第74話 : ルナ小林、ソル柊、オル・アティード、出る!!
<前回のあらすじ>
コロニー5軍は侵攻してきた地球軍に対して新しい戦術を投入するも、ことごとく解析され突破されてしまった。
そして、地球軍は降伏しないコロニー5軍に対して、国際条約で禁止されているS2爆弾を使った。
文字通り、跡形もなく消えてしまったコロニー5軍。
その時、とうとうルナの機体が完成した。
すぐにでも出撃しなければならない時間であったが、JAM-Unitを着けたルナにAIの拒絶の言葉が襲いかかった。
心が折れそうになるルナ。
そこにコロニー5軍総督の悲痛の声。地球軍の戦闘機に乗せられた人の声。そして、お互いを憎しみあう言葉がルナに入り込んだ。
「なぜ人はなぜ分かり合おうとしないの。。。」
思わずソルがルナの肩を抱き締めた。すると、ルナにソルの想いが流れ込むのだった。
ソルは、人々の持つ互いへの憎悪、分かり合おうとしない心をルナが感じ取り、ルナ自身が今まで感じてきたものとの大きな違い、無力感を感じていることを、感じ取った。
「人は、人はなぜ分かり合おうとしないの。。。なんで、、こんなに人と人が。。。」
ソルが、涙を流しながら呆然と立ちすくむルナを強く抱き締めた。
「お前のやってきたことは無駄なんかじゃない。
おれが分かっている。
まだその輪が小さいものだとしてもいいんだ。
いつか分かり合える日が必ず来る。
それまでおれも諦めない。
だから、お前も諦めるな!!」
その時、ルナにソルの体験が流れ込んできた。
一人で生きると決め、柊家を飛び出し、貧困層に入り込んだソル。
入り込んだその日、ボロアパートの外で制御盤を叩く人を見る。
機械いじりが得意なソルは後ろから近づいた。
人の接近に驚いたアパートの住民。ソルは銃を向けられる。
ソルは制御盤を見るだけだと説明し、制御盤を見た。
幸い簡単な配線外れだけであったので、すんなり修理をした。
アパートの住人は、不具合が直ったのを確認した。
それでもソルはまだ訝しげな眼差しで見られていた。そして、アパートの住人は感謝の言葉もなしに部屋に入っていった。
それどころかソルは最後まで銃を向けられていた。
修理屋として仕事をはじめた時もさんざん費用未払い、銃での脅しが起こった。
マフィアのアンドロイドに襲われ、部品を奪われることもあった。
それでもソルは辛抱強く仕事を続けた。
時おり掛けられる感謝の言葉がソルの心を支えていた。
しかし、費用未払いが発生すると途端に食べられないほどの状況に陥った。
そんなソルの心の中でいつも響く言葉。
(それでも、、、いつか)
そんな中、部品を安く売っている店を見つけた。
部品を見つめるソル。
(うわっ、安っ!助かるー。しかも、全部キレイに整えられてる。この店、愛があるなー。)
その時、ソルは、マフィアのアンドロイドを撃退するために、頭にJAM-Unitを着けていた。
そして、その店の店長と思われる人が現れる。
「いらっしゃい!初めて見る顔だね。」
その人はりょーたろだった。
りょーたろは”OneYearWar”の前身”Drop Of the Colony”をするために頭にJAM-Unitを着けていた。
二人が近づいた時、二人は自然とソルが探している電子部品の情報、そして、りょーたろの持つお店の部品情報が行き来した。そして、それだけではなく、お互いの心の中、想いが入り交じった。
その時、丸2日何も食べてなかったソルの腹の虫が鳴った。
りょーたろがソルに興味が湧いたような顔をした。
ソルはりょーたろに声を掛けられる。
「おい。。お前、腹減ってんのか?いや、まあそりゃそうだわな。二日も食べてないんだもんな。奢ってやるよ、食べに行こうぜ!」
りょーたろは少し不思議そうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。
りょーたろからは全く嫌な気配を感じなかった。
ソルはりょーたろと一緒に食事をした。
そして、リタお婆ちゃんとの出会い。
リタお婆ちゃんはソルに会った最初の日から温かく接してくれた。
