真誠自照:信じたい自分 演武型訓練と、不揃いな連動
だいぶ先まで書き溜めができたため本日は、20時10分も投稿いたします。
どうぞ1読、お楽しみください。※8月8日まで2回投稿を実施いたします。
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演習場に、それぞれの魔力の気配が砂塵とともに散っていた。
春の終わりを告げる乾いた風が吹き抜ける中、生徒たちは一糸乱れぬ――とまではいかなくとも、驚くほど滑らかな連携で「型」を刻み続けている。
彼らはまだお互いを深く知らない。内心では焦燥や戸惑いを抱えている。だが、ここに集められたのは各所の“エリート”たちだ。染み付いた技術と高い戦術理解度が、個人の感情を置き去りにして高度なチームワークを成立させていた。
「――次、立花。面談だ」
教官補佐の鋭い声が響く。
「お、おう! 行ってくる!」
ランドが大きく手を振って前衛の列から離脱する。突進力のある彼の肉体が抜けた瞬間、さすがに前衛の陣形がわずかに歪んだ。
「おいおい、前衛の柱が抜けると一気にバランスが悪くなるって」
琉生が苦笑混じりに木剣の構えを補正する。
「ぼ、僕が前に出ます……っ!」
朔太郎がすかさず一歩を踏み出そうとするが、横から悠真の手がそれを制した。
「朔太郎、無理しないで。位置だけ埋めればいいから。琉生、右の歩幅を半歩広く。朔太郎はそのまま斜線カバーに回って」
悠真の冷静な指示に従い、メンバーの身体が自然と連動する。誰かが指示を出す前に、それぞれの足並みが「ランドの不在」を最適化するように滑り込んでいく。
お互いへの信頼があるわけではない。ただ、彼らの卓越した戦術眼が、阿吽の呼吸で穴を埋めさせていた。――“お前は凄い”と言われ集められた者たちの根にある、静かで冷徹なまでの連携だった。
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「――次、佐伯」
「は、はいっ……!」
しばらくして、教官補佐の呼び出しにさやかが肩を跳ねさせた。小走りで駆けていく彼女の背中を見送りながら、今度は後衛の魔力伝導率がわずかに揺らぐ。
「さやかちゃん、すごく緊張してたね……」
陽葵が補助魔法の呪文を紡ぎながら、心配そうに視線を泳がせる。
「まあ、あの厳つい教官だしな。でも、さやかなら課題の処理は完璧にやってるだろ」
新が淡々と魔力の術式を補強しながら言葉を添えた。
さやかが抜けたことで、後衛の展開する防壁の魔力線が少しだけ細くなる。だが、誰も文句を言ったり、動きを止めたりはしない。陽葵と新が即座に自分の出力を細かく調整し、全体の強度を一定に保つ。
“誰が抜けても平然と回る”――それこそが、この合同課程に集められた者たちが誰に言われるまでもなく、自ずと理解している求められた前提だった。
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「――次、水理」
ミナトは、自分の名前を呼ばれて静かに頷いた。手にしていた杖を訓練用のラックへと置く。
「ミナト、行ってらっしゃい。……なんかお前の場合、教官からえらく深い話されそうだな」
悠真が冗談めかして声をかけてくる。
「……うん。たぶん」
ミナトは小さく息を吐き、二人のいる列から離れた。
ミナトが歩き去り、演習場の外へと足を踏み入れた瞬間――場を構成していた全体の魔力の空気が、ほんの少しだけ重くなった。
「……あれ? ミナトくんがいないと、なんか急に空気の密度が違う気がするね」
おとが不思議そうに周囲の魔力残滓を見つめて呟く。
「う、うん……なんて言うか、全体の軸がなくなったみたいな、安定感が薄れた……」
朔太郎が自分の魔力を合わせるべき「基準点」を見失ったように、わずかに視線を彷徨わせた。
