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第24話 婚約

 帰国したクラウスは報告書を整理して父に出した。

休んでいた間の学校の単位にもなるので物見遊山で観戦してきたわけではない。


「後で海軍総督に添削して貰え。それよりお前、ラクナマリアと婚約するつもりはあるか?」

「え?父上もご存じの通り私にはまだ到底その資格はありません」

「それは分かっているが、お前が私の後を継いで契約も引き継ぐなら彼女は留まってお前を支えてくれる。私が言えば結婚だってしてくれるだろう」

「いや、でも彼女の自由を奪うような真似は」

「形式上の事だ。彼女は自分の意思で後宮にいる」

「でも誰とも結婚する気はないと伺いました」

「私との契約があるから他人と結婚して出ていく事は出来ないだけだ。私が必要なことだと言い含めれば問題ない」


クラウスはどうしたものかと迷う。

形式とはいえ彼女の自由を縛り付けていいのだろうか。


「私が明日、不慮の死を遂げた場合、お前の年齢ではさすがに諸国も選挙で推してはくれないだろう。クズネツォフやマヤは彼女を次の選帝侯のもとに預ける」

「クズネツォフ老師が?何故です?」

「ラクナマリアを私の元に連れて来たのは彼だ。後見を頼まれた」

「老師はラクナマリア様のなんなのです?」

「後見人だ。そんなことよりロックウッドのような男から守りたいのならさっさと婚約でもしておく必要がある。お前もどうせあと数年したら妃を選ぶ必要があるしな」

「いや、でも・・・」

「ラクナマリアは後宮にいるくらいだから別にお前が他に妃を何人見繕ってきても気にしない。形式上の夫婦以上の関係を求めたらどうなるかは知らないが」


自分の運命の主導権を自分で握れないというのは悔しい。

自分の意思に沿っているのに操られている気がする。


「彼女が年上で、自分より強くて、資産家で、気が強くて、優れているのが嫌か?」

「嫌なわけないです!」

「私が彼女に結婚を申し付けるか、お前が求婚してくるか、どちらがいい?」

「う、そりゃ自分で言ってくる方がいいですが」

「自信が無いか」


夜遅くに二人きりでソファーに寄り添っていても完全に子供扱いなのでまったく勝算は無かった。


「もう少し時間を頂けませんか。それと訪問する許可も」

「どのくらい欲しい?」

「三年」


体格ももっと男らしくなっているだろうし、専門教育も受けられるようになっているので今とは世界が違う。


「長すぎる、半年。よそにちょっかいを出される前だと言ったのを忘れたか」

「では二年で。将来求婚するまで誰からも受け付けないというお約束を頂いて来ます」

「一年だ」

「わかりました」


半年でも仕方ないかと思ったが一年貰えたので良かった。


「王家の人間が滞在していて、お前が熱愛中だと社交界には流しておく」

「ええええ」

「情けない顔をするな。東方にはお前の歳で父親になっている王もいるんだ。気概もないなら全て諦めてしまえ」

「っ!わかりました!ラクナマリア様にお許しを頂いて来ます!」

「よろしい」


ドラブフォルトは満足家に頷いた。


「父上はもう彼女を隠すおつもりは無いのですね」

「言わずもがなだ」

「失われていた筈の聖王国はお爺様の時代に再発見されたと学びましたが、私が行ってみてもいいでしょうか」

「秘境の隠れ里だ。フランデアン王が妖精の森に住む民を帝国から隠しているように我々も隠す。求婚に成功したら考えてやる」

「仕方ありませんね」

「昔のように王の強権で隠すのは難しい時代になってきた。王侯貴族だけでなく民の変化も促す必要がある。我々西方圏人類が生き残る為に、世界中の社会に変革を促す。社会は急速に変わる。それを導く立場になりたいならお前ものんびりはしていられないぞ」

「はい、では行ってまいります!」


 ◇◆◇


 従者達に父との会話を打ち明けて、早速行くぞと伝えたら皆が反対した。


「え、まだ無理ですよ」

「ひょっとしたら受けてくれるかもしれないけど、その代わり一生嫌われますよ」


皆に反対されるとすぐ弱気が押し寄せてくる。


「一時的に嫌われても予約しとかないと悪い虫がついちゃうし、仕方ないんじゃないかな」

「そうだなあ。将来もう一回口説いて好きになって貰うとか」

「まあ、今本当の意味で受けてくれるわけないし。今の時点では本気で口説くより理屈で攻めた方がいいと思います」

「そうかー」


ちょっと考え直して、今日は帰国の挨拶だけにしようと方針を変更した。


 ◇◆◇


 南方圏の港町で買って来た珍しい果物を献上するとラクナマリアはとても喜んでくれた。


「あの、ラクナマリア様」

「何だ?」


かなりみずみずしい果物だったが、綺麗に皮を割いて手を汚さずにうまく切り分けてクラウスの分も小皿に乗せてくれた。


「実は父がラクナマリア様を他国に取られないように私と熱愛関係中であると社交界に流すそうです」

「そうか、勝手にせい」


まったく興味を持たれて無かった。


「父が引退するまで二十年はかかると思いますが、ラクナマリア様はそれまで本当に誰とも結婚せずここで暮らすおつもりですか?」

「うむ」

「これまで男性が気になった事は?」

「無いな。これからも興味を持たぬ。ホスタの話では男は恐ろしい獣で、諸国の王は皆詐欺師だそうだ」


こいつ、なに吹き込んでんだよ、と睨みつけた。


「むう、お前も怖い目をするようになったな」


ラクナマリアに嫌われた。


「大人の男をここに招くのはよくないそうだ。お前もそろそろ出入り禁止かな」

「ちょっとお待ちいただきたい!」

「なんだ」

「僕は父の後を継ぎますし、我が国と西方圏の全人類を解放する為にラクナマリア様が必要です。ラクナマリア様も必要とされているから父と契約しているのですよね?」

「うむ」

「では、後継ぎの僕とも信頼関係を作っておく必要があると思います」

「ふむ、それもそうか。では、また来るがよい」


とりあえず首は繋がった。

ひとまず社交界の話はしたし、勝手に外堀を埋められたと怒られないよう布石は打ったのでここは引き下がった。


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