表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

1-2 閻魔大王は何系能力者?

「おまえ、見たまんまの凡人だろう。

ワルぶるなよ、雑魚ざこが」


双子の右側、司命しめいに吐き捨てられた。


まずい。

すでに企みを嗅ぎつけられている。


「わたしは本当に悪いことをしました。

ドカンと天変地異を起こすような悪行です。

でも、内容は言いたくありません。

情報が欲しければ、

まずはそちらが開示してくださらないと」


閻魔大王が口を開かないのをいいことに、

わたしは図々しくも、次の問いを巡らせ始めた。


取材をするとき、いつも考える。

わたしが記事の読者なら、

閻魔大王について何を知りたいかな。

死後について何を知りたいかな。


そして代弁を試みる。


「最初の質問です。

人間が死んだあとの行く先は……

何種類ありますか?」


「おまえの知ったことではない」


ばっさり。

一を聞けば十を返してくれるような優しさはない。

そこがいい。


そちらがそのつもりなら、

これまでの記者経験で得た取材テクニックを

活かすまでだ。


まずは具体例を挙げる!


抽象的な問いには、

抽象的な答えしか返ってこない。


けれど具体的に示せば、

相手はそれを肯定するか、否定するか、

訂正するかのいずれかを選ばざるを得ない。


「天国と地獄、とはよく聞きますが」


「ややこしいことを嫌う人間たちによって、

簡略化された情報に過ぎない」


あなたの言葉だって、

かなり簡略的ですけれど。


でも、ひとつ引き出せた。

死者の進路は、少なくとも二種類よりは多いらしい。


こんなふうに、もやがかかった答えの輪郭を

少しずつ削り出していくのだ。


「かつて最も重く裁いた罪は何ですか?

やっぱり、殺しとか……?」


閻魔大王が顔を上げた。

煙水晶のような瞳だ。光がない。


返答の前に、閻魔大王の後ろから何者かが飛び出した。

わたしの足元にわらわらと寄ってくる。


「わっ! な、何?」


膝ほどの背丈で、小さな角を生やしている。

皮膚はすすけ、鉄のように黒く尖った爪を持つ。


答えを待たなくともわかる。

鬼だ——六匹もいる。


太野おおの 礼阿れいあ! この無礼者!」

「身の程を知れ!」

「おまえには地獄がふさわしい!」


わめき声とともに、腕や足に絡みつかれた。

引き剥がそうともがくも、力がまるで違う。

ペンが飛び、手帳が床を滑った。

体勢を崩して両膝をつく。


閻魔大王が袖をひるがえし、おもむろに右手を上げた。

筆を握っている。


何をする気——?


わたしの記録とは別の帳面に、

さらさらと何かを書きつけた。


次の瞬間、鬼たちの体が

塗り潰されたように真っ黒に染まり、

ギャッという短い悲鳴とともにかき消えた。


わたしは息を切らしながら、

今起きた出来事に衝撃を受けていた。


鬼たちの姿は跡形も残っていない。

閻魔大王に命を奪われたのだ。


「無礼者?

裁くのは、おれ一人だ。

手を出すな、餓鬼ども」


とどろいたのは、命令でも叱責でもない。

絶対的な決定だった。


司命も司録も、目に見えて身をこわばらせている。


わたしはやっと理解した。

思わず後ずさりをする。

人間とは格が違う。


こ、こ、こ、怖すぎ——


とんでもない相手を

取材相手に選んでしまった。


震え上がるわたしを前に、

閻魔大王は顔色ひとつ変えずに言った。


「……殺しではない」


「立派な殺しでしょ!」


ツッコまずにはいられない。


「あなたが何か書いた途端に、

鬼たちが消えましたよね」


持ち前の正義感が、

むくむくと沸き上がる。

あの世にも暴力があるなんて、まったく、

どこまで行っても世紀末じゃないの。


「かつて最も重く裁いた罪の話だ」


閻魔大王が、乾いた墨の上で指を組む。


あ、取材の続きか。

答えてくれるんだ。

 

慌ててペンと手帳を拾い上げた。

ひとまず、

〝閻魔大王の武器は、筆と帳面〟

と走り書きをする。


……自分を地獄送りにしようとした鬼たちに、

さほど同情する必要はないかも。


動揺を抑え、小さく咳払いをした。


「では、改めて。

 あなたが最も重く裁いた罪は何ですか?」


「語ってはならないことを語ったことだ」


嘘のない目で見つめ返され、きょとんとする。


「え? そんなことが、殺しより……?」


「重い」


即答。

拍子抜けしながらも、メモを取り続ける。


「日本の法律において、最も重い罪は、

外国と通じて日本を攻撃させる行為です。

閻魔大王のお考えでは、それは違うと?」


鉄骨に頭をぶつけても、

記者として学んだテクニックは忘れちゃいなかった。


比較対象を挙げるのは、

取材の常套手段じょうとうしゅだんだ。


たとえば選挙戦では、

あえて他党の政策を引き合いに出す。

そうすると取材相手は、否定の中で、

自身の考えをより具体的に語り始める。


さて、地獄の党首はどう出るだろう。


「知ることすら許されぬ禁忌がある。

見てしまっては尚更だ。

語られた真実は、もはやなかったことにはできない」


なんだか余計にこんがらがってしまった。

追加の質問をくり出す前に、閻魔大王がつぶやく。


「新しい鬼を雇わなければ」


下手ではあったが、意図ははっきりとわかった。

話題を変えられたのだ。


こういう場合は深追いしてはいけない。

〝取材NG項目〟だ。

ここでマナーを破り、機嫌を損ねれば、

取材の席そのものが二度と用意されなくなる。


「……次の質問です」


「まだあるのか」


双子が同時に鼻を鳴らす。


「閻魔大王は、今のお仕事が楽しいですか?」


無遠慮な質問に、

背後の階段に並ぶ死者たちまで息をのんだ。

しかし興味はあるようで、そろそろと首を伸ばし、

離れた場所から玉座の反応をのぞいている。


閻魔大王は、やがてこう言った。


「どう見える」


質問返し。

それは〝答えたくない〟、

もしくは〝考える余地をくれ〟という

意思の表れかもしれない。


「質問を変えます。

どうして今のお仕事を続けているのですか?」


聞き方を工夫すれば、

すんなりと答えが返ってきた。


「必要だからだ」


「誰にとって?」


間髪を入れずにたずねると、

閻魔大王はわずかに眉根を寄せる。


「……世の中にとって。

そして、おれにとって、だ」


その瞬間、わたしは確信した。


彼は〝閻魔〟に適任だ。

裁くのが好きな者の目ではない。

だからこそ、裁く場所に座るのに向いているのだ。


——どうしよう。


心臓が高鳴る。

好奇心が抑えられない。


わたし、この恐ろしい魔王について、もっと知りたい。

エンマ様は達筆です。

そうでないと能力が活きないので……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