ミナト自身は自分の肉体の遅れに焦り、上の空で合わせていたに過ぎない。しかし、その「無駄を削ぎ落とした魔力配置」は、知らず知らずのうちに周囲の人間にとって最も合わせやすい『基準の楔』として機能していたのだ。
「……でも、やるしかないよ」
悠真が木剣を構え直し、静かに全員へ視線を送る。
「“誰が抜けても、残った奴らだけで完璧に成立させる”のがここだからね。いくよ」
春の終わりの風が、不完全なまま美しく噛み合う彼らの演習場を、冷たく横切っていった。
◇
夕暮れの校舎は、長く伸びた濃い影を地面に落としていた。
放課後、一日の訓練を終えて俺が寮への帰路につくと、並木道の影から、いつの間にかリーンが音もなく寄り添うように歩み寄ってきた。
「主様。……お疲れさまでした」
「……うん。お疲れ。今日は、いろいろ考えることが多かったな」
「面談で、何か意地悪でも言われましたか?」
リーンは少しだけ眉をひそめ、そっぽを向くようにそっけない声を出す。
(あ、これちょっと怒ってる。リーンのせいにしたのがばれたか?さすがにないない、なんでだろ、はぁ、面倒くさいな、ご機嫌悪いのは俺もなんだよ)
「……“優しさは武器にも毒にもなる”ってさ。使い方を間違えるな、と釘を刺されたよ」
「……ハン、やはり、ミナトの事わかってない教官ですね」
リーンは小さく鼻を鳴らした。
「主様の優しさは、毒にはなりません。……私はそう思っています。あの日、ミナトが、動けなかった父様の背中を押し、私を助けてくれたあの優しさに救われて今こうして隣にいる身としては、否定されるのは少し面白くありません」
ツンと澄ました横顔のまま、リーンはぶっきらぼうに言葉を続ける。
「……そう言い切れる?」
「当然です」
リーンは足を止め、俺をジト目で睨むように見上げてきた。
「主様は、物事をただ冷酷に“終わらせる”のではなく、“戻す”ために力を使う方です。……私が今ここにいる理由がそれを証明しているのですから、間違いありません」
ミナトは彼女のその、頑固で少し独占欲の滲む物言いに、思わずフッと肩の力を抜いて笑ってしまった。
「……リーンは、いつもそうやって僕の都合のいい味方でいてくれるね」
「味方、ですか。……だいぶ片思いをさせていますよ、その味方さんに。主様は先ほどから随分と他のクラスメイトたちのことばかり考えておいでですね」
「え?」
「……本当のことです」
リーンはぷいっと顔を背け、少し歩調を速める。
「主様が『そんなつもりはなかった』と仰っても関係ありません。主様は、今日もずっとあの者たちを見ていました。前衛が抜けても、後衛が揺れても……主様は無意識に、全体の形を整えようと自分の魔力を置いていた。……私を味方と言いながら、意識と魔力は他の人間たちに向いています」
その言葉に含まれたかすかな棘と、子供っぽい嫉妬のような響きに、胸の奥がくすぐったくなる。
「いや、あれはただ身体のラグを考えていて――」
「言い訳は結構です。ですが……そうやって他人の成立を気にするのが、主様の『お人好し』の本質なのですから、仕方がありません。リーンはお見通しなので、さっさとご自分も認めて、私にもっと頼ればいいのです」
少しだけ歩幅を狭めて俺の隣に戻ってきたリーンは、上目遣いにそう言って、小さく胸を張った。ツンとした態度の中に、甘えるような、自分だけを特別扱いしてほしいという響きが確かに混ざっている。
通り抜ける風が、春の匂いを優しく運んでいく。
「はぁ……レポート、書き直そうかな」
ぽつりと溢した俺の言葉に、リーンは少しだけ満足そうに口元を綻ばせた。
「はい。主様が本当に“信じたい主様”の姿を、そのまま書いてください。……ただし、私がお伝えしたポイントをしっかり思い出して書いてください」
じろりと可愛らしく釘を刺され、俺は「分かってるよ」と苦笑しながら、茜色に染まる空を見上げた。
夕暮れの色が、昼間の冷たい空気よりも、今は少しだけ優しく見えた。




