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第14話 夜会②

 昼間からずっと飲み続け、騒ぎ続けている大人達はそろそろ酔いが回り過ぎてかなり酷い状態になってきた。クラウスもお酒を飲んでも構わない年齢になっていたが、クズネツォフに止められ、勧められても飲まずにいた。


もう挨拶周りはいいか、と思いそろそろどこかで休もうと思った矢先に酔っ払いたちが屋上に美姫達がいるとかどこかの夫人と話していた。

未婚の美姫がいると聞いて、男達はジョッキを掲げて突撃していく。

嫌な予感を感じてクラウスは後をつけたら母やラクナマリア達のお茶会の現場だった。


「これは大使殿」

「おや、妃殿下ではありませんか。そちらはマヤ姫」

「うむ」

「あとは・・・?ご紹介頂いても?」


帝国の大使はまだ正気だが、他の商会長やどこかの貴族達の酔いはかなり酷く無礼な口調で紹介を要求しながら千鳥足で近づいていく。


”誰も近寄ってはならぬ”


ラクナマリアが警告を発する。

帝国大使はその声が古代神聖語だと気付きさすがに足を止めた。

だが、酔っ払いには無駄だった。


「あ、いかん」


泥酔した連中は誰も足を止めないので、マヤが先制攻撃を加えた。

懐から触媒を取り出して、大量の水に変換して浴びせかけた。


「な、なんだ!」


平民の商人にはわからなかったが、貴族にはいくらかは酔いの回った頭でも魔術を喰らった事に気が付いた。


「アルエラ、大使殿以外は下がらせて。誰かタオルを」

「はっ」


王妃が仕切って酔っ払いを追い出した。


 ◇◆◇


 クズネツォフは自分でマヤの魔術を中和して防いだが、クラウスは思いっきり水を被った。大使も同様だが、酔っぱらっていた自覚はあるので「これは失礼を」と詫びて気にしなかった。


「巻き添えにして済まなかったな」

「いえ、こちらこそ・・・っ!蛮族!?」


タオルを持ってきた下女には尻尾が生えていた。いわゆる獣人だ。


「うちの侍女じゃ。気にしないで貰いたい」

「いや、しかし。蛮族ですぞ!?」


帝国は神代以来、蛮族の生存権を認めていない為、人類圏では動物園か闘技場以外では見かける事は無い。一部の地域では人馬族を荷馬車代わりの労働力として奴隷として使う事もあるがかなり例外である。

蛮族戦線から遠い西方圏や南方圏、東方圏南部では人類の敵である蛮族を知る機会がないので特例で持ち込まれる。

侍女として使う事はまず無い。


「マッサリアの大虐殺を知っていよう。獣人の赤子と区別がつかない事があったので帝国兵にマッサリア人が大量に殺害された結果、人口が大きく減ってしまった。だから赤子に限って命を助けても良いと皇帝陛下に許可を貰った。大使殿が気にする事ではない」

