第25話 テロ
クラウスは伸び伸びになっていた社会見学を再開した。
視察先の金融街では大きな人だかりが出来ていた。
「もっと紙幣を発行しろ!」
「金利を下げろ!」
「借金を帳消しにしろ!」
「週休四日制にしろ!」
聞き覚えのある声に「ん?」と視線を向けたらレドヴィルだった。
「お前、休んでなにしてるんだよ?」
「休暇届は出しましたよ」
「ここのデモはストじゃないだろ!?」
「皆と一緒に要求叶えてくれるかもしれないじゃないですか」
「そんなわけないだろ」
みっともないから一緒に来いとレドヴィルも連れ出した。
目的地の造幣局に行く途中で大爆発が有り、デモ隊が恐慌状態になって逃げ始めた。
「殿下!」
「俺達はいったんあそこへ」
彼らは逃げずに大木の影で様子を伺った。
騎馬警察が群衆に邪魔されながらも急いで爆発地点へと向かっている。
「どうするんですか?」
「ちょっと様子を伺うだけだ。捜査妨害をする気はない」
つい先日まで艦隊の砲撃音を聞いていたので爆発音には慣れていた。
彼らは恐慌状態のデモ隊を避けて冷静に状況をみていた。
再び爆発音が轟き、群衆はさらに狂乱状態となる。
「殿下、あいつです」
木に登って上から見ていたカランが犯人らしき男達を発見した。
「確かか?」
「はい、視認しました」
カランが特徴を伝え、全員で追いかける。
彼らは軍人から訓練を受けているのでそこら一般市民よりは強かった。
テロリストのうち二名を押し倒して拘束に成功し騎馬隊に引き渡した。
◇◆◇
「オットマー社のシビルです。今回はお手柄だったそうですね。犯人は何者ですか?」
クラウスは現場に来た新聞社から質問を受けた。
「捜査の邪魔になるので何もいえません」
「殿下は何故ここに?」
「造幣局の視察に行く途中でした」
「その造幣局が爆破されたそうです。犯人は財宝の神の狂信者だと噂されていますが」
ついさっきの爆発事件なのに何故そんな噂が流れているんだろう。
「はあ、そうなんですか?」
「金貨や銀貨のような硬貨ではなく紙幣や手形を使うのは鉱物神達への反逆だ、冒涜だ!と騒いでいましたから」
「そういう観点もあるんですね」
「今回、デモに合わせて爆破したのも彼らに犯行を押し付けて逃げるつもりだったのではないかと思われます」
「現場にいた僕らよりよほど詳しいじゃないですか」
「ずっと追っていましたから!」
「じゃあ、当局に協力してあげて下さいね」
◇◆◇
翌日クラウスは父や大臣達に呼び出された。
「財宝の神の狂信者が犯人だと主張したそうだな。警察幹部が困っているぞ」
「いえ、そんな事言ってません。捏造です」
「じゃあ、捜査に加わるよう王子から指示されたというのは?」
「いえ、そんな事は・・・」
現場にいた証人として少年達も後ろに控えさせられており、一人が物言いたげにした。
「何かあるなら発言を許す」
「はい、王子は無難な返事をしていたと思いますが『当局に協力してあげて下さい』とはおっしゃいました。彼らが拡大解釈しただけです」
「なるほど」
王達は少し協議した。
「ふむ。お前に直接確認せずオットマー社の横やりを許した現場幹部に問題があるな」
「ご理解いただけて良かったです」
「だが、こういう人間もいると思って慎重にな。無難な受け答えも組み合わせれば問題が出てくる。お前は最終的に曖昧にした筈のオットマー社の推測を支持したことになる」
左様、と大臣達も頷いた。
「過激資本主義者と宗教団体、武器密輸組織、そしてとある富豪については別途内偵を進めています。我々は貧富の格差を解消する為に社会主義団体の活動を支援していますが、こちらの制御下に無い外国の新聞社に現場を荒らされると困るのですよ、王子」
「そうでしたか。申し訳ありません」
「もう子供ではありませんし、今後は殿下も会議に招いてもいいかもしれませんな」
どうしても政治的影響力が出てくるので彼らはそんな相談を始めた。
◇◆◇
それからちょくちょく国内で活動を許されている外国の新聞社や自国の新聞も読み始めた。そのうちに国家機密を外国に漏洩したという噂が流れていたフラガ伯爵が外国で事故に遭って夫人共々死亡したという記事を発見した。
国内の新聞社では漏洩先の外国が始末したのではという論評が書かれていた。