私も!」


 美月。


「もちろん」


 凛。


「行こう!」


 悠真。


「一緒に」


 ひかり。


 五人の光が集まります。


 すると蒼空の胸の黒い点が――。


 突然、青く変わりました。


「蒼空くん……!」


「大丈夫」


 蒼空は微笑みます。


「僕の中の黒い力も、少し変わってきてる」


 楓夏はうなずきました。


「なら、行こう」


 六人が時計の前に立ちます。


 楓夏が手を伸ばすと、時計が大きく光りました。


 ――ゴォン。


 巨大な扉が開きます。


 その奥には、真っ暗な階段。


 どこまでも下へ続いています。


 そして階段の下から――。


『楓夏……』


 声が聞こえました。


「誰?」


『あなたが生まれる前から、ずっと待っていた』


「誰なの?」


『私は――』


 声が笑います。


『あなたの「最初の記憶」』


 楓夏は凍りつきました。


「私の……最初の記憶?」


 すると階段の壁に、赤ちゃんだった楓夏の姿が映ります。


 その隣に――。


 森の母。


 蒼空。


 空良。


 そして、もう一人。


 黒羽。


「……どうして、黒羽さんが?」


 楓夏の顔が青ざめます。


 映像の中の黒羽は、赤ちゃんの楓夏を抱いていました。


 そして言ったのです。


「この子を守る」


 楓夏は息をのみました。


 黒羽が悪者になった理由は――。


 もしかすると、最初から楓夏を守るためだったのかもしれません。


 しかしその直後。


 映像の黒羽が振り返りました。


 その瞳は――。


 赤く光っていました。


「……違う」


 祖父が呟きます。


「兄さんは、このときすでに……」


 黒い声が階段の奥から響きます。


『そう』


『すべては、この子が生まれた夜から始まった』


 楓夏の足元に、黒い文字が浮かびました。


「楓夏が生まれた本当の理由を知りたければ、最後まで来なさい」


 楓夏はその文字を見つめました。


 そして――。


 階段の下から、巨大な赤い目が二つ開きました。


 黒い石の本体が、ついに姿を現そうとしていました。



後書き

『世界樹の少女と、終わりの魂』を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。


全100話。


長い旅となった楓夏の物語も、ここで一つの区切りを迎えました。


最初は、森から聞こえる不思議な声に戸惑っていた少女が、たくさんの人や魂、そしてさまざまな未来と出会いながら、自分自身の運命と向き合っていきました。


物語の中では、失われた未来や、選ばれなかった未来も登場しました。


けれど、どの未来も決して無意味なものではありません。


私たちの人生にも、「あのとき別の道を選んでいたら」と思う瞬間があるかもしれません。


過去に戻ってやり直すことはできなくても、その経験をこれからの人生にどう生かすかは、自分で選ぶことができます。


楓夏が最後にたどり着いた、


「未来は誰かに決めてもらうものではない」


という答えは、この物語を通して伝えたかった大切なテーマでもあります。


そして、目には見えない魂や森の声を描きながら、もう一つ大切にしたかったのは、「つながり」というものです。


大切な人との思い出。


亡くなった人から受け取った愛。


家族の絆。


言葉にできなかった想い。


それらは、姿が見えなくなっても、心の中から簡単に消えるものではありません。


もしかすると、ふとした瞬間に感じる懐かしさや、夢の中で出会う大切な人の姿も、心の奥に残った記憶や想いが、私たちに何かを伝えているのかもしれません。


楓夏は、森の声を聞くことで、たくさんの魂と出会いました。


そして最後には、自分自身の声にも耳を澄ませることができるようになりました。


物語は終わりました。


けれど、楓夏たちの未来は、ここからも続いていきます。


悠真がどんな人生を歩むのか。


結花がどんな大人になるのか。


凪人と楓夏がどんな日々を重ねていくのか。


それは、誰にも決められていません。


だからこそ、未来には無限の可能性があります。


この物語を読んでくださったあなたの未来も同じです。


もし今、迷っていることがあるなら、焦らなくても大丈夫です。


立ち止まってもいい。


遠回りしてもいい。


時には、最初から選び直してもいい。


あなたがあなたらしく歩いていく限り、その一歩一歩が、あなただけの未来になっていきます。


最後まで楓夏たちと一緒に旅をしてくださった皆さまへ。


心からの感謝を込めて。


そして、いつかどこかの森で風が木々を揺らしたとき――。


ほんの少しだけ耳を澄ませてみてください。


もしかしたら、楓夏の声が聞こえるかもしれません。


「大丈夫。


未来は、これから自分で選んでいけるよ」


ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。


全100話――完結。

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