「いや、しかし明らかになったのなら処刑すべきでは?」

「ふむ、気になるなら下がらせよう。あとで皇帝陛下に確認するがよい」


マヤが自分の侍女達に命じて宿舎に帰らせた。


「本当に陛下が?」

「うむ。勝手に繁殖しないように普段は男子禁制の後宮に配置することを条件にいくつか特例が出ておるぞ。そういえば皇帝陛下は健在か?」


新帝国歴1431年、蛮族戦線の視察に出かけた皇帝が殺害され帝都では反乱が起きたと伝えられていた。


「もうご帰還なさいました。叛徒はすぐに処分されるでしょう」

「それはめでたい。我々の所にはなかなか正確な情報はもたらされないからのう」

「民間の新聞社は想像をもとに記事を書きますからね。帝国行政府からの情報にだけ注意を払っていただければ、と」


クラウスは注意深くマッサリアの姫君と帝国大使の話を聞いた。

マッサリアの姫は獣人を侍女としており、ラクナマリアの友人で望みも知っている。

気のいい中年紳士だった帝国大使も蛮族をみるやいなや即座に処分を進言してきた。

他国の首都の宴会の席上で。


帝国人の前で迂闊に内心を吐露してはならない。

一般的な帝国人がどういうものなのかもっとよく知る必要があった。


「大使殿」


ひとまず声をかける。


「おや、王子殿下」


後ろにいたことに気がつかなかった帝国大使は振り向いて挨拶した。


「母上、マヤ殿」

「あら、いらっしゃい」

「済まぬ、そなたにも水をかけてしまったか」

「いえ、下で騒いでいたのをみかけて追って来たのですがもっと早く止めるべきでした。大使殿、我が国の酔っ払いが迷惑をかけて申し訳ありません」

「あ、いや少々私も酔い過ぎていたようで」


下で騒いでいた時に、大使も酔っ払いと意気投合して美姫見学に来たので気まずかった。


「まあ、これはそういうお祭りですからね」

「老師」

「朝まで騒ぐのは若者に任せて我々はそろそろお開きとしませんか」


クズネツォフの言葉に大使も同意してこの場を後にした。


 ◇◆◇


「ふっふっふ。そうかそうか」


マヤはクラウスを見てにやにやと笑った。


「な、何でしょう」

「先ほどラクナマリアやメアリーとそなたの事を話していたのだ」

「どんなことを?」

「ラクナマリアのベッドで甘えていたそうではないか」

「し、してませんよ。そんなこと!」

「そうか?三歳の時に母恋しくて抱き付いたとかなんとか」

「お、覚えてません」


義母とマヤに暖かい目で見られて居たたまれない気持ちになる。


「実の両親に会いたくは無いか?」

「いえ、薄情かもしれませんが王は誰も特別扱いしてはならないものでしょうから」


王が国家の父であるように。

誰かの父ではなく万民に尽くす為に。

息子もそうなるべく育てられる。


「西方諸国会議でドラブフォルトは望むなら将来、ルクス・ヴェーネから養子を提供することを決めた」

「そうなのですか?」

「うむ。帝国は諸王に一定の魔力を求めるからのう。神の血を濃く引く証拠として」


信仰が薄れ、技術が発展し、拝金主義者の平民の力が強くなり過ぎた影響か、諸国家の王族から急速に神秘の力が消えつつある。財宝の神の狂信者は金を通じて神を信仰するが、大半の人間は金の力しか見ていない。


「初耳だな。皆の事はそっとしておいて欲しいのだが」


ラクナマリアは不平を言った。


「クラウス殿なら大丈夫だろうが、他の諸王家の魔力はかなり貧弱になっている。だが、帝国政府は西方諸国がエスペラス王国によって統一されることは望まない。帝国の直轄領になるか、血が強化されるか、じゃ。ラクナマリアにも他の王家に提供する為にそのうち子が求められるやもしれん」

「欲しいなら与えよう」


皆が連れ去られるよりは、と言う。


「こういう娘じゃぞ、クラウス殿」

「う」


困る王子にマヤはにやにやと笑った。


「ちなみに帝国は奴隷制を廃止しておる」

「え?」

「強力な帝国貴族がいる以上、平民より下の階級など必要ないからな」


帝国は自国の平民階級内の分断工作も成功しており、帝国市民、従属国の市民に比べて効率が落ち、社会不安の温床になる奴隷を必要としていなかった。

クラウスは西方圏から奴隷を無くし、共和制にするのを帝国に認めさせるのと、帝国から貴族制を無くし帝政を崩壊させるのとどちらが楽だろうか、と思い悩む。


「では、マヤ。帝国にとって先ほどのような獣人達はどんな階級なのだ?」


ラクナマリアが問う。


「階級などない。発見次第即座に殺される。ま、お主は他所の大陸の事にまで気を使う必要は無い。気にしても誰の助けにもならん」

「・・・・・・そうか。お前も大変なのだな」

「うむ。今の皇帝は話せば多少は通じるからまだ死んで貰っては困るのじゃ」


重い話を打ち切るべく、メアリーがさて、と手を打った。


「クラウスの社交界初参加記念ということで踊ってあげてくれないかしら」


ラクナマリアにクラウスとのダンスを依頼した。

舞姫としてではなく。


「よかろう」

「えっ?」


クラウスは習っているが、ラクナマリアはそういうのを知っているのだろうかと思ったが案外達者だった。そのうちドラブフォルト達もやってきたが、屋上は酔っ払いは立ち入り禁止となって追い出された。

マヤや他の夫人も参加し、お酒を飲んでいない少年従者や一部の騎士は特別に相手をして貰えた。追い返された男達は涙し、騎士達には一生の誉れとなった。


随分社交的になったとマヤは安心して帰国していった。


今日はここまで。

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