第42話 : おい、お前も見えてるか?
<前話のあらすじ>
”OneYearWar”という宇宙戦争シューティングゲーム。
そのゲームの世界大会、コロニー3の予選決勝。
ルナはその予選決勝まで駒を進めていた。
だが、ルナは操作系になにかディレイがあることに困惑する。
それに気づいたソル、りょーたろがその原因がハッキングにあること。そして、ハッキング元がこのコロニー3内にあることを突き止める。
そして、二人はとうとう最終のハッキング元を突き止め、攻撃を開始したのだった。
その時、ルナは超巨大ボール型要塞と対峙していた。
その巨大要塞から放たれる超高出力イオンビーム。
ルナは発生しているディレイのため、回避が追い付かない状況。
次、イオンビームを撃たれればどうなるか分からない、それほど追い詰められていたのだった。
空気を切り裂くほど加速されたソルの拳がアパートの中央支柱のてっぺんに叩き込まれた。
目の細かい月の砂レゴリスで作られたアパートの壁は衝撃に脆いものであった。
アパートが音を立てて、崩れていく。
まずは一階が潰れた。
駐車場に置いていた高級車がベキベキと音を立ててペシャンコになった。
一階が下に落ちる勢いで二階が、そして三階が、轟音を立てながら潰れていった。
アパートが潰れる拍子に破片がソルのところに飛んできて白いアイマスクに当たった。
アイマスクが割れてしまい、ソルの額から少しだけ血が流れ出した。
アイマスクがアパートの屋上に落ちた。と同時に、ギリギリ残っていた四階部分が鉄がひしゃげるような音を立てて、崩れ落ちた。
立ち上がったソルが言った。
「ルナ、これでお前は自由だ!」
ソルの額と拳から血がしたたり落ちていた。
相手の攻撃を可能な限り迅速に察知するため、ルナは全神経を集中させていた。
その時、突然、全ての感覚が研ぎ澄まされていくのをルナは感じた。
それは従来の感覚に戻っただけのはずだが、なぜかこれまで以上に心が澄み渡っていくのを感じた。
そして、どこからともなく、ソルの声が聞こえた。
「ルナ、これでお前は自由だ!」
オル・アティードの虹の波動がさらに強く全方位に広がっていった。
”マラナ・ストリ”本体の揺れがそれまで以上に音を立て始めた。
そして、カウントダウンが終わる。
「2、、、1、、、」
”空を歩く者”が号令をかける。
「撃てーー!!」
だが、それまで以上になぜか射出にディレイがかかった。
そのディレイの後、射出音が機体内に響き渡った。
射出音と共に、イオンビームが何かを破壊しているような大きい音をたてていた。
ソルの声を聞いたルナが機体を全力回避させた。
約300kmまで接近した機体。普通ならその距離から放たれるイオンビームを避けられるはずはなかった。
しかも、回避対象は幅1kmの超高出力イオンビーム。
だが、ルナはハッキングによるディレイからの解放。逆にルナが敵に与えたディレイ。そして、ルナの持つ、宙を飛ぶワインの粒を受け止めるほどの超反応。全方位に反応可能なオル・アティードの機体性能。
全てが重なり、赤い機体はそれまで以上に鋭い動きで回避した。
回避するルナはバンカーミサイルを一つ宙に残して、そこから消え去った。
要塞から超高出力イオンビームが射出される。
内部から放出されたイオンビームは本体の激しい振動からビームを誘導する壁をかすめ、壁の一部をもぎ取っていた。
さらに、要塞外に配置されているイオンビームを屈曲させるための磁力発生機も大きく震えており、うまくイオンビームを曲げられず、イオンビームの熱で爆発した。
イオンビームは深紅の機体がいたところを轟音と共に走っていった。
ビームはルナが宙に残したバンカーミサイルを巻き込み、一つの爆発を生み、彼方へと飛んでいった。
”空を歩く者”がイオンビームの中に大きな爆発を見て、歓喜の声を上げた。
「ついにやったぞ!!”RedDevil”を落としてやった。ふふふふふ、はははははーー!!」
”空を歩く者”は上を向いた顔を戻した。
その時、”空を歩く者”の瞳には赤い悪魔の姿が映っていた。
「なに!!?」
ルナの目が再び赤く染まっていた。
オル・アティードはギリギリのところでイオンビームを躱していた。
そして、再びアサルトユニット、ブースターユニットを要塞の方に向け、イオンビームを放った主砲に向け進行していた。
周囲の防衛用機体が放つ全ての攻撃が赤い機体の放つ虹色の軌跡の上を通り過ぎ、その軌跡に触れる機体はことごとく爆発していった。
「ソルさん、ありがとう!私、やるよ!!」
バンカーバスターミサイルが複数発、オル・アティードから要塞の主砲に向けて放たれた。
”空を歩く者”は完全に混乱の渦の中にいた。
「そんなはずは。。。おれはやったはずだ!!夢か!?そうだ。これは夢なのか!?」
要塞本体を守るため、要塞周囲の小型機体がミサイル撃墜に躍起になっていた。
だが、その機体たちはオル・アティードのガトリングレールガンの的となっていた。
赤い機体は要塞の後ろにすり抜け、さらに加速をし始めた。
その直後、半径10kmほどのボール型要塞”マラナ・ストリ”は主砲の奥、要塞の中心にある高出力S2エネルギー発生器にバンカーバスターミサイルが刺さり、中央から一気に大爆発を起こした。
ルナは、”空を歩く者”の心の中を垣間見た。
財閥の両親から掛けられる重圧。常に心には”やるからには1位でなければ意味がない。”という両親の言葉。
財力をつぎ込み、ランキングを上げ、喜ぶ両親。
だが、何か心に空虚が生まれていることを感じていた。
自分とは何なのだ?という疑念。
両親の築いた財力を使い、両親の喜びのためにやっている?自分は何のために?
