↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『世界樹の少女と、終わりの魂』  作者: 雨宮ぐみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/100

第十九話 ひいおばあちゃんの最後の秘密



前書き


この物語は、目には見えないものに耳を澄ませながら、自分自身の運命と向き合っていく少女・楓夏の物語です。


森の声。


魂の記憶。


ご先祖様から受け継がれる想い。


そして、まだ誰にも決められていない未来。


私たちは、日々の中で「どうしてこんなことが起きるのだろう」「なぜこの人と出会ったのだろう」と、不思議に思うことがあります。


もしかすると、その出来事には、目には見えない意味があるのかもしれません。


楓夏もまた、森から聞こえる不思議な声をきっかけに、さまざまな魂や未来と出会い、自分が何者なのかを知っていきます。


けれど、この物語で描きたいのは、特別な力を持つ少女の冒険だけではありません。


大切な人を想う気持ち。


失った人への愛。


自分では変えられない過去。


そして、これから先をどう生きるのかという「選択」。


どんなに過去を変えたいと思っても、起きてしまった出来事を消すことはできません。


それでも、その経験を抱えたまま、未来へ進むことはできます。


誰かに決められた運命ではなく、自分自身で選んだ道を歩いていく。


その先に、どんな未来が待っているのか――。


楓夏と一緒に、森の声に耳を澄ませながら、この物語の世界を旅していただけたら嬉しく思います。


あなたの心にも、いつか小さな「声」が届きますように。


そして、その声があなた自身の未来を選ぶための、優しい道しるべになりますように。

第十九話 ひいおばあちゃんの最後の秘密


「あなたは……!」


 おばあちゃんの声が、地下の森に響きました。


 楓夏は、おばあちゃんの顔を見ました。


 いつもの優しい顔ではありません。


 驚きと、恐怖。


 そして――どこか懐かしそうな表情でした。


「知ってる人なの?」


 楓夏が尋ねると、おばあちゃんは震える声で答えました。


「ええ……」


 男は静かに笑いました。


「久しぶりだな、美代子」


「……どうして生きているの?」


 楓夏は驚きました。


「生きている?」


 おばあちゃんは男を見つめています。


「あなたは、母と一緒に海へ行って……そのまま帰ってこなかったはず」


 男は答えません。


 ただ、地下の大きな木を見上げました。


「ずっと探していた」


「何を?」


「この木を」


 男の目が、怪しく光ります。


「そして、あの女が残したものを」


 楓夏は日記を胸に抱きしめました。


「これ?」


「そうだ」


 男が一歩近づきます。


 すると――。


 白いオオカミが男の前に立ちはだかりました。


『これ以上、近づくな』


 男が驚いて後ずさります。


「まだ……生きていたのか」


 オオカミは低く唸りました。


『私は森そのもの』


「そんな……」


 男の顔から笑みが消えました。


「ありえない」


 楓夏は男を見ました。


「おじさんは、ひいおばあちゃんと一緒にいたの?」


「そうだ」


「昔の事件も知ってる?」


「ああ」


 男はゆっくりとうなずきました。


「私は、君のひいおばあさんと一緒に森を調べていた」


「じゃあ、どうして……」


「裏切ったと思っているだろう?」


 男は苦しそうに言いました。


「だが、本当は違う」


 男は懐から古い写真を取り出しました。


 そこには、若い頃のひいおばあちゃん。


 そして、その隣に今の男。


「私たちは、地下水脈を守ろうとしていた」


 研究者の男性が尋ねます。


「では、なぜ記録が消されたんです?」


「上の人間が、地下水を利用しようとしたからだ」


 男は答えました。


「水脈の存在が知られれば、工場や開発のために森が壊される」


 楓夏は森を見ました。


 木々が静かに揺れています。


『そうだった』


 森が答えました。


「じゃあ、黒い袋を捨てていた人たちは?」


「別の連中だ」


 男は首を振りました。


「地下水脈を汚染し、その場所を利用できなくしようとしていた」


 楓夏は気づきました。


「だから、森と海が苦しくなってたのね」


「ああ」


