5-0 大体合ってる御伽物語 -司命と司録-
司命
「……」
司録
「……」
司命
「おい。喧嘩中でも、冠コーナーくらいはちゃんとするぞ」
司録
「ええ、そうですね。業務を怠りたくはないので」
——「司命と!」「司録の」
「「大体合ってる御伽物語!」」
司命
「今回は、ぼくら自身を紹介しまーす」
司録
「需要ありますかね」
司命
「じゃ、話を盛ろう」
司録
「何がしたいんですか、おまえは」
司命
「自己紹介をするのも気恥ずかしいから、互いを紹介するか。
こちらの頭の錆びついた野郎は、司録。一人一人の人生のすべてが書かれた帳面を司っている。記述しているわけではなく、管理しているんだよな」
司録
「ええ。帳面には自動的に記述されます。それらを監督し、整え、必要に応じてエンマ様に提出します」
司命
「図書館の司書さんみたいな役割だ」
司録
「まあ遠からずでしょう。ただし規模が違います。前世、前々世、それ以前——すべてが積み重なった帳面です。量は比較になりません。有能でなければ務まりませんね」
司命
「のんちゃんで三十冊以上あったな。それだけ転生をくり返したというわけだ」
司録
「数の差こそあれど、篁 野々子に限らず、すべての者に複数の帳面があります」
司命
「帳面が途切れるときって、どんなときだ?」
司録
「地獄に落ちた場合など。ただし刑期を終え、再び人間道に入るときには、新たな帳面が生じます」
司命
「ふうん。管理といってもさ、指をピピっと動かせば、帳面が勝手に飛んでくるんだろ。あの能力だけは羨ましいよな」
司録
「ぼくは、本棚のどこにどの帳面があるのか、すべて記憶していますよ」
司命
「きもっ」
司録
「それほど重要だということです。帳面がなければ、死者は嘘をつき放題ですよ。だからぼくは裁きに必要不可欠な役割です——誰かさんと違って」
司命
「でも、おまえには何の決定権もないじゃないか。ぼくはさらに根源的な部分を司っているからなあ。ほらほら、早くぼくの紹介もしてくれよ」
司録
「わかりました。丁寧に解説しましょう。
こちらの情緒不安定な野郎は、司命。日ごと、地域ごとの出生数と死亡数を定めています」
司命
「これより重要な仕事って存在する? なあなあ、教えて教えて」
司録
「仕事に誇りとやりがいを抱いているようで何よりです。それだけきちんと命と向き合い、責任を持って生死を決めているのでしょうね?」
司命
「いや、全然?」
司録
「出ましたよ、この適当っぷり」
司命
「だって、命ってそういうものじゃないか。どれだけ緻密に計画したって、ふとした拍子に消えたり、思いがけず長引いたりするものだろ」
司録
「まあ、一つ一つの命に愛着を持っていては、きりがありませんからね」
司命
「命に愛着を持つのは、本人や周りのやつらの役割だ。いつ死ぬかわからないからこそ頑張れるんだろう?」
司録
「それらしいことを言ってごまかせると思わないでください。
適当とはいっても、一日あたりの死者の数を決める根拠はあるのでしょう?」
司命
「昨日と今日で極端に変えたりはしない。時代による差はつけるけれど。近年は高齢化しているから、増やしている。医療が急速に発達した頃には、減らしたな」
司録
「意外と脳みそで考えているのですね」
司命
「ざっくりな。しかし、ぼくがいなければ世の秩序が破綻するのは間違いないね」
司録
「ちなみに、〝司命と司録〟というのは、ぼくたちの名前ではありません」
司命
「いきなりのカミングアウトで悪いね。〝司命と司録〟は役職名なんだ」
司録
「エンマ様は唯一無二の存在ですが、我々補佐は世襲制です。つまり、前の〝司命と司録〟から名前も仕事も引き継ぎました」
司命
「ぼくたちの前任は、やたらと色っぽい美人のお姉さまたちだったよな。あれはエンマ様の趣味かねえ」
司録
「忘れたのですか。ぼくたちを選んだのは、エンマ様ではなく彼女たちだったでしょう。後任を選ぶのは〝司命と司録〟自身です。だから、お姉さまたちを選んだのも、ひとつ前の〝司命と司録〟であるはずです」
司命
「ああ、そうだったな。なつかしい。ぼくたちもいつか後任を選ぶときが来るのかな」
司録
「これなら任せられる、と感じる者が現れれば……いずれはそうなるのかもしれません」
司命
「そうなれば、晴れて引退。のち、消滅かな。だって名前も仕事も持っていかれるんだぜ。あはは!」
司録
「よく笑っていられますね。
そういえば、先ほどの説明に、ひとつ誤った情報がありました」
司命
「おいおい、放送事故は勘弁してくれよ。お詫びして訂正いたします。で、何を間違えたんだ?」
司録
「〝すべての者に複数の帳面がある〟とお伝えしましたが、例外がいました」
司命
「帳面が一冊しかないやつがいるということか? 日本が始まってから何年経っていると思っているんだよ。不気味だなあ」
司録
「焼き芋です」
司命
「へ? れーちゃん?」
司録
「間違いありません。〝太野 礼阿〟の一冊しかないのです」
司命
「はあ? 誰の生まれ変わりでもないということか? 突然、ひょっこりと生まれたって?」
司録
「そう、ひょっこりはんです」
司命
「どこから湧いて出たんだよ、れーちゃんは」
司録
「大変、稀なケースですが……理論上、ありえなくはないですね。ずーーーっと地獄にいたとか?」
司命
「やばいやつを冥府に引き込んでいるじゃないか。やっぱり、のんちゃんを残すべきだったんじゃないの? あっちの出自ははっきりしているしさ」
司録
「焼き芋の生まれに関して、おまえは本当に何も知りませんか?」
司命
「知らないって。ぼくが決めているのは数だけだもん。生まれるやつの素性なんて気にも留めていないよ」
司録
「まあ、冥府の従業員など、例外だらけですからね。焼き芋自身に問題はなさそうですし、さほど気にすることもないかと」
司命
「冥府はみーんな訳アリ。まともなやつが働く場所じゃないよな。ぼくも、おまえも」
司録
「……とまあ、今回はこんなところでしょうか?」
司命
「それぞれを象徴する言葉で表すとすれば、司録は絶対性、司命は不可欠かな」
司録
「ぼくは絶対であり、不可欠ですよ」
司命
「だったらぼくもそうだろうが。チッ、いちいち張り合ってくる——」
司録
「では、喧嘩再開ということでよろしいですか?」
司命
「当たり前だ。これ以降は口もきかないからな」
司録
「そもそも、けさのおまえの不機嫌の理由は何だったのでしょうか」
司命
「口をきかないと言っただろ」
司録
「ああ、そうですか。そちらがそのつもりなら、望むところです」
司命・司録
「「以上、〝大体合ってる御伽物語〟でした!」」
喧嘩の行方はどうなる?
平日は毎朝7時頃、土日祝は正午頃に更新いたします。