このまま、両親の元にいると自分が。。。という想い。
”空を歩く者”にはルナの想いが流れ込む。
両親との葛藤。自分で道を切り開こうと必死にもがき続けるんだという想い。
「最初から負けていたのだな。」
”空を歩く者”がフッと笑った。
ルナは一度味方が進軍している中央の補給艦に戻った。
そして、AI船員に指示を出した。
「レールガン砲弾、小型ミサイル、バンカーバスター、イオン剤、フル充填!よろしく!!」
画面に充填時間が表示される。
(充填まで27秒)
ソルが再び会場に入ってきた。
りょーたろがそれに気づき、拳をつき出した。
ソルがその拳に自分の拳を当てる。
りょーたろがソルの額や拳から血が出ていることに気づいた。
「お前、それ。。。」
「ちょっと力、入りすぎたみたい。」
二人で笑いあい、二人は一緒にルナの方を見た。
その時、ソルとりょーたろの頭に付けている脳神経連結デバイスが微かに虹色に光った。
ルナが充填までの間、コックピットブース内で気を休めていた。
その時、観客席から何かを感じ取った。
ルナはその方向を見た。
会場は暗く、はっきりとは見えてなかったが、なぜだかそこにソルとりょーたろがいることが分かった。
ルナは何か心が解放された感覚を得た。
ソルの自分を思ってくれる気持ち、りょーたろのルナを守ろうとしてくれている気持ちを感じていた。
ルナが装着しているAIの思考信号を送受信するデバイス=JAM-Unitが微かに虹色に光っていた。
(充填完了!)
ルナは再びコックピットブースの操縦桿を握りしめた。
ここからルナのすさまじい快進撃が始まった。
補給艦からオル・アティードを繋ぎ止めていた固定治具が外され、再び宇宙に飛び出した。
ソルとりょーたろはルナのコックピットブースの上の表示を見ようとした。
だが、その必要がないことに気がついた。
まるでルナの視点が見えているような感覚。
りょーたろが視線を逸らさず、ソルに話しかけた。
「おい、お前も見えてるか?」
「うん。見えてるよ。ルナのデバイスってやっぱり、おれたちの脳神経連結デバイスと、、、」
「ああ。きっとそうだ。」
ルナがソル、りょーたろの思いを感じ取ったのと同じように、ソル、りょーたろもルナの心を感じ取った。
大会への思い。両親への思い。特に母親に認めてもらいたいという思い。はっきりとはしていないが、富裕層と貧困層の確執への戸惑い。いろんなものを背負って、あそこに座っているのだと。
ルナは二人の思いを心強く感じながら、戦闘宙域に進行した。
オル・アティードから発せられる虹の波動は少し空間を歪ませるほど強く広がった。
宙域で敵機と会頭した時、ルナは敵機の攻撃意思を感じ取った。
だが、それはいつもと違う感覚だった。
ルナにはそれが安心感のようにも感じた。
そして、ルナはいつもよりも若干時間の流れがゆっくりに感じた。
先ほどまで受けていたディレイの足枷が外れたせいかとも思った。
結果として、敵機からのイオンビームもミサイルもレールガン砲弾さえも何事もないかのように避けることができた。
ルナの操る赤い機体は誰がどう見ても無双状態となっていた。
りょーたろもソルも宙を見るような姿勢で話していた。
「ルナちゃん、いつも以上にキレッキレだな。」
「うん。もう大丈夫そうだ。」
ルナは恐るべき速度で敵旗艦が陣を構えている宙域に進行していった。
ルナの攻め込む方とは逆の方から一機の味方戦闘機が敵陣に攻め込んでいた。
その機体はかなり乱れた飛び方をしつつもなんとか敵機の攻撃を躱していた。
ルナはそれが誰か分かった。
ルナも負けじと敵陣に進行していった。
E国旗艦のAI艦長が指示を飛ばした。
「10、02(ひとまる、まるふた)に敵機!他の機の三倍の速度で接近中!距離1200!!」
「RedDevilだ!第一、第二、第四艦隊、回頭せよ。RedDevil迎撃方向に角度合わせ!!」
「01、11(まるひと、ひとひと)にも敵機!こちらも速い!距離1500!!」
「そっちはひとまず第九艦隊のみで対応せよ。」
E国はRedDevilの存在に気を取られ、高高度側に多くの艦隊を向けた。
