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大きな勘違い

「えっ! ちょっ、大丈夫?! 怪我してない?」

「……なんて……?」

「怪我してないかって聞いたんだけど」

「……もっと前」

「前? いやとりあえずカップの方が先に」

「怪我してないからあとでいい。それよりも、聞き間違えかもしれないかもしれないからもう一回言ってもらっていい?」


カップとルーシュの顔を交互に見るものの、目の前の男はただじっと俺を見ているだけで動こうとしない。痛がる様子もないし、こちらとしても有耶無耶で終わるよりは続けさせてもらったほうが都合はいい。

粉々になった欠片は一旦見ないふりを決めた。


「だから街で宿取ったことないし、どうやって取ればいいか教えて欲しいって話なんだけど。あとこの城から一晩離れる時って届け出とか必要ある? 門番の人に伝えればいいかんじ?」

「………………」

「あっ! もちろん次の日の昼には帰ってくるからさ。一晩だけ外に出してくれれば大丈夫だから」

「……一晩だけ……」

「そう、一晩だけ! ちょっと羽目外させてくれればいいので」

「はめを、はずす……」


目の前で両手を合わせて頭を下げ渾身のお願いをする。もうここまで来たら恥ずかしいものなんてない。もう一生分の恥はかいた。何としても外泊許可をもぎ取ってみせる。

少し頭を上げてルーシュの様子を伺うと、額に手を当てて俯いてしまっている。


「外に行く理由が、その、分からないというか……し、城の中じゃダメなの……?」

「もうこの際言っちゃうけど、問題は前じゃなくて後ろなので。ここじゃどうしようもないだろ」

「こ、こじゃ、どうしようも、ない」


スパンと跳ね返すとルーシュの声がより沈む。額に手をあてたままだしそんなに難しい話だっただろうか。そこまで考えてハッとする。あまり顔は知られていないとはいえ、婚約者という位置付けになっている。一人で外泊だと体裁が悪かったりするのかもしれない。

ここまで恥をかいたにも関わらずやんわりと断られるルートが想像つき、心が折れそうになる。どちらにしろルーシュの回答を待つしかあるまい。黙り込んでしまったルーシュの言葉を固唾を飲んで待っていると、なぜかブルブルと震える手で二の腕を掴まれる。



「えっ?」

「……ぼ、ぼくで、なんとかなりませんか……」

「……はい?」


顔を上げたルーシュは今にも泣きそうで真っ青な顔色をしていた。ただ、言われた言葉が理解できずに、心の底からの疑問が音となって口から出てくる。


「そ、外は絶対危ないです。そもそもどんな乱暴なやつが出てくるか分からないし。あ、あの、怪我とかするかもしれないし、リスクの、リスクの方が多いから」

「乱暴……」

「そうだよ! その点僕だったら絶対そんなことしないし、あの、う、自惚れかもしれないけど、イイ処だって知ってるし、絶対嫌なことはしないって誓えるし」

「僕……」

「そもそも触られるのとか顔見られると思うだけで本当に、あの無理で、か、勘弁してください」


さっきまで黙っていたとは思えないくらいの勢いで矢継ぎ早に説得されて、ルーシュが壮大な勘違いをしていることにじわじわ気づいてくる。ルーシュの想像力が豊かだったせいでもあるが、自分のこれまで言い方を振り返ってみると確かにそうとれないこともない。

だめだ、恥ずかしすぎる。さっきこれ以上の恥はないと思ったが、これ以上があったとは。


「ア、アキさん、あ、あの、顔見たくないとかだったら、目隠しとか僕するし、手とか縛ってくれてもいいし」


自分の行動を振り返っているうちに、黙っていたからか目の前で至極深刻そうな顔をした男から大真面目にとんでもない話まで飛び出してきている。

止めようと思ったところで、口より先に手が出た。


「アキさっ…た!」


ペしんと頭を叩くと、眉を八の字にした情けない顔のまま一応は止まってくれた。


「男を買う相談じゃないから」

「……、……え?」


そもそもそういったセックスの相手を買う方法なんてホテルの取り方以上に分かるわけがない。

共用の水場を準備のために使う気はないこと、ルーシュ用の水場はもっての外であること、そして自室の場合万が一誰かに気づかれると気まずいから外で自慰をさせて欲しいことをなんとか伝える。一応執務を行なっている関係で、ルーシュからお小遣い程度のお金は貰っていた。ホテル代はそこから出すから迷惑もかけないと伝えると、納得したのかしてないのか眉間にたっぷりの皺を寄せて、口を開いたり閉じたりを繰り返す。


「わ…………、かった」


たっぷりの間を開けての了承。顔は以前として苦いままだ。

すぐに『ただし』と続けられて、外泊されるための条件を出される。二つ返事で頷いて、なんとか交渉はたくさんの尊厳と引き換えに成立することができた。



◇◇◇


「………………、嘘だろ」


二日後、地図を片手に辿り着いた場所に愕然とした。恐らく街で一番、二番を争う高級な宿。扉を開く必要はもちろんなく、なぜか顔パスで部屋まで通される。そして通された部屋でも呆然とする。

広さももちろんだが、どう考えてもあまりに良い部屋すぎる。恭しく頭を下げた案内人が下がっていて、パタンと扉が閉じられた部屋の前で一人立ち尽くす。


ルーシュは条件として自分が宿を取ると言い張った。宿代も自分が負担する代わりに利用する宿は選ばせてくれと。

立地されている場所の治安や設備等は俺じゃ分からないだろうし、万が一のことを考えると不埒な人間がいるところや口が軽い人間がいるところでも困ると言われてしまえば頷かない選択肢はなかった。それでもまさかこんないい宿と部屋をとられるとは思いもしなかったけども。


昨日の夜から『実は明日一日休みをとっていて』だの、『本当に行くの?』だの泣きそうな顔で言う男をなんとかまいて出てきたが、言葉通り心配しているのは本当だったらしい。

耳を澄ませても隣の部屋の物音すら聞こえてこなければ、ベッドも清潔なものが用意されている。若干気が引けるが、ここは甘えて好きにさせて貰おう。


次の日スッキリした顔で王城へ戻ると、門の前でウロウロしているルーシュと真っ先にエンカウントすることを俺はまだ知らない。



そして、


「なんてこと……」


王家の紋章が描かれた手紙をくしゃりと握りしめて、隣国では宝玉と呼ばれている可憐なお姫様はその内容にひどくショックを受けた。

そして、同じように隣国の王家の紋章が入った紙を用意させ、すぐに筆をとったことも、もちろん知る由はない。


仕事が忙しく更新遅くなりました。

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