依頼した修理以外の仕事をやっていたソルに、技師として旅立った宇宙開拓移民の息子の話をしていた。
そうやって、りょーたろはジャンク屋で、ソルは修理屋として日々を過ごし、ソルの周囲は僅かずつ変わりはじめた。
少しずつ、本当に少しずつ感謝してくれる人が増えはじめた。
そこまで3年の日々がかかった。
もちろんソルのことをまだ騙し続ける人もいる。
しかし、ソルはそれでもと続けているのだ。
ルナは、ソルが自分のことを昔の自分のように感じていることを知った。
いや、今もなお続いているソルの挑戦に自分を重ねて見てくれているという方が近いような気がした。
そして、ルナは、自分もソルも、人との繋がりを求め続ける理由を、今さらながら悟った。
ルナの心に先ほどのソルの言葉がスッと入ってきた。
ルナが意識を取り戻し、ソルの胸から頭を離して、涙を拭いた。
ルナがソルを見て言った。
「私、やるよ!!」
「ああ。やってやろうぜ!!」
ルナとソルがコックピットブースに向かって歩きだした。
その様子を見て、りょーたろが頷いた。
そして、りょーたろはコックピットブースの上に設置されているタキオンコミュデバイスを見て何かを思い付き、二人に声をかけた。
「なあ、ソル、ルナちゃん。あとは任せていいか?ちょっとやることがあってよ。」
ソルとルナが振り返った。
ソルとりょーたろの目が合い、ソルが返事をした。
「うん。こっちは任せといて!りょーたろさんもよろしく。」
「ああ!行ってくる。」
そう言ってりょーたろがエレベータの方に移動した。
ルナとソルがコックピットブースに入ろうとした時、柊レイがソルに言った。
「もう大丈夫そうじゃの。では、我々もコロニー3の防衛を見るで、あとは頼んだぞい。」
ソルが柊レイの方に向いて言った。
「じいちゃん、ありがとう。絶対に地球軍を止めてみせるよ。」
柊レイがソルを見て頷き、柊ミライ、小林秋雄、小春と一緒にエレベータの方に移動した。
ソルが技師の人たち、アンドロイドたちにも声をかけた。
「皆さん、今までありがとうございました。皆さんはすぐにここから避難してください。」
その言葉を聞いて、技師の人がルナとソルにエールを送った。
「あなたたちは我々の希望です。頑張ってください!」
ソルが頷き、コックピットブースに乗り込み、扉を閉めた。
メインシートにルナが座り、後方のサブシートにソルが座った。
ルナが両側から出ている操縦桿を掴んだ。ルナの目の前に表示が浮かび上がった。
(ルナ小林 『Red Devil』 認証完了。
光の未来 全機能解放。
ランチ・シークエンス。)
オル・アティードのコックピットボールが移動用アームに掴まれ、リニアカタパルトに設置された。
機体の前方のハッチが開かれ、機体が前方に移動していく。
そして、移動後、ハッチが閉じられた。
自動音声が流れる。
(リニアカタパルト射出まであと10秒、8、7、6、)
機体前方のハッチが次々と開かれ、前方に並んでいる赤色のランプが緑色に変化した。
その間に、オル・アティードの翼やブースターの推進偏向ノズルが何度かパタパタと動作を繰り返した。
(5、4、3、)
その時、二人が言葉を合わせて言った。
「ルナ小林、ソル柊、オル・アティード、出る!!」
(2、1、Mark)
合図と同時にオル・アティードが一気に加速された。緑色のランプを通りすぎ、宇宙空間に放り出された。
コロニーの横っ腹からオル・アティードが飛び出した。
コロニー3の宙域にはコロニー3軍が出撃、展開を開始していた。
コロニー3軍の横をすり抜けるオル・アティードをコロニー3軍が認識した。
「03、12(まるさん、ひとふた)民間機1機が通過!情報のあったRM財団専属機と思われます。」
ソルがコックピットボールの左側面にコロニー3軍の戦艦、戦闘機、メタリックステラの一群を肉眼で確認した。
「もう迎撃体勢に入ってるんだな。」
「ここまでなんて絶対に来させない!!」
「そうだな!やってやろうぜ!!」
ルナがフットペダルを力一杯踏み込んだ。
オル・アティードが猛烈な勢いで地球に向けて加速した。
一気にコロニー3軍が小さな塊になり、点となり、すぐに見えなくなった。
