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第23話 五根統一聖典

「殿下、今日は神々について学びますよ」


あくる日もあくる日も遅れていた学業を教師達はここぞとばかりに教え込む。


「今時、神か~。大砲こそが現代の神だぜ!」

「うちらにとっては金貨こそ神だろ」

「ラクナマリアが神だ」

「「それはそう」」

「俺も射撃訓練したい」


航行中の艦隊は時々砲兵も水兵も射撃訓練をしている。

砲声が轟くと少年達はそちらに興味が移った。


「真面目にやって下さい」


◇◆◇


 初めにウートゥありき。


幾千もの頭、手、足を持ち、唯一無二の存在であった。

その目から太陽神モレスが生まれ、髪からは月の女神アナヴィスィーケが生まれた。

ウートゥの体は泥となって崩れ去り、モレスとアナヴィスィーケは世界を創造した。モレスの力によって魔力に満ちる泥は分離され、世界は地上、虚空、天上の三つの領域となった。

泥の中からは世界樹が生まれ、世界樹は三界に跨って異なる世界を繋ぎ固定した。その根は地獄の底に達し、樹頭は天頂まで届き、枝葉は五大陸に跨って世界を支えた。


世界樹の実からは次々と新たな種が誕生し、地上は生命で満たされた。

地上の新たな生命達が争いを始めるとモレスとアナヴィスィーケは始祖たる天魔ウートゥの泥から新たな神を生み、地上を五つの地域に分けて統治させた。


【中央大陸】

母なる大地の神、ノリッティンジェンシェーレが守護する大地。

大地母神達は豊穣を司り、最も地上を繁栄させてモレスを大いに喜ばせた。

モレスは褒美としてノリッティンジェンシェーレや姉妹神達に新たな種を授けた。


【北方大陸】

優しき水の女神、ドゥローレメが守護する大地。

技芸を愛し、獣達に歌を授けて神々を称えさせた。

平和を愛する眷属神達は、競い合う大神達をしばしば仲裁した。

ドゥローレメは争いが絶えない地上の様子を常に哀しんでいた為、その涙は大河となって大陸を分断し、海を作った。境界線の神でもあり、生と死を分かつ神でもある。霊魂を司るアナヴィスィーケの元へ地上から清浄な魂を運び続けた。


【東方大陸】

荒ぶる風の神、ガーウディームが守護する大地。

世界樹の中心があったが既に森の女神達が宿っており、しばしばガーウディームと対立していた。ガーウディームがいかに嵐を巻き起こしても広がる木々は止められず彼の支配は及ばなかった。むしろ他の大陸に新たな生命は広がって繁栄させた。


【南方大陸】

猛る火の神、オーティウムが守護する大地。

戦いを好み、地上を統治するのにさらに生命を戦わせてより強靭に育てる事を選んだ。それはモレスの怒りを買ったが、彼の眷属が開発した車輪は地上の距離を大きく縮めて発展させた。


【西方大陸】

美しき鋼の神、イラートゥスが守護する大地。

眷属たちに彼の下へ宝石を運ばせ、より美しく磨く技術を与えた。

人々に道具を与えた事は武器を与えた事にも通じ、生命が失われていく速度も増した。

財宝の神は金貨、銀貨を発明し、人類に与えて発展させた。


■7世紀の神学者マクスミウスによる解説

五根統一聖典は前四千年紀に人類共通の聖典として記されたものだが、近年写本の食い違いが目立つようになってきた。私が旅するところ、火山の噴火により南方圏を中心に各地で大きな被害が出てより、神を恨む声すら聞こえるようになってきている。写本の中にはそうした部分も反映され古代の原典から変じている部分もあるようだ。


これには大きな懸念があり、五大陸各地の神々と英雄の業績を改めて再編纂する必要がある。


◇主神とは


太陽を司り創造神たるモレスと霊魂と復活の神アナヴィスィーケは神々の中でも特別な存在で主神である。


◇大神とは


五大陸の守護神であり、五大元素の神である。

中心に位置し大地の根源たるノリッティンジェンシェーレはモレスから賜った褒美として力のある神々を生んだ。帝国が最も力ある国となったのは当然の成り行きであるが、神としての格は五大神それぞれ対等である事を強調し、我が帝国人が驕り高ぶる事を防がねばならない。