 男はうなずきました。


「私は、それを止めるために戻ってきた」


「でも、どうして美月ちゃんや凛ちゃんを巻き込んだの?」


 楓夏が聞くと、男は黙りました。


「……巻き込んだのは私ではない」


「え?」


「別の人間が、森の声を聞く子どもたちを探していた」


 楓夏の胸がドキンとしました。


「誰?」


 男は答えませんでした。


 その代わり――。


 日記を指しました。


「そこに書いてある」


 楓夏は日記を開きました。


 ページをめくっていくと、ひいおばあちゃんの文字が並んでいます。


 そして最後の数ページ。


 そこには、こう書かれていました。


 『森の声を聞く子どもは、時代ごとに現れる。』


 楓夏は息をのみます。


 次のページ。


 『しかし、五つ目の力を持つ子どもだけは、決して一人では生まれない。』


「五つ目の力……」


 美月がつぶやきます。


 そのとき、楓夏の後ろから声がしました。


「私、その子を知ってる」


 凛でした。


「え?」


 凛は不安そうな顔をしています。


「私のお兄ちゃんが言ってた」


 悠真も頷きました。


「うん」


「僕たちがここに来る前――」


 悠真は言葉を選ぶように話します。


「もう一人、女の子がいた」


 楓夏は目を見開きました。


「女の子?」


「うん」


「どこにいるの?」


「分からない」


 悠真は首を横に振ります。


「でも、その子は……」


 悠真の声が震えます。


「人の心の声が聞こえてた」


 地下の森が静まり返りました。


 楓夏は、ひいおばあちゃんの日記を見つめます。


 そこに書かれていた五つ目の力。


 人間の心を聞く力。


「その子が……五人目?」


 白いオオカミが静かに答えました。


『そう』


「じゃあ、探さなきゃ」


『すでに近くにいる』


 楓夏は周囲を見回しました。


「どこ?」


 オオカミは答えません。


 その代わり、楓夏の足元へ小さな雪の結晶が落ちてきました。


 地下なのに――。


 雪です。


 楓夏が拾うと、雪の結晶が手のひらで光りました。


 そして、頭の中に一つの声が聞こえます。


『怖い……』


 女の子の声。


『誰にも見つかりたくない……』


 楓夏は立ち上がりました。


「聞こえた」


「何が?」


 お父さんが尋ねます。


「女の子の声」


 楓夏は目を閉じます。


『助けて……』


「こっち!」


 楓夏は走り出しました。


 みんなも後を追います。


 地下の森を抜け、細い水路を渡り、岩の間を進みます。


 やがて、一本の大きな木の根元に、小さな洞窟が見えてきました。


「ここ……」


 楓夏が近づくと、中から小さな声がしました。


「来ないで……」


 楓夏は立ち止まりました。


「怖くないよ」


「うそ……」


「うそじゃない」


「みんな、私を利用する」


 楓夏はゆっくりしゃがみました。


「利用しないよ」


「どうして?」


「だって……」


 楓夏は少し考えてから答えました。


「友達になりたいから」


 しばらく沈黙が続きました。


 そして、洞窟の奥から――。


 一人の女の子が姿を現しました。


 楓夏と同じくらいの年齢。


 けれど、その目はとても悲しそうでした。


「……本当に?」


「うん」


 楓夏が手を差し出します。


「私は楓夏」


 女の子はその手を見つめました。


「……私は、ひかり」


 美月が笑顔になります。


「私は美月」


 凛も続きます。


「凛」


 悠真が手を上げました。


「僕は悠真」


 四人が名乗ると、ひかりは少しだけ笑いました。


 その瞬間――。


 楓夏の頭の中に、たくさんの声が流れ込みました。


『ありがとう』


『会えてよかった』


『これで五つの力が揃った』


 楓夏は顔を上げました。


「五つ……」


 森の木々が大きく揺れます。


 すると、地下の中央にある巨大な木が光り始めました。


 幹に、五つの光が現れます。


 森。


 海。


 雪。


 風。


 そして――。


 心。


 五つの光が一つになった瞬間。


 大きな木の幹に、新しい扉が浮かび上がりました。


 男が息をのみます。


「まさか……」


 おばあちゃんも震えています。


「母が言っていた最後の場所……」


