神銀の魔神 六属性統合魔法に魅入る魔神
ジンの額を、冷や汗が一筋滑り落ちる。
極限まで魔力を削り出しながら、彼は苦々しく言い放った。
「今も見ろ! じりじりとだが、確実に前進してきてるんだぞ!」
「抑え込んでいるからこそ、なんとか足止めが成立してるに過ぎん。奴の完全停止なんて土台無理な話だ!」
絶望的な言葉が重く圧しかかり、一瞬の沈黙が場を支配する。
だが――ミナトの瞳の光は、何一つ失われていなかった。
「カナリアさんっ!!」
ミナトは叫ぶ。
「『理の力』って……もしかして六属性統合魔法のことですか!?」
「ん?」
カナリアは一瞬不思議そうに首を傾げた。
「そうだけど……それがどうかしたの?」
「俺、使えます!」
「……は?」
「俺がそれを使うと、どうなりますか!?」
カナリアの視線が、ゴーレムの胸へと素早く向けられる。
そこに刻まれた三つの刻印。
『壊れない』
『確保』
『理の力』
カナリアは一瞬だけ、思考の海へと没入した。
胸の術式、文字の持つ意味、そして……二万年前の師匠の意図。
「……あー」
数秒の後、カナリアはぽん、と手を打った。
「多分だけど、拉致されるね」
「やっぱり! じゃあ、俺に向かって突進してきますよね!?」
「そうね。標的を『六属性(理の力)を使うお前』だけに絞って、一直線に向かってくるはずよ」
「それなら、一直線になる分だけ明確な隙が生まれる!」
ミナトの言葉に、カナリアの唇が不敵な笑みを刻んだ。
「……なるほど。いいわね、その捨て身の度胸」
「――やる?」
「おいっ!!」
ジンが血相を変えて怒号を飛ばす。
「本当に大丈夫なんだろうな!?」
「行ける気がします!」
「だそうよ! だから多分、いけるわ!」
「『多分』だと!?」
ジンの絶叫を背に受けながら、ミナトは迷いなく一歩前へと踏み出した。
後方で――リーンが息を呑み、祈るように両手を胸の前で強く握りしめた。
ミナトは静かに瞳を閉じ、深く呼吸を整えた。
汗に濡れた掌で、愛用の杖を強く強く握りしめる。
体内に巡る火、水、風、土、光、闇――すべての属性魔力が、凄まじい高密度で一つの奔流へと収束していく。
「――六属性統合……!!」
ミナトの叫びとともに、世界そのものを優しく塗り潰すような、純粋で圧倒的な光が解き放たれた。
ミナトの手元から、溢れ出す光の濁流。
それは、言葉では表現しがたい不思議な光だった。
世界を照らし尽くすほどに明るい。だのに、不思議と眩しくはない。
七色が溶けあう鮮やかさ、でありながら、落ち着いてた揺らめきがある。
ただ――。
世界を余計に揺るがすことなく。
どこまでも真っ直ぐに。
どこまでも深く。
見る者に、世界を感じさせる輝きを与えていた。
――その光が、中庭を照らし出した神銀の魔神を照らしたとき
神銀の魔神の挙動に変化が現れた。
ジンの漆黒の立方体が放つ重厚な拘束の圧力に押されながら、探し物を見つけたように――。
ギギギ……と関節音を鳴らしながら。
ゆっくりと、だが狂いなく正確に。
神銀の巨軀が、ミナトの立つ方角へとその顔を向け直した。
◇
「よし……こい、こっちだ!!」
ミナトは六属性統合の光を大きく掲げたまま、一歩一歩慎重に後退していく。
荒れ果てた石畳を踏み締め、巨体を中庭の中央へと確実に誘い込んでいった。
――そして。
ミナトの鼻先、目と鼻の先まで迫ったところで――神銀の魔神が、ぴたりと動きを止めた。
ギギ……と微かな音を立て、瞳の蒼い光が規則的に点滅を始める。
次の瞬間、口部にあたる部位から強烈な照射光が吐き出され、ミナトの全身を眩しく照らし出し始めた。
「さーて……行きますか」
カナリアが軽やかに杖を構え直す。
「ジン、胸まで階段作れる?」
「そこを使え!!」
ジンの短い一声とともに、空中に漆黒の立方体が整然と組み上がり、ゴーレムの胸部へと一直線に伸びる階段が瞬く間に構築された。
「ありがと!」
カナリアは風のように軽快な足取りで黒いステップを駆け上がっていく。
(……なんで止まってるんだ……?)
ミナトは溢れる汗に目を細め、胸の奥で思考を巡らせた。
あまりの光量に眩む視界を堪え、なんとかゴーレムの全体を網羅しようと視線を胴体へと巡らせる。
(俺を見ているのか……? いや、違う。この光を……『六属性統合魔法』を認識して、解析しているのか……!?)
頭上では、胸部に到達したカナリアが流れるような手つきで刻印術式への直接干渉を始めている。
ゴーレムは相変わらず微動だにせず、ミナトへ光を当て続けたまま目を点滅させていた。
だが――ミナトの皮膚を刺す緊張感は、刻一刻と跳ね上がっていく。
顎を伝った汗が、石畳にぽたりと落ちた。
(動くな……頼むから今動くな……!)
(すぐ上で作業してるカナリアさんを潰すなよ……っ。くそ、光が眩しすぎてゴーレムの全身の挙動が捉えきれない……!)
その時。
視界の端に刺さる、ゴーレムの蒼い瞳の明滅に――ミナトの脳裏がかすかな違和感を捉えた。
(三回……? チカチカチカ、チカチカチカ……。規則的すぎる。なんだこれ、ただの点滅じゃ――)
――ガアアアアンッ!!!
突如として、ミスリルゴーレムの全身が慌ただしく橙色に激しく発光した。
「そこの子!! 離れなさいっ!!」
刻印の書き換えを完了させたカナリアが、空中へ跳び下がりながら悲鳴のような怒号を上げる。
「ジン!! 壊せるわ、叩き込んで!!」
「ついでに足の要も削っとくから!!」
落下しながらカナリアが空中から放った追撃の術式が、ゴーレムの右膝関節へとピンポイントで激突した。
バチバチッと激しい青い火花が散り、無敵を誇っていた神銀の装甲の一部が、脆い泥のように急激に劣化していく――!