相対するZ国旗艦のAI艦長は、E国がRedDevilに注意を向けるはずだと読んでいた。そこで、低高度、つまり地球側から小型戦艦と戦闘機、メタリックステラをE国旗艦に進撃させていた。
5000km以上低高度から接近し、再浮上をすることで哨戒機にも捕捉されておらず、一般重力感知式レーダーの捕捉範囲2000kmを切る直前に小型戦艦、メタリックステラの持つ大口径イオンビーム砲、大型巡航ミサイルを撃ち始めた。
RedDevil側ではなく、地球側の防衛を任された艦隊に対して、イオンビームが襲いかかった。
旗艦の手前にはイオン中和フィールドが最大限張られていたが、敵戦闘機の迎撃のため、前に出てきたメタリックステラや中型戦艦にイオンビームがヒットした。
戦艦は、地球を下面とした座標合わせのために、地球側に攻撃設備のない機体が多く、イオンビームに対する反撃は限定的だった。
「下からだと!第七、第八番艦隊、回頭急げ!!」
「イオン中和フィールド下面展開急げ!!」
地球面で最初に戦闘が開始された。
だが、地球面での戦闘開始から間もなく、上方に向けた艦隊内で爆発が生じ始めた。
深紅の機体が驚くべき速度で虹色の軌跡を描き、戦闘機、メタリックステラを爆破していった。
RedDevilが近づいてくると近づかれた機体はガタガタと振動し始めた。
振動する機体は漏れなく動作の決定にディレイが発生。機体が攻撃を繰り出した時にはすでにRedDevilの姿はそこから消え去っていた。
代わりに目の前にはレールガンの砲弾や小型ミサイルが置かれていた。
RedDevilから200kmほど離れた位置に座する機体からは虹色の線が鋭角に折れ曲がりながら近づいてくる様子が見えた。
その線上には無数の爆発が生まれた。
プレイヤーはまるで震えが自分の中から来ているような感覚を受けた。
敵として相見えた者が口々に言っていた”RedDevil”という言葉。
プレイヤーは体験することで、その表現の正しさを認識した。
RedDevilに差し向けた艦隊の中に発生する爆発。その光によってRedDevilがどこまで侵攻しているのかが認識できた。
ものの1分もしないうちに爆発の光は一つの戦艦にまで達した。
そして、すぐに戦艦自体が爆発した。周囲の戦闘機、メタリックステラも巻き込まれて爆発した。
さらに虹色の軌跡は横の艦隊に飛び移っていった。
そして、また戦艦が爆発。
次々と爆発するその光景を人々は信じることができなかった。
ソル、りょーたろはまだ宙を見るようなカッコで前を向いていた。
歓声に包まれていた会場全体が、RedDevilの進行具合のあまりの異様さに静まり返っていた。
(これが人間の成せる技なのか!?)
全員がその光景を息を飲んで見守っていた。
E国はRedDevilに対して最大限の警戒として3個の艦隊を差し向けた。
にも関わらず、それらの艦隊はものの5分もせず、ほぼ壊滅状態に追い込まれていた。
下側から来たZ国部隊は、E国とほぼ同程度の被害を被りながら進撃を続けていた。
そして、別の角度から進行してきたRedDevilもどきの戦闘機は中型戦艦を一つ破壊していた。
ルナは地球側の戦闘宙域で一機の戦闘機が戦艦を破壊したのを見た。
ルナが思わず、笑みを浮かべて言った。
「やるな!私も負けないよ!!」
周囲が見渡せるほどの余裕をもってルナは進行していた。
戦艦の爆発をすり抜けたアイザック少年が高高度側から声を聞いた。
「やるな!私も負けないよ!!」
それが誰だかアイザック少年も気がついた。
<次回予告>
ソル、りょーたろのおかげでハッキングによるディレイもなくなり、敵国旗艦にまで攻め込んだルナ。
そこに現れたアイザック少年。彼はコロニー3貧困層でルナと共闘したことのある少年であった。
そして、とうとう激しい死闘の結末が!!
その裏で、この大会を賭けの対象としていた者達がいた。その者達が見た者とは?
次回 第43話 ”正体不明の男が現れまして。。。”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