 楓夏は扉を見つめました。


 扉には、ひいおばあちゃんの文字が刻まれていました。


 『この扉を開ける者は、森を守るだけではなく、人間を信じなければならない。』


 楓夏は五人の仲間を見ました。


 美月。


 凛。


 悠真。


 ひかり。


 そして――自分。


「みんなで開けよう」


 五人が手を重ねます。


 扉が、ゆっくり開き始めました。


 その向こうから聞こえてきたのは――。


 人間の声。


 たくさんの声。


 怒り。


 悲しみ。


 嘘。


 そして――。


 助けを求める声。


 ひかりが突然、顔を青くしました。


「……聞こえる」


「何が?」


「たくさんの人の心が……」


 ひかりは耳を押さえました。


「怖い……!」


 楓夏がひかりを抱きしめます。


「大丈夫」


 けれど、ひかりの目から涙がこぼれました。


「違う……」


「え?」


「この中に――」


 ひかりは震えながら、暗闇の奥を指しました。


「私たちを探している人の心がある」


 楓夏は、開いた扉の向こうを見つめました。


 そして暗闇の奥から、低い声が響きます。


「やっと、五人揃ったか」


 楓夏は、ぎゅっと拳を握りました。


 長く続いてきた森の秘密。


 ひいおばあちゃんが守ろうとした約束。


 そして五人の子どもたちを探していた謎の人物。


 すべての真実が――。


 いよいよ、ひとつにつながろうとしていました。



後書き

『世界樹の少女と、終わりの魂』を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。


全100話。


長い旅となった楓夏の物語も、ここで一つの区切りを迎えました。


最初は、森から聞こえる不思議な声に戸惑っていた少女が、たくさんの人や魂、そしてさまざまな未来と出会いながら、自分自身の運命と向き合っていきました。


物語の中では、失われた未来や、選ばれなかった未来も登場しました。


けれど、どの未来も決して無意味なものではありません。


私たちの人生にも、「あのとき別の道を選んでいたら」と思う瞬間があるかもしれません。


過去に戻ってやり直すことはできなくても、その経験をこれからの人生にどう生かすかは、自分で選ぶことができます。


楓夏が最後にたどり着いた、


「未来は誰かに決めてもらうものではない」


という答えは、この物語を通して伝えたかった大切なテーマでもあります。


そして、目には見えない魂や森の声を描きながら、もう一つ大切にしたかったのは、「つながり」というものです。


大切な人との思い出。


亡くなった人から受け取った愛。


家族の絆。


言葉にできなかった想い。


それらは、姿が見えなくなっても、心の中から簡単に消えるものではありません。


もしかすると、ふとした瞬間に感じる懐かしさや、夢の中で出会う大切な人の姿も、心の奥に残った記憶や想いが、私たちに何かを伝えているのかもしれません。


楓夏は、森の声を聞くことで、たくさんの魂と出会いました。


そして最後には、自分自身の声にも耳を澄ませることができるようになりました。


物語は終わりました。


けれど、楓夏たちの未来は、ここからも続いていきます。


悠真がどんな人生を歩むのか。


結花がどんな大人になるのか。


凪人と楓夏がどんな日々を重ねていくのか。


それは、誰にも決められていません。


だからこそ、未来には無限の可能性があります。


この物語を読んでくださったあなたの未来も同じです。


もし今、迷っていることがあるなら、焦らなくても大丈夫です。


立ち止まってもいい。


遠回りしてもいい。


時には、最初から選び直してもいい。


あなたがあなたらしく歩いていく限り、その一歩一歩が、あなただけの未来になっていきます。


最後まで楓夏たちと一緒に旅をしてくださった皆さまへ。


心からの感謝を込めて。


そして、いつかどこかの森で風が木々を揺らしたとき――。


ほんの少しだけ耳を澄ませてみてください。


もしかしたら、楓夏の声が聞こえるかもしれません。


「大丈夫。


未来は、これから自分で選んでいけるよ」


ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。


全100話――完結。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。