◇まつろわぬ神々


大半の神は五大神の眷属となっているが、いくらかは誰にも従わない神が知られている。モレスの子である法の神エミスや契約の神アウラなどである。

道化の神、狂神アル・アクトールにいたってはしばしばモレスにさえ逆らっていた。東方大陸の神、森の女神カンメー、ファウナ、ゲリア、アーナディアといった神々に至っては直接の生みの親である大神ばかりか主神にも逆らっている。他にも反抗的な神が多かった。東方には世界樹が存在したといわれている為、主神にも大神にも無縁の神々が多く生まれており、制約を嫌い自然のままに生きる事を尊ぶ気風がある。


死と再生という二面性を持つダナランシュヴァラ神についても言及しなければなるまい。

これも世界樹から生まれた神と思われるが、一切誰にも従おうとはしない。唯一アイラクーンディアと親しかったという記述が見受けられる。男神であったり女神であったり謎の多い神で死の神という特徴から亡者を率いる地獄の女神と同一視される。


ドゥローレメの涙から生まれた海の神々もやはり五根の神々に反抗し、海に潜って海獣を創り出して独自の支配権を確立している。


数多くの神話が大陸各地に残されているが共通しているのは、アル・アクトールがいずれ神々の時代も終わりを迎え、中つ時代、そして終わりの時代が来ると予言している事である。この予言に怒った軍神がアクトールを殺害しようとしたが、その神は戦車の車輪が外れて海中に落ちて海獣の餌食となった。


モレスはアクトールを鎖で縛ったが、エミスやアウラは父神に逆らって彼を解放した。予言する事自体に彼の罪を見出せなかったからである。


そしてアクトールの予言の時は来た。

ある時大地母神の一柱アイラクーンディア神が森の泉の女神ゲリアと雷神トルヴァシュトラを巡って争ったのだ。アイラクーンディアと姉神アイラカーラはゲリアに毒を盛って苦しめた。森の女神の長であるカンメーは医神クレアスピオスに頼ったが、クレアスピオスの父たるガーウディームはカンメーに世界樹の支配権を要求した。


これにイラートゥスが怒り攻め込んだ。オーティウムが助けに入ったが、イラートゥスの一撃で世界樹の幹は大きく傷つき、オーティウムの炎が世界樹を燃やしてしまった。

水の女神達は雨を降らせて鎮火させたが、時すでに遅く世界樹は死を迎えていた。

これまで多くの生命を育んできた世界樹を失った神々はその果実を巡って各地で争いあった。世界樹の果実は神々に力を与えて不死性を持続させるといわれていた。


モレスはアイラカーラとアイラクーンディアに罰として地獄の管理を命じた。

しかしダナランシュヴァラ神が彼女を哀れみ地獄の花園ムイセリオンを与えて慰めた。


一方世界各地では神々に従っていた神獣の何体かが争いあう神々に失望して極北へと姿を消した。神々が我に返った時、地上は壊滅して炎の海となり、僅かな生物にも亡者が襲い掛かっていた。

その亡者の王が神喰らいの獣と呼ばれる怪物である。

複数の足と目を持つ狼のような生物だったとされる。神を喰らえば喰らうほど、より強大になっていった。神々が転移して己の聖域に逃れても追跡したとされる。


神々の中からこの状況を造り出した原因の一端である森の女神が進み出て、己を生贄としてこの獣を封じた。


主神モレスは地上から去って天界に帰る事を決めて、地上は時の神ウィッデンプーセとスクリーヴァに任せた。ウィッデンプーセはスクリーヴァに地上の再建を命じた後に眠りに尽き、スクリーヴァは人類をまとめてその長となった。

これが人類帝国の始まりである。


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