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言葉の庭のAlife ―『生きた歴史書』と理外の少年アリス―  作者: 本宮愁
第二話*観測者と三位
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[9] 問い

 アリスを連れて、退室を願いでたフヒトを、リヴが呼びとめる。


 いぶかしさを押し殺して振りかえったフヒトは、[調停者]の真剣なまなざしを受けて、戸惑った。



「リヴ、さま?」

「フヒト。間違っても【改編】をおこなうな」

「ええ。それは、もちろんですが……どうして、突然」



 フヒトが聞きかえすと、リヴはらしくもなく、すこし言いよどんだ様子を見せる。



「いや、――いい。アリスを任せた」

「? はい」



 結局、真意を解せないまま、扉は閉じた。


 それを眺め、三位の空間から抜け出した開放感を感じながらも、ふに落ちない思いにフヒトは首をひねった。


 まあいいか、と気もちを切りかえてひさしの外に出れば、高い日ざしが目を焼く。[焔灯]ほむらびはしっかりと役目を果たしているらしい。



「フヒト、これからどうするんだ? もう自由にしていいんだろ」

「そうだね……」



 開放感をありありと浮かべたアリスのまなざしを受けとめながら、フヒトはしばし迷った。


 特異職、という立場は特殊である。[史記]もまたそれに連なるものではあるが、一般的な例かと言われれば少し違う。


 熱と灯りをつかさどる[焔灯]、大気をつかさどる[風織]かざおり、万物の根源に連なる[喚起]かんき[長庚]ゆうずつ[寒月]かんげつ[幽鬼]ゆうき[言読]ことよみ――。


 ぱっと思い浮かぶだけでも、かなり風変わりな【権限】をになうモノたちの総称、それが特異職である。



(あいさつ、するべきかどうか)



 フヒトに目付役を任せるというのなら、学園でのアリスのあつかいはフヒトと同等、つまり『別棟組』だろう。


 確かに自由度は高いが、その分いさかいが起こりやすくもある立場だ。



 同種の言名を宿すモノが複数存在する場合でも、その代表としての『名』を継ぐ存在は、ひとりだけである。


 もちろんユ=イヲンや三位などは、同種の存在などあり得ないが、他の言名であれば話は別だ。[史記]が複数存在した例とて、過去にはある。



 別棟には、フヒトを含む数人の特異職、それも『名持ち』だけが属している。


 仮とはいえ、アリスを彼らと同列にあつかうのなら、関わり方を考えなければならないだろう。


 どうしたものか、と考えにふけっていたフヒトのそでを、アリスが引く。


 しかしフヒトはそれに気づかず、アリスの手はそのままフヒトの背後に伸びた。



「いっ……! なにを」



 後頭部に走った微妙な痛みに、フヒトのまゆが寄る。


 二手に別れた緑青ろくしょう色の髪の束のうち、手近な右を掴んでいたアリスは、唇をとがらせながら手を離した。



「だって、全然気づかねーし」

「声を出しなよ、声を」

「出した!」

「だからって髪を引っぱらない」



 むくれるアリスに、あきれたまなざしを向けながら、フヒトは乱れた髪を簡単に直した。


 面倒なくくり方もそうだが、なにより長髪はうっとうしい。好んでいるわけではなかったが、それでも[史記]として従うべきならわしだ。



「で、なに。どうしたの」

「……あの、さ」



 めずらしく言いよどむアリスに、知らずフヒトの表情は険しくなる。


 もっとも、無表情の上に多少の険がのったところで、はためにわかる差異は微々たるものであった。



「ここ……ガクト? って言ったっけ」

「そうだよ。学都DiCeディーチェ。何百年か前に定着した来訪者が、そう名づけた」

「定着……?」



 ぱちぱち、と大きな黒眼をまたたかせるアリスは、まだ意味を理解していないのだろうか、とフヒトはいぶかしむ。


 補足しようとフヒトがあらためて口を開くより、吹っきれたように強い目をしたアリスが声をあげる方が早かった。



「――学都の外は、どうなってるんだ」

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