ルナが何もない前方の宙を睨んだ。
すると、オル・アティードのアサルトユニットやコックピットユニットの光彩部分から虹色の波動がほとばしった。
その波動は空間を歪ませながら全方位に広がった。
その時、ルナははっきりとソルの意識を感じた。ルナを助けたいという意識を。
ルナは安心感を感じた。
次の瞬間、ルナは遥か前方にある気配を感じた。
ソルがそれを言葉にした。
「哨戒機が来てる!?」
「行くよ!!」
オル・アティードが、高音のイオン排出音と共に、さらに加速した。
オル・アティードのレーダーにはまだ認識されてなかったが、二人ははっきりと哨戒機の位置を把握していた。
(こんな風に見えているのか。お前、すげーな。。)
ソルは言葉にしなかったが、ルナが答える。
「うん。便利でしょ?」
チラッとルナが後ろにいるソルを見て目を合わせた。
オル・アティードが接近するにつれて、ルナにはいつもの声が聞こえはじめた。
(戦いたくない。戦いたくない。戦いたくない。)
ルナが僅かに目を細めた。
心の中でしゃがみこみそうになるルナ。
だが、ソルがルナを支えた。
(大丈夫だ。おれが受け止めてやる!お前はただあいつらを解放してやれ!!)
(一人じゃないんだ!!)
ルナが細めた目を再び大きく開けた。
哨戒機がまだ1000km以上ある距離からオル・アティードに対してイオンビーム砲の照準を合わせた。
二人が同時に言った。
「来るっ!!」
オル・アティードがサイドブースターからイオンを吐き出し、急激なシフト移動をした。
数発のイオンビームがオル・アティードの虹色の軌跡をなぞるように通りすぎた。
間髪入れず何度も射出されるイオンビーム。
だが、オル・アティードの急激なシフト移動によって全てのビームが宙を切らされていた。
オル・アティードと哨戒機の距離、約1000km。
オル・アティードは立て続けに撃ち込まれるイオンビームを避けながら、この距離を約20秒で詰めた。
そして、哨戒機とすれ違う一瞬、オル・アティードは哨戒機のカメラ部、レーダー部、ブースター部、そしてイオンビーム砲台にガトリングレールガンを撃ち込んだ。
レールガン弾が撃ち込まれた各部位が小さく爆発し、哨戒機は全ての能力を剥ぎ取られた形となった。
何もできなくなった哨戒機を置き去りにどんどん地球に向けて進行するオル・アティード。
ルナの心に哨戒機を操縦するAIから声が届いた。
「ありがとう。。。」
陥落させたコロニー5を後にして、地球軍がさらにコロニー3に向けて侵攻を開始していた。
その軍が先行している哨戒機の情報を入手した。
「コロニー3から出撃したものと思われる機体が1機、こちらに向かって進行中!」
「1機で何ができるものか!!」
「速度50km/s超。驚異的なスピードです。」
哨戒機のイオンビームを急激なシフト移動で回避する情報が次々に送られてくる。
情報が地球にも送られ、地球の巨大AIが機体種別の解析を行った。
軍隊において、そのような動きをする機体の情報はなく、ただ唯一ヒットした情報にAIですらも(信頼性:低)の判断をせざるを得なかった。
その情報が全機体に共有される。
(RedDevil オル・アティード 確率1.7%)
それを受け取ったコロニー5から進行中の戦艦AIが否定的な見解を示した。
「あれはゲームの中の機体ではないか!」
その情報を見て、リチャード・マーセナスが驚愕の表情になった。
「やつらだ!間違いない。。。しかし、どうやってあんな機体を。。。」
だが、すぐに含みを持った不敵な笑みに変わった。
「まあ、良い!良い機会だ。向かい撃て!!最大レベルで迎え撃つのだ!!」
地球軍のAIレベルが最大に設定された。
<次回予告>
AIを最大レベルに引き上げた地球軍。
とうとう先行する地球軍の機体群と交戦を開始する”RedDevil”。
その時、何か”OneYearWar”で感じていたものと違いを感じるルナ。
それは二人であることの何かだった。
次回、第75話 ”言わなくてもわかってるって!